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クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

性別
将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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顔で笑って心で泣ければ苦労はないから泣かせてよ

15/12/27 コンテスト(テーマ):第九十九回 時空モノガタリ文学賞 【 失恋 】 コメント:7件 クナリ 閲覧数:1340

時空モノガタリからの選評

まるで落語を聞いているかのような軽妙さと漫画のような描写のあわさった楽しい作品ですね。とりわけ友達の恋を応援しようとする純真さと、必死で自分を保とうとする強さを併せ持つ、主人公のキャラクターが魅力的でした。
 また「とある生理現象」という表現がなんとも印象的です。ミスリード的な手法で読み手を引き込んでいく展開がうまいと思いますし、その言葉使いに、自らの感情を対象化しようとするかのような主人公の姿勢が感じられました。悲しみにどっぷり浸かって見せるのではなく、道化に徹しようとする健気な姿が、かえって彼女の隠された悲しみを感じさせていると思います。
色々な文体の作品に取り組まれているクナリさんの姿勢もとても印象的でした。


時空モノガタリK

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 たったったっ
 ガラガラ
 ばたん

 あれ、部長いたんですか。ちっ。
「ちって。お前こそ、花の女子高生が終業式の放課後に、文芸部の部室なんて来るんじゃねえよ」
 普段幽霊部員なものですから、人のいない時くらいは顔を出そうかと。
「いや普段来いそれは」
 いやー、冬休みですねえ。イベント色々ですよ。
「まあなー。俺は受験勉強づけだけど」
 ほうほう、本当ですかねえ。まあ、かくいう私もやるせない季節なんですが。
「なんで」
 失恋しまして。
「へえ……相手って、同じ文芸部の奴か?」
 なぜそれを。
「一本足で飛び上がるほど驚くか。だってほら、誤解を恐れず言うけどよ、お前って部活以外じゃ彼氏はおろか女友達もほとんどいねえってじゃんか」
 今の言葉のどこにどう誤解の余地があったか分かりませんが、まあそうですね。ええそうですとも。
「唾を吐くな唾を。でもまあそうか……文芸部員でお前と同じクラスの高橋、彼女出来たワーイとか言って飛び跳ねてたってな」
 正確には、『彼女出来たーそこらへんのちんくしゃじゃなくてちょっと無理目だと思ってた高嶺の花ゲットだぜイエスイエスウェルコメワンダフルウィンターワーイワーイサンタ上等!』です。
「……口語って、文章に起こすと馬鹿っぽいよな」
 高橋は確実に馬鹿ですけどね。私の中では、もはやプランクトンと同列です。
「そこまで」
 アオミドロとか。
「植物系なのか」
 草食とかではなく、脳味噌ない、的な意味で。
「と、棘あるなー」
 人は夏に出会い冬に別れると言いますが、冬だからこそ燃え上がることもあるのでしょう。
「何キャラだお前は。……俺はお前のクラスのユミコと別れたの、夏休みの少し前だったな」
 あの時は、複雑でした。
「ユミコも気丈だから、部活はやめずに毎日ここに来て俺と顔合わせてたもんな。あの頃はお前もまだよく部室に来てたから、間近で見てりゃ複雑だわなあ」
 ユミコとは幼馴染で、貴重な友達なのです。
「悪いことしたよ。何でも言うこと聞いてやろうとして、それがでかえって傷つけてた」
 仕方ありませんよ。女に磨かれたこともない未使用男に、ひとつふたつ年上だからというだけで臨機応変な包容力を求めるユミコも、やはり酷だったのです。
「ねえ、俺お前に何かしたっけ」
 好かれてると思ってたんですか?
「いや全然」
 ですよねえ。よく分かります。……ウッ。
「どうした?」
 すみません、実はさっきから我慢していたんですが、とある生理現象が限界のようです。
「マジで」
 ええ。
「長話してる間に、冷えちまったかな。部室寒いもんな」
 実はもともと、その生理現象を解き放つために部室に来たんですけどね。
「ぶ……部室で!?」
 ええ。
「今までにも?」
 いえ、今回が初めての試みです。
「何で部室?」
 誰もいないと思ったもんですから。トイレだと、他に人がいるかもしれないでしょう。聞かれたら恥ずかしいですし。
「あ、なるほどーってなるか! ダメ絶対、部室では金輪際禁止! 俺ももう帰るから、お前も行けよ」
 はい。アヒイ。オウフ。あ、だめもう決壊しそう。ウープス。
「が、頑張れ! でも、もしこの後床が濡れてたりしても、俺はちゃんと見ない振りするから心配するな!」
 ぜひお願いします。廊下に多少滴が落ちていても、全くもって無かったことにして下さい。
「もちろんだ。早く行け今行けすぐ行け」
 あ、最後にひとつだけ。
「おう?」
 ユミコとよりが戻ったんですってね。昨日、ユミコから聞きました。
「あ、ああまあな。サンキュ」
 おめでとうございます。クリスマスでひと燃えしたら、お正月を経て、すぐにバレンタインですね。ビバ☆ベストタイミング。
「☆とか言われても」
 受験勉強なんかできるのかーこのーこのー♪
「あまつさえ♪とか言われても。でも、お前もユミコを後押ししてくれたらしいな」
 もちろんです。他ならぬと言うか地上ただ一人しかいない友達と、大切な部長の、幸福のためですから。
「今、そこはかとなく悲しいこと言わなかったか」
 悲しいですよ。物凄く悲しいに決まってるじゃないですか。だからこんなに悲しそうな顔をしているでしょう。
「おお。すげえな、爪の間に棘が刺さったマントヒヒみてえ」
 私の表情筋は、言葉と違って正直なのです。
「てっきり、生理現象のせいかと思ったよ」
 それもあります。
「あるのか」
 多分に。
「多分に」
 さて十。九。八……
「おいそれ何のカウントダウ」
 ろーく、ごー、よーん、
「はよ行けえええええ!!!」
 ハーイ。それでは部長さよなら、さよなら部長。
「何で二回言う」
 大事なことだからです。ではバーイ。

