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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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聖者のメルヘン

15/12/14 コンテスト(テーマ):第九十七回 時空モノガタリ文学賞 【 他山の石 】 コメント:7件 冬垣ひなた 閲覧数:1124

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「……以上が作戦の概要だ!昨年のテロは、タザンノイシとし……」
 恰幅の良い隊長は言ったが、僕の翻訳辞書にはその単語がなかったので、隣席のミモザに聞いた。
 他山の石。成程、他人の過ちを糧に自分を磨くとか、そういう意味の日本語で、打算の意思ではないらしい。
「テロは良くないわ。100年か昔のように、皆が集まって話し合いで解決できないかと思うの」
 テロリストの横行する昨今、17才の夢見がちな少女のその考えに、せいぜい1mしか飛べないしょぼいテレポーターの僕は、「そうだね」と相槌を打つのが精いっぱいだった。
 第三次世界大戦後、統合された世界で特殊部隊SCUを設立した、この日本州は大きなスポンサーだった。戦争の為生みだされた超能力を持つヒューマノイドを、殺処分から救ってくれた恩人でもある。来年の予算獲得の為に僕らSCUは同胞のテロリストを狩らなければならない。
 パーティー会場の中央に立つモミの木からこぼれおちる、イルミネーションの輝きがミモザの顔を照らす。少し痩せたな、そう思った。


 パーティーも半ばに差しかかる頃、テレパシーで伝令が入り、僕たちの間に緊張が走る。
『クラスV、テロリストと交戦中。数名にセキュリティX、Y、突破されました!』
 会場の照明が一斉に落ち、非常灯に切り替わる間もなく、もみの木は轟音と共に炎に包まれ、その火柱が天井にまで届いた。
 パイロキネシスがいるのか!僕らは銃を手に速やかに作戦に移る。戦闘を始める中、僕はミモザの作るシールドの中に客を誘導する。
 ガラスの割れる音。
 悲鳴。
 時代物めいた銃声。
「急いで!」
 薄い光のドームが、一切の攻撃を無力化し、富豪たちの人命を守る中、誰かが恐怖に引きつった声を荒げて言った。
「これだからヒューマノイドは!」
 ミモザの端正な表情が悲しみに揺れるが、彼女を慰めている暇も手段も、僕にはなかった。
 彼らは僕の生みの親で、SCUの存在自体がテロリストを供給するのだという人もいる。
 またテロリストによると、僕らは這いつくばる奴隷のようなもので、自分たちは勝者だという。
 悲しいかな。僕らの命は、ほぼ全生物にとって他山の石に過ぎない。
『こちらクラスZ、テロリスト3名と交戦中!』
 余所も戦闘状態にあるらしく、迫りくる火柱の熱と硝煙の臭いが、ますます僕らを不安にさせる。
 しかもどこからか泣き声がする。
 しまった、子供がまだいたか!
 ミモザは頬を緩め、泣きながら駆けてくる男の子をシールド内に迎え入れる。
「大丈夫……」
 そう言った身体がぐらりと揺れ、白い制服の胸に、薔薇のような赤い染みが広がった。
 僕らを守っていたドームはゆっくり、音もなく崩れ去り、ナイフの刺さったミモザの身体は床に倒れた。
 再び悲鳴が上がる。
「ミモザ!」
 逃げ惑う群れの中に消えたあの男の子はテロリストの仲間で、僕が駆け寄った時にはすでにミモザの目は光を失い、絶命していた。
「ミモザ……!」
 僕の目からとめどなく涙があふれる。
 この想いを心の井戸から汲みあげる、君の優しさを止めるべきだった。
 世界は打算に満ちているというのに。
 半狂乱の僕が見つけたあの男の子は、自動小銃を乱射させていて屍を築いていたが、構わず突っ込んでいった。
 向かってくる僕は倒れるどころか傷一つ負わないので、最初は勝利に酔っていた男の子の顔が、次第に引きつる。
 自動小銃が、瞬間的に僕の右手に移る。
 僕はその左手から、撃たれた弾丸をばら撒く。
「お前、アポーツか……!」
 やはり効果範囲1mほどの、物体の瞬間移動能力がこんな事にしか役立たないのは、無性に腹立たしい。
 僕は有無を言わせず逃げる男の子の首根っこを捕まえた。
「オレだってな、殺される覚悟は出来てるんだよ!」
 パンッ!と乾いた音が鳴った。


