四島トイさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

3

四人

16/01/04 コンテスト(テーマ):第九十八回 時空モノガタリ文学賞 【 革命 】 コメント:4件 四島トイ 閲覧数:1008

時空モノガタリからの選評

「色もカタチも違うけれど」一緒に暮す4人の友情が、繊細に淡白に且つしっかりと描かれていますね。「革命」というテーマということで、劇的なストーリーの作品が多い中、異色の繊細な作風が新鮮でした。彼女達の関係性を「革命」の4枚のカードに象徴的に託すという表現も、上手いなと思います。主人公の「四人でいれば世界はいつでもぐるりとひっくり返せる」という自信と、「カードがバラバラになったら」という不安感の間で揺れ動く気持ちが、4枚のカードに託されているところがいいですね。彼女達がことさらに大げさに友情を口にするのでもなく、ごく当たり前の日常の中に垣間見える静かだけれども確かにそこにある絆が感じられました。フワッとしているけれど、主人公の感じている同居人達への感情がリアリティを持って読み手に伝わってくるような作品だと思います。

時空モノガタリK

この作品を評価する

 平沢みずほからのガラガラに干乾びた声の電話だった。
 この世の果てから着信したような不吉さが滲み、思わず受話器を遠ざける。そのあまりの鮮明さに携帯電話の高性能さが恨めしかった。
 ひとみちゃあん、と泣き腫らした声がする。
「……どうしたの。同棲中の彼にでも夜逃げされた?」
「なんでわかるのお……」
「うんうん。大変だった。平沢は悪くないから。ウチに来な。話はそれからね」
 なんか対応が事務的だよお、とぐしゅぐしゅ鼻を啜り上げる。それでも、すぐ行くね、と言って通話は終了した。
 ふうっと息を吐いて顔を上げると、リビングでテレビを見ていた恩田千沙と中原文がこちらを振り返って苦笑していた。
「みずほ、戻ってくるの?」
「多分、ね。とにかく夕飯は四人ってことで」
「瞳さんが料理当番の日で良かった。みずほちゃん、あたしの料理すぐ辛いっていうもん」
「いや、中原のは辛いよ」
「うん。私もフミのは辛いと思うけどね」
 両先輩方の後輩いびりが厳しい、と中原文が三角座りで身を縮める。その肩を指でついて笑う恩田千沙を眺めながら、結局こうなるのか、という思いが胸に湧いた。


 これまでの私の人生で親友を作ることができた例は、ない。別にそれで困ったことも、哀しんだこともないのだが、これを言うと、ぼっちの強がりだと揶揄されることは目に見えていたので口に出したことはない。
 大学に入学して、同じ研究室となった恩田千沙に出会うまでは。
「そんなもん私もないよ」
 梅雨入り前の五月の空を見上げながら、雲を付け足すように煙草の煙を吐く彼女はそう言って笑った。その横顔を見ていると耳元で、私と彼女の歯車がカチリと噛み合った音が聞こえたような気がした。
 予感は的中し、夏前にはルームシェアをするようになっていた。
 二年の夏になって中原文と出会った。恩田千沙と同じバイト先で、私達の一年後輩であった彼女とも、どこか近しいものを感じた。
「先輩方は二人暮らしなんですよね。いいなあ。私も混ざりたい」
 屈託なく笑う彼女に、じゃあ一緒に暮らそうか、と声をかけることができたのもそのせいかもしれない。
 だが彼女はそれを幾分かの遠慮を持って断り、私の胸中には歯車がはまり損ねたようなモヤモヤ感がしばらく渦巻いていた。
 そのモヤモヤを解消するきっかけとなったのが、秋になって出会った平沢みずほだった。中原文の同期で、強引な部活勧誘を彼女に救ってもらったという。押しに弱い女子であった。
 アイスティのストローを指で弄りながら、自立したいんですけど、と彼女は呟いた。
「実家を出なきゃとも思うんですけど。貯金もないし。親に迷惑かけられないし」
 じゃあ一緒に暮らそうか、と私はまた言った。恩田千沙が、皆で一軒家でも借りようか、と大風呂敷を広げ、私それがいいです、と平沢みずほが前のめりに同意し、じゃあ私も、と中原文が遅れじと立ち上がったところで、私は再び歯車のはまる音がした。
 結局、全員が卒業するまで一軒家の夢は叶わなかったけれど、私達は一緒に暮らすことになった。
 色もカタチも違うけれど、私達はどうしてか似通っていたのだと、思う。


「今度の彼氏はマシだと思ったんだけどね」
「一か月で出戻りは最短記録だ」
「みずほちゃん男運ないから」
「もっと慰めてよお」
 卓上の鍋は既に空になり、お腹の皮は打楽器の如くパンパンに張り、天井には湿った空気がたゆたっていた。
 中原文がトランプをやろうと卓上の隙間を縫うようにカードを配り始めた。
「負けた人がお片付け係ということで。大富豪でいいですよね」
「ルールは」
「とりあえず八切り、階段、縛り、革命で」
 少女漫画の月刊誌の付録だというそれを指でこすった。ただの厚紙に可愛らしいキャラクターが印刷された小さなカード。
 革命しちゃうよ革命、冷酒を注いだグラス片手に恩田千沙が嘯いた。
「出すカードには注意しなよ」
「ちーさん牽制はずるいですよ」
「そんな簡単に革命なんてできないよお」
 ふと言葉が耳元に残る。
 何だか似ている、という思いが胸に湧く。
 四人でいれば世界はいつでもぐるりとひっくり返せる。そんな自信がどこかにある。
 でも、と思う。
 四人じゃなかったら、と誰かが問いかける。
 カードがバラバラになったらどうするのだ、と。
 不意に首筋に氷嚢をあてがうような冷たさが私をドキリとさせる。
 パン、と勢いよく卓上に出された四枚のカードに、意識が引き戻される。向かいの席で恩田千沙が得意気に微笑んでいた。
「トランプを四枚揃える程度のことでしょ。楽勝楽勝」
 うわあ、とか、ええ、とぼやく後輩達の声を少し遠くに感じながら、私は己の手の内を見つめた。なるほど確かに。口元が少し綻ぶのを感じた。
 楽勝か、と呟いて私もまた四枚のカードを引き抜いた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/01/07 つつい つつ

 もし、四人じゃなかったらと揺れる気持ちが繊細でリアルで心の風景みたいなものが感じられて良かったです。

16/01/09 四島トイ

>つつい つつ様
 読んでくださった上にコメントまでありがとうございます!
 個人的なリハビリを兼ねて書いたものなので掴みようのない作品になってしまったと公開する部分もあるのですが、良かったと言っていただけたことが殊更嬉しいです。
 本当にありがとうございました。

16/01/19 光石七

拝読しました。
大富豪の革命と四人の関係性との絡め方が素晴らしいと思いました。
揃えば最強、でも個々は弱くて、結びつきも脆さを孕んでる。
大きな事件が起こるわけではないけれど、何気ない一コマが繊細に描かれていて、とても魅力的なお話でした。
素敵なお話をありがとうございます!

16/01/20 四島トイ

>光石七様
 読んでくださってありがとうございます! コメントも大変ありがたいです。
 私には書き切れなかった部分を汲み取ってくださりありがたい限りです。魅力的といっていただけたこそばゆさに顔から火を吹きそうです。
 光石七様のように積極的にコメントできるよう私も努力します。今回は本当にありがとうございました。

ログイン
アドセンス