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郷田三郎さん

どうも、郷田三郎です。 (本名ではありませんが。。。) 細々と活動しています。 とりあえずちょっと外した話しを書きたいと考えています。 今のところ仕事が忙しいので、時々には投稿したいと考えています。

性別 男性
将来の夢 楽して暮らしたい
座右の銘 明日は明日の風が吹く

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ともだち

12/08/18 コンテスト(テーマ):【 プール 】 コメント:6件 郷田三郎 閲覧数:1812

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 眠れなかったので中学校のプールに忍び込んだ。
 中学校の周りは工場などが多い地区で夜中になると人通りは殆ど無い。
 夏休みに入っていたけれども、水泳部が毎日使っているので、浄化装置が効いていて水はキレイだ。僕は着ていたTシャツを脱いで飛び込んだ。水着は家から履いてきていた。
 夜のせいだろうか。水が冷たく感じる。時々行く公営プールなどは小学生が夜店のスーパーボール掬いの様にひしめき合い、水がぬるく濁っていてガキ供の小便の中を漂っている様な気になる。それに比べれば多少、塩素臭がきついものの満月の光が射す中学校のプールは透明度が高く静寂で清潔な気がした。
 六月に入ってから虐めの標的が僕に代わった。それまで標的だったヤツが学校に来なくなったからだ。何故虐められるのかと深く考えてみたけどさっぱり解らなかった。
 結局、明確な理由なんて無いのだろう。中学校の教室には虐めを受けるニンゲンが必要なのだ。僕はそんな事を考えながら明るいプールの水の中を潜水で往復する。

 水泳は得意だった。小学六年までスイミング・クラブに通っていたのだ。そうだ、水泳の時間に虐めの首謀者を溺れさせるというのも良いかも知れない。首謀者は運動神経は良いものの、水泳の時間に見た限りでは泳ぎは得意では無い様だった。
 そんな事を考えながら水中を漂っていると、視界の端を何かが横切った様な気がした。

 僕は慌てて水から顔を出して水面を見回した。殆ど波も立っていない水面を確認した後に、深く息を吸い込んでまた沈む。見回してみたけど何も見えない。庇の影の部分は真っ暗なので、そこが怪しいかと、一旦プールサイドに上がってそちらに行って見た。
 錯覚だったのだろうか。僕は気を取り直してもう一度水に入る。
 今度は得意のクロールで泳いでみた。出来るだけ音は立てないようにした。スピードは出ないけどすべる様に滑らかに泳げているなと思い、気持ちが良かった。

 すると突然、背中を叩かれた。僕は驚いて少し水を飲んでしまった。
 水の中に立つと、きっちりと学校指定のスイミング・キャップを被った男子が笑顔を向けていた。
「ねぇ、君泳ぐの上手いね。僕、土田和人」その男子は言い手を差し出してきた。
「僕は田中」気が進まなかったけどその手を握り返した。握った手はお互いに水の温度になっていた。
「ねえ、僕に泳ぎを教えてよ。夏休みが終わるまでに上手くなりたいんだ」土田君は僕の手を離さなかった。うんと言わないと手を離さない様な気がして僕は仕方なく頷いた。
「僕ねもぐりは得意なの。でも、普通に泳ごうとすると進まないんだ。ほら」と言って土田君は水に潜るとイルカの様に移動してプールの端から顔を出した。そして、水面を平泳ぎの様なモノで戻って来ようとした。確かに、不恰好な手足の動きは全然様になっていなくて、溺れている様にも見えた。
 僕は平泳ぎで近づいて行って土田君の肩を叩いた。
「土田君ホントに下手だね」僕はその時心から同情していた。「平泳ぎで良ければ教えるよ。たぶん今よりはマシになる」土田君はそれで良いと嬉しそうに頷いた。

