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霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

性別 男性
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全部ぶち壊せ!

16/01/04 コンテスト(テーマ):第九十八回 時空モノガタリ文学賞 【 革命 】 コメント:9件 霜月秋介 閲覧数:2225

時空モノガタリからの選評

「特別欲しいものは何も無い。知りたいこともない」という毎日を、ただ「消費」している「僕」。そこへある日突然現れた「巨大なハンマーの男」。壊されて行く日常……。確かに我々は、必要以上のモノに囲まれて生きているが故に、逆にそれらに依存、支配されて生きているのかもしれません。「今までこだわってきたものなにもかも」が徹底的に全否定された時、我々は新たな自己認識を持つに至るのかもしれませんね。突然の出来事に動揺しつつも、現実の世界の起こったそのアクシデントを「僕」が受け入れ、むしろ感謝していくプロセスも興味深く感じられました。別の見方をすれば、「ハンマーの男」は「僕」の中の、変化を望む側面が、自分の外側に具現化されたものであるとも言えるのかな、とも思いました。いずれにせよ突然の襲撃を、自分を変えてくれるものと、ポジティブに捉えられたことは、良かったと思います。ネットや手軽に入る情報を捨てた時、我々には何が残るののか、といろいろ考えさせられる作品でした。

時空モノガタリK

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 消費している。僕はただ、毎日を消費して生きている。特別欲しいものは何も無い。知りたいこともない。そんなもの、あってもネットで検索すればすぐわかる。
 ぬるま湯に延々とつかっているような毎日だった。体温が、お湯の温度と共に熱を加えられることも無く段々と下がってゆく。そんな日々を、これから何十日も何十年も過ごしていかねばならない。そう思って窓の外の景色を覗いていると、突然、その男は現れた。
 身長百九十センチくらいはあるだろう。その男は自分の身丈ほどある巨大な鉄製のハンマーを持っていた。そしてその男はそのハンマーで突然、アパートの僕の部屋の窓を叩き割って、中に進入してきた。そして入ってくるなり、僕の部屋の片隅に置いてある二十四インチの液晶テレビの上に、ハンマーを振り下ろした。激しい音と共にガラスの破片が飛び散る。テレビを破壊し終えると次に男は、ハンマーで僕の机の上にあるパソコンやスマートフォンを叩き潰した。更に男は机のそばにある本棚を壊し始めた。本棚には、僕が今まで集めてきた長編漫画『ジャジャの微妙な冒険』の単行本がぎっしりと収められている。それがハンマーで本棚ごと、叩き潰された。ハンマーで殴るだけではない。素手で本をご丁寧に一冊破ってはまた一冊破り、これもまた原型を留めぬほどまで破壊された。壁に張ってあるアイドルのポスターも粉々になるまで引きちぎられ、壁にかけてある時計や机の上のフィギュア、そしてベッドまでもハンマーで叩き潰された。お気に入りのアーティストのCDもひとつ残らず粉々にされ、男は僕の大事にしていたありとあらゆるものを容赦なく破壊していった。その男の行動はどこか、ロックミュージシャンのライブで目にする、楽器を破壊しまくるあのパフォーマンスを思わせる。狂気。バイオレンス。部屋のものを次々に破壊していくその男の行動はまさにそれだ。
 男の持つ巨大なハンマーに圧倒され、僕に男の暴動を止めることはできなかった。あまりに突然の出来事。まるで現実性が無い。目の前で今、何が起きているのかが理解しがたい。僕の部屋を荒らすだけ荒らすと、その男はニヤリと笑い、窓から去っていった。部屋にあるもので原型を留めているのはなにひとつ無い。あるとすればそれは僕自身の体。しかしそれは見た目だけだ。無傷なのは外見だけ。僕自身の内部は、その男が来る以前から、壊れつつあったのかもしれない。
 安定した、しかし何かが欠如した僕の生活の中に突然姿を現した巨大なハンマーの男。その男は僕が今までこだわってきたものなにもかも、全否定するかのように叩き壊していった。
 その男に盗まれたものは無かったが、すべてを壊された。警察の捜査後、僕は部屋を片付けた。すべてがゴミになった。僕の部屋には何もなくなった。
 パソコンもスマートフォンも使えない。テレビも観れない。新しい情報を入手することが出来なくなった。何もすることが無い。何もできない。部屋のエアコンもあの男に壊されたので、部屋は寒い。
 仕方が無いので、僕は外に出た。とりあえずどこか、暖をとれる場所を求めて。
 デパートや本屋を行き来した。普段僕は部屋にこもりっきりでパソコンやスマートフォンばかり見ていて、こんな風に出歩くようなことはあまりなかった。僕の頭の中で何かが動いている。こんな感覚はいつ以来だろうか。頭の中で、革命軍が大暴れしている。そんな気がした。
 今まで、自分がどれだけ贅沢をしていたのかがわかる。すべて失ってみて、本当に必要なものがわかる。今まで僕は、便利なものに頼ってばかりで、自分自身の力で物事を成すことなどいつのまにか出来なくなっていた。毎日機械ごしに入ってくる情報。なにもかもがあって当たり前の生活。いつのまにか僕はぬるま湯に浸かり過ぎて出られなくなっていたのだ。
 数日後、あのハンマー男は警察に逮捕された。「ムシャクシャしてやった」とありきたりなことを供述していたらしい。しかし僕はその男に感謝している。その男のおかげで、冷める一方だったぬるま湯に再び熱を加えられ、そこから僕は脱出できた。そして自分自身を客観的に見つめる機会も得られた。あの男は僕にとって、僕内部の革命者だったのかもしれない。 