「な……!」
「帰れよ!」
 男の子は叩かれた頬を押えたまま、僕の号泣した顔を見上げる。
「テロが何だよ、そんなに偉いのか?僕はお前らとなんか闘いたくもないし、顔も見たくない!お前らなんか、大っ嫌いだ!」
 僕は取り上げた銃と自分の銃を踏みつけた。何度も、何度も。
 ミモザ。
 僕の力じゃ、全然君の言葉を届けられない。
 石ころにしかなれなくてごめん。
 本当に、ごめん。


 ……目が覚めた時、会場は何もかもが元通りで、何事もなくミモザの心配そうな顔が僕を覗きこんでいた時、僕は天国に来たと喜び、次は夢を見たんだと恥かしくなった。
 だからあのテロリストの男の子が、時を巻き戻す能力者だと知るのは随分後だった。
 僕は彼自身だったのかもしれない。
 彼も、0からやり直せぬ中途半端な能力に絶望していたのかもしれない。
 ミモザ。
 今度彼と会う機会があったら、もう少しだけ話をしたいと思っている。


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このストーリーに関するコメント

15/12/14 冬垣ひなた

≪補足説明≫

この左右の写真は、写真ACからお借りしたものを加工しました。

15/12/15 泡沫恋歌

冬垣ひなた 様、拝読しました。

2000文字という規制の中でSF作りの話は消化不良で終わることが多いのですが、
さすがに上手くまとめて、オチも決まってますね。

テロリストが横行する未来なんて、考えただけで背筋に寒気が走ります。
たぶん私は地上には居ないと思うけれど、争いのない平和な未来が待ってることを祈りたい。

15/12/16 草愛やし美

冬垣ひなたさま、拝読しました。

迫力あるテロとの戦いに思わず手に汗しながら
読み進みました。ハラハラしながら一気に……
ああ、そうだったこれはSFだった。
掌編で結末までオチを感じず楽しませる文と内容、
ほんまにうまいなあと感心しました。

冬垣さまのお作は読むたびに新しい切り口で
惹き込まれます、その豊かな文才素晴らしいです。

15/12/17 滝沢朱音

うわあ、良作ですね〜、かっこいい。
二転三転してからのオチ、すばらしいです。

特にここの文章、めっちゃ好きだと思いました↓

「この想いを心の井戸から汲みあげる、君の優しさを止めるべきだった。
世界は打算に満ちているというのに。」

15/12/19 冬垣ひなた

泡沫恋歌さん、コメントありがとうございます。

半年ほど前チャレンジしたSFは冒頭で1000字使い没にしてしまったので、少しは構成力が成長したのかもしれません。
東京オリンピックも控え、こういうifは考えなくちゃならないなと思い今回書かせて頂きました。
未来の子供たちに平和が訪れるように、私もそう思います。


草藍やし美さん、コメントありがとうございます。

最初は何だか救いようのない話になって没にしたのです。
今思うとこの話の肝であるはずのキャラクターが、きちんと出来ていなかったからですね。
設定とキャラはストーリーの両輪であると改めて感じました。
お褒め頂き恐縮です、話の切り口は今までの作品と似ないよう意識しています。


滝沢朱音さん、コメントありがとうございます。

今回は文章を随分削りましたが、どれだけ贅肉があるかを痛感しました。
設定を入れなくてはならないファンタジーやSFは、時代物以上に挫けそうになりますが、
喜んでもらえて良かったです。
その文章は推敲で一番練った部分なので、好きだと言っていただけて嬉しいです。

16/01/11 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

男の子もまたヒューマノイド。現実社会においても少年少女たちがテロリストにされてしまうことも聞き、せめてお話の中の男の子が平和な世界で生き直せればいいなあと願います。
2000文字でもこんなに濃い内容のSFが書けるなんてすごいと思います!!

16/02/07 冬垣ひなた

そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

そうですね。私がSFやファンタジーを書くのは、だいたい現実を描くのが難しい時ですね。IFの中に型を造って物語を落し込んだ方がロジックが進みます。彼らが分かり合える世の中が来るといいですね。

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