 土田君は少し教えただけでコツを掴んだ様だった。あれだけ潜水ができるならこれぐらいは出来て当り前という気がした。もしかして僕は担がれているのかと疑った程だった。
 僕は一人で練習をする土田君から離れて一人で泳いでいた。すると突然、土田君が泳いでいる僕の下に現れた。仰向けの体勢で潜水しているのだ。僕は驚いてまた少し水を飲んでしまった。
「何だよ! びっくりさせるなよ」僕は少し声を荒げた。
「ごめん。でもちゃんと話しを聴いてくれて嬉しかったんだ。今までも夜中に忍び込んで来る人達はいたけど皆声を掛ける前に逃げちゃうんだ」土田君は憶えたての平泳ぎで僕の周りをくるくると回った。僕は心の中に少し引っ掛かるものを感じた。
「ねえ田中君。僕のともだちになってよ」土田君の手が僕の肩を掴んだ。

 ともだちになってよ。そう言いながらしがみ付かれるともう二度と水面には浮かび上がれないんだって……。
 教室の片隅で女子が話しをしていたのを聞いたんだったっけ。

「やめてくれ!」僕は土田君の腕を振り解いて急いで上がろうとした。しかし、懸命に手足を動かしても少しも前には進まない。それどころか水の下の方から伸ばした土田君の両手が僕の肩を掴んでいてそのまま水の底に沈んで行く様だ。
 僕と向き合う土田君はひどく嬉しそうで、僕はなんだかそんなに深刻な状況なんかじゃないのではないかとも思えた。しかも、もう随分呼吸をしていないのに全然苦しくない。
 不思議といくら沈んで行ってもプールの底に着きそうな気がしなかった。ああそうか僕はここで生きてゆくんだなと思った。
 そしてここならあの虐めの首謀者ともともだちになれる様な気がした。


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このストーリーに関するコメント

12/08/19 草愛やし美

悲しいお話ですね。土田くんもう寂しくないですね。田中君、苛めた子も仲間に……怖いけれど、そこまで思わせる苛め自体を考えなくてはいけないと思いました。
旦那の実話ですが、中学時代苛められてた子に卒業後に会ったら、893さんなっていたそうで、「苛めた奴に仕返ししたろ思うて強くなったんや」と言ったそうです。旦那は複雑な思いだったようですが、苛めは根が深いので、苛められた方はいつまでも忘れないと思います。

12/08/19 郷田三郎

草藍様 コメントありがとうございます。
作者としては恐い話しを書きたかったのですが、書いた私にも今ひとつピンと来ないものになってしまった気がします。一旦書き上がった時に2900文字くらい有ったのを削ってしまったのも失敗だったかも。
旦那さんの実話の件。すごいですね。そうなると虐めた方も後後恐い思いをする事になったのでしょうか?
ってか、そのネタで一本書けそうですね。

12/08/20 泡沫恋歌

郷田三郎さま、拝読しました。

そう、最後は水底に沈んで逝っちゃうんですね?
そして、もうこの世に戻って来れない。

だけど、毎日々虐めを受けるなら、主人公にとってもその方が楽かも?
虐め……嫌ですね! 本当に許し難いことです。
そういうことをする人間はいずれ天罰を受けると信じたいです。

12/08/21 そらの珊瑚

郷田三郎さん、拝読しました。

プールに住んでいる土田くんに、無邪気な狂気みたいなものを感じました。
悪意はなくて、友達になりたかっただけなのでしょう。

12/08/22 郷田三郎

こんばんは。お三方様、コメントありがとうございました。

泡沫恋歌様
 そうです。しかも失踪状態になって死体も上がらないんです。
 苦しむ事にしようか、そうでなくしようかと迷った末にこんな感じに。
 まあ書くのが楽だったからなんですけど。
 虐めは、いじめっ子世に憚るって言いますから、大抵はそのままの人生なんじゃないかって気がします。
 強気な人がやっぱり強いじゃないかぁ。悲しいですけど。

リビド・アナキリ様
 私の場合は醍醐味というより苦悶の方が多いですね。
 折角書いたのを削るのはやはり忍びない。まあ元の方も当然残しててどこかにUPするべく、書きなおしてますけどね。
 削るのはなかなか難しいです。ダイエットみたいなモンか?

そらの珊瑚様
 そうそう。土田君には悪意は無いのです。ただ、人の都合は考えないだけ。
 自分勝手な人も結構怖いですよね。
 でも、田中君は悪意で溺れさせるかも知れませんね。うんと苦しめて。。。
 そっちを書けばよかったか!?

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