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このストーリーに関するコメント

16/01/06 泡沫恋歌

霜月 秋介 様

明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくO┓ペコリ

この話を読んで、家に引きこもってるニートの部屋でやったら、きっと彼らも仕方なく外に出てくるんだろうなぁ〜と思った。
それで主人公も外に出る羽目になって、自分の心の中で革命が起こせたんだもの。
物に執着してばかりだと前に進めないから、壊れることも場合によってはイイことかもしれませんね。
謎の男の壊しっぷりにスカッとしました(❃´◡`❃)

16/01/10 滝沢朱音

わわ、鉄製のハンマーを持った百九十センチの男、実在というオチだったとは〜!!
意表を突かれました。それは怖すぎますよね…((((;゚Д゚))))
でも、主人公にとっては革命の恩人となったのなら、よかったよかった?!

16/01/11 そらの珊瑚

霜月 秋介さん、拝読しました。

現代人は知らず知らずの間に、ネット依存性かもしれません。
人間がそれを生み出し、使っているはずなのに、実は人間が支配されている、どこか主客転倒してしまった怖さを感じる時があります。
ぬるま湯は居心地がよいから、なかなか出られないだろうし、破壊という
いっけん負の力は、強大な革命であり、
そこから新たに生き直すきっかけになることを考えたら、ハンマー男に感謝かもしれませんね。

16/01/11 冬垣ひなた

霜月秋介さん、拝読しました。

ぬるま湯につかる人生は楽なのかもしれないけれど、主人公はずっと革命を待ち望んでいたのでしょうね。
本来身一つあれば何かなるはずなのに、私たちは何故こうも多くの物に支配されているのでしょうか。
ハンマー男がそこへ至るまでに何があったのかはすごく気になりますが、
破壊とは、心の解放でもあるのだなと思いました。

16/01/12 霜月秋介

コメント有難うございます。

泡沫恋歌さん
そうですよね。物が壊れるというのはマイナスに見られますが、壊れたことによってその対策を練るために能動的になる。その点はプラスですね。

滝沢朱音さん
巨大なハンマーを操るわけですから、常人離れした体格が要求され、こうなりました。目の前で自分の大事なものをごつい不審者にいきなり壊されるのは恐怖ですよね。

そらの珊瑚さん
たしかに、現代人のネット依存性は深刻な問題ですね。しかしネットが無ければこうして、時空モノガタリさんも生まれなかったし、作者様達に巡り会うことも無かったですね。しかしネット使用は必要最低限に抑えたいものです。

冬垣ひなたさん
平穏なのは勿論悪いことでは無いのですが、そんな暮らしをしていると刺激が無くなり、能動的な行動、思考ができなくなります。自分を変えたいと思うなら、失う覚悟も必要なのかもしれませんね。

16/01/19 光石七

拝読しました。
ぬるま湯のような生活、自分のことを言われているようでドキリとしました。
確かに外的な力が加わらないと、自分で変えるのはなかなか難しいですね。
でも、実際に我が家にハンマー男が現れて全部滅茶苦茶にされたら……嫌だろうなあ(苦笑) 命の危険を感じて、それどころじゃない可能性もありますが。
このお話を一つのハンマーとして、私も少し変わる努力をしたいです。

16/01/30 ヤマザキ

拝読しました。
尻に火がつくとはまさにこのことですね。
シンプルながらも考えさせられる内容でした。

16/02/01 霜月秋介

光石七さん、コメントありがとうございます。

この掌編は一言でいうなら【強制的断捨離】ですね。
変わる努力をしたい…ですか。そのように思っていただけたなら、書いてよかったです。嬉しいです。


ヤマザキさん、コメントありがとうございます。

尻に火がつく…!まさにそうですね。動かざるを得ない状況になり、ようやく主人公は動き出しました。

16/04/21 犬飼根古太

霜月秋介さん、拝読しました。
冒頭から一気に引き込まれる展開で大変面白かったです。
ハンマー男に深い動機があるのかと思っていたら、「ムシャクシャしてやった」の一言。ここも痛快で、作品が一層面白く感じられました。

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