 ガラガラ さーん
 ばたん にーい
 たったったっ いーち

 うわああああああん。


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このストーリーに関するコメント

16/01/10 冬垣ひなた

クナリさん、拝読しました。

ハイテンションなノリの軽妙な流れで、ラストに「ああそうだったのか」って、具体的な記述のない分ぐっと惹きつけられました。
鈍感な部長に妙な誤解されても、友人のためにこらえる切ないオンナゴコロ。
恋した分だけ磨かれた彼女にも、幸せが見つかりますように。

16/01/11 泉 鳴巳

拝読致しました。
ラストについてはテーマがあれなので(そういうことなんだろうな)とは思いましたが、気丈に振る舞う様子の描写に臨場感が有り、また「生理現象を解き放つために」という部分を読み返し大変切ない気持ちになりました。テーマにピッタリの作品でした。

16/01/12 クナリ

冬垣ひなたさん>
会話だけで進んで行く話って好きなので、自分でもやってみたいとは常々思っているんですが、いざやってみると難しいですね(^^;)。
言葉のテンポとか、状況の説明とか、うまい人はすごいなーと。
それにしても、失恋して終わる話は書いていて切ないッ…。
コメント、ありがとうございました!

泉鳴巳さん>
一応前半で引っ掛けのために他の男の子の名前を出してみたりしましたが、無駄な足掻きでしたね(^^;)。
鈍感な先輩よりも、読み手様をだますほうがずっと難しいですね〜。
生理現象は、「いや全然」で耐えられなくなるタイミングで始められたので、うまく入れられたかなと思いましたッ。
「失恋そのもの」を書こうとすると、どうしても暗く切なくなりそうなので、こんな仕上がりになりました(^^;)。

16/01/24 光石七

面白い主人公だなと思いながら読み進めていましたが、そういうことだったんですね。嗚呼、なんて切ない……
部長の前だから敢えてピエロを演じ、でもやっぱり心は限界で。最後の一文は正に「生理現象」だと思います。
いつか主人公にも幸せが訪れますように。
素敵なお話をありがとうございます!

16/01/24 クナリ

光石七さん>
全開でしょうもないものを作ろう…とか思って書き始めたのですが、意外にしょうもない会話というのは文字数を食うものだということが最近ひしひしと分かって来まして、その中で四苦八苦しながら書いています(^^;)。
特に女子のキャラクタは、突飛な方が書いていて楽しいですが、それなりに見るところのある人物性じゃないと読んでいてつらいでしょうし。
コメディ性の高い掌編は個人的に好きなので、これからもなるべくこの分野での成長を手に入れたいものです。
コメント、ありがとうございました!

16/02/16 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

前にコントのシナリオ風のものを読ませていただいたと記憶してますが
さらにパワーアップしていて、面白さよりもなんだか切なさのほうが余韻に残りました。
面白かったです。

16/02/19 クナリ

そらの珊瑚さん>
テンポよく分かりやすい会話でコメディをやるというのは以前からの欲求でして。
もっと完成度を高められたら良いんですが。
漫才やコントの台本が書ける人はすごいですよね…。
会話が面白いということはたぶん話している登場人物自体にもある程度の魅力があるということだと思うので、それをどう構築するか、難しいテーマです。
コメント、ありがとうございました!

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