1. トップページ
  2. 気づかぬ幸福

霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 不言実行

投稿済みの作品

3

気づかぬ幸福

15/12/15 コンテスト(テーマ):第九十七回 時空モノガタリ文学賞 【 他山の石 】 コメント:4件 霜月秋介 閲覧数:1182

この作品を評価する

 もうすぐ今年が終わる。今年の流行語大賞が決まり、紅白の司会も出場歌手も決まった。テレビのニュースキャスターが「今年も残すところあと○○日です」とあせらせてくる。時の流れは無情である。
 こんな筈では無かった。今年は去年よりももっと、充実した日々を送る筈だったのに、いったい僕は今年、何をしていたのだろう。家と職場の行き来が常。休日は昼まで寝て、午後を呆けて過ごしているうちに夜になり、休日が終わる。遊びに歩かないぶんお金は貯まるのかも知れないが、刺激の無い平凡な日々には嫌気がさしていた。
 このままではいけないと思っていても、思うだけで何も実行に移せずにいた。歩き慣れた道ばかりぐるぐると歩いて、未知の領域へ足を踏み入れることを恐れているのかもしれない。覚悟が無いのかもしれない。僕は一体、いつまでこうしているつもりなのだろう。二十代でいられるのもあと二年足らずだというのに……。
 中学の同級生で僕と一番仲がよく、数年前までよく遊んでいた輝彦は、県外就職した後に会社の同僚と結婚した。最近輝彦から連絡は無いが、おそらく今では新しい家庭を築いているのだろう。同じく中学の同級生で、当時演劇部だったアカネは芸能界入りしたと聞く。あれだけ近くにいたはずの友人がいつのまにか、僕の手の届かないところへいってしまっていた。どうしてここまで差が出てしまったのかと、夜更けのコーヒーを飲みながら僕は一人、考えていた。
 すると、ここ数日鳴っていなかった僕のスマートフォンが、テーブルの上で音を立てて震えだした。中学の同級生から、忘年会へのお誘いメールだった。日付は一週間後。ここ最近友人の誰とも会っていなかったこともあり、嬉しかった。すぐに参加する旨を返信した。とにかく誰かと、会って話がしたかった。しかし一週間後、忘年会で僕を待ち受けていたのは、同級生の一人から語られた、衝撃的な事実だった。

「え…?」
 僕は最初、同級生が僕に何を言ったのかわからなかった。言葉の意味そのものは理解したが、それを瞬時に受け入れることが出来なかった。その同級生はもう一度言った。
「輝彦は奥さんに不倫がバレて離婚したんだと。奥さんに不倫をバラしたのは不倫相手で、輝彦は不倫相手を刺して刑務所行きになったって…」
 僕はてっきり、輝彦からの連絡が途絶えていたのは幸せな結婚生活を満喫しているあまり、僕のことなど忘れてしまったのだろうと思い込んでいた。しかし真実は違った。輝彦は幸せの絶頂から、一気に不幸のどん底へと突き落とされていたのだ。ビールジョッキを持っている僕の手は震えていた。
 平凡な日々に退屈している?毎日に刺激がなくてつまらない?僕は何を言っているのだろう。自業自得とはいえ、今の輝彦に比べて今の自分はどれだけ幸せなのだろう。
 そう。僕は今、幸せなのだ。
 


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/12/15 泡沫恋歌

霜月 秋介 様、拝読しました。

主人公の気持ちが素直に語られているところに好感が持てました。

自分はツマラナイと思っていたのに、同級生の事件に自分は幸せなんだと気付いた主人公、
そう平凡が一番なんですよ。
いろいろ気づかされる良い作品だと思いました。

15/12/15 霜月秋介

恋歌様、コメントありがとうございます。

書いてる間に日付が変わってしまい、エントリー出来ないかと思いましたがどうやら出来たようです(笑)

最後の方はフィクションではありますが、前半の内容はもう完全に自分を投影させてます。もう少し最後の方、書きたいことがあり、心残りな作品となってしまいましたが、好感を持っていただけて嬉しいです。

15/12/17 滝沢朱音

「他山の石」というテーマにぴったりの掌編ですね。
「そう。僕は今、幸せなのだ。」というラストの一文…
少し背筋がゾクッとしました。

15/12/17 霜月秋介

滝沢朱音様、コメントありがとうございます。

平凡だつまらないと自分では思っていても、ある人から見れば十分幸せに思える。
よくテレビで目にするホームレスの方々の暮らしを見ると、自分の生温さを思い知らされます。

ログイン
アドセンス