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小李ちさとさん

面白いと思ったことだけをやりたいのです。 space a:kumoというくくりで、ごそごそ活動しています。

性別 女性
将来の夢 砂漠で死ぬこと。
座右の銘 おれが おれがの がを すてて おかげ おかげの げで くらせ

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拝啓、君へ。

16/01/06 コンテスト(テーマ):第九十九回 時空モノガタリ文学賞 【 失恋 】 コメント:0件 小李ちさと 閲覧数:545

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拝啓、君へ。ずいぶん会っていない君に向けて、初めて手紙を書きます。きっと下手くそな手紙になると思う。でも最後まで読んで欲しい。

季節は今、春です。君の好きだった桜が咲いています。もうすぐしたら散り始めると思う。よくふたりで見に行った桜並木、今年も綺麗です。やっぱり夢のようです。
そうだ、来月にはあの灯台が新しくなります。きっと眩しいくらいの白になる。そうしたら僕、出かけて行って、君の好きだった本を読もうと思います。それからきっと君が好きになるだろう本も。時間をかけて。

そんなふうに僕は過ごしています。元気です。泣いたり笑ったりしています。時々眠れなくなる夜もあるけど、概ね穏やかな夜です。穏やかな朝です。昼間は時々、ちょっと辛いかな。まだ少しだけ。時々ね。
いろんなこと、順調ではないけれど、心配事もあるけれど、大丈夫です。少し背が伸びました。少し痩せました。500gくらい。好きだったバンドがどんどん解散してしまって、でも音楽は辞めない人も多くって、それから再結成したバンドもいくつかあって、それがなんだか救いです。僕らは変わっていける。変わったって続いていける。終わったって始められる。いつでも。どこからでも。

何年になるだろう。君とさよならしてから。いちいち数えることももう出来なくなってしまった。きっと君といた年月より、君のいない年月のほうが長いね。君なしの人生のほうが、きっとずっと長くなっていくね。
それに対してどんな感想を抱いたらいいのか、よく分からない。悲しい気もする。淋しい気もする。虚しい気もする。でも全部が違う気がして、このことについては、ただ空っぽだ。
それでも生きている。死ぬまでずっと生きていく。そうすれば時間と一緒に流れていくものもあって、僕のことを好きだと言ってくれる人もできた。彼女のことをそういう意味で好きだとはまだ言えないけど、少なくとも誠実に応えたいと思った。そう思ったってことは僕が進んだってことで、だから僕はもう、ちゃんと君に失恋しようと思った。それでこの手紙を書いている。
言っている意味、伝わるだろうか。伝わるだろうな。君なら。

いつでも前に進んでいいんだって、いつだったか君は僕に言った。それは僕にとってとても怖いことでした。進んでしまったら、後ろに過ぎてしまったものはどうなるのだろう。なくなってしまうのか。忘れてしまうのか。消えてしまうのか。分からなくて、そうなるのが怖くて、進めなかった。でも時間なんてものは勝手に進んでしまうんだ。
なくなったものも忘れたものも消えたものも、たぶんたくさんあった。今ではそのことさえ思い出せないほど。
でも君のことは、過ぎてしまってもなくならない。どんなに進んでも消えない。僕の中にはずっと君がいる。ずっとそのままで。僕たちこんなに離れてしまったのに、君はまだこんなに、傍にいるんだね。
それが嬉しい。心から。ありがとうとしか言えない。ありがとう、ずっと傍にいてくれて。もう大丈夫だよ。大丈夫じゃなくても、大丈夫にできるよ。大丈夫。

こんな僕でも、きっと進める。またひとつずつ何かを重ねていく。時々は崩れるかもしれない。でもまた積み上げていく。丁寧に。
そんなふうに生きていけたらいいと思う。何も残らなくても、僕の満足感だけは残るように。何も残せないからこそ、僕の喜びだけは抱えてゆけるように。そういうふうになりたい。
思えば君はいつもそんなことを、僕に伝えようとしてくれていたね。今になってやっと、その愛情が分かりました。僕は馬鹿ですね。
いつか君がくれた言葉を、まだ支えのように持ち続けています。武器のように。防具のように。僕自身として。これからもそうでしょう。支えを少しずつ増やして、僕はようやく立てるのでしょう。いなくなったからといって、それが僕を救ってくれることに代わりはないのですね。

君からもらったメール、まだ消せずにいます。もう何台も携帯を替えたのに、君のメールが詰まった携帯は捨てられない。読み返すことだってほとんどないのに、お守りのようにずっと持ち続けています。
君からのメールなんて、覚えてしまうほど何度も読み返したのにね。消せないものなんだね。

そういえばこの間届いたスパムメール、使っている顔文字が君のとおんなじでした。よく使ってるあの顔。胸がいっぱいになって、思わず返信してしまいそうになった。それだけ。くだらないかな。ごめんね。

ここまで読んでくれてありがとう。やっぱり支離滅裂になってしまった。それでも君になら伝わったよね。

この手紙は、宛名のないままポストに託します。どこに出しても、君にはもう届かないから。海辺の丸いポストの中で、いつまでも眠り続けるといいと思う。波の音を聞きながら、ずっとずっと、穏やかに。

ありがとう。好きでした。大好きでした。


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