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沢藤南湘さん

下手な横好きで時代小説を書いています。 阪神ファンです。 皆様、よろしくお願いします

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サルの石

15/12/13 コンテスト(テーマ):第九十七回 時空モノガタリ文学賞 【 他山の石 】 コメント:0件 沢藤南湘 閲覧数:688

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 ジロウは、後三か月で20歳を迎える。数年勤めた副部落長の座をおりるか、さらに再選の制度を利用して、続けるか悩んでいた。
この年まで、数年この山のボスとして、あちらこちらのサル部落に単身で過ごしてきたことで、ジロウは疲れていた。ボスの座を降りて、嫁のハナコと棲家のある大山の部落で同居することにも不安を感じていた。
 そんな時、先代のタロウが23歳の古希を迎えるので、祝賀会をやると同期の副ボスのサンキチから連絡が入った。
ジロウは、昔タロウの部下であったので、出席する旨をサンキチに返信した。
会の当日、二十人ほど見た顔がそろっていた。ジロウの同期は、幹事のサンキチと部落長のサンタの二人だけで、他の人達は、元役員でジロウの直接の上司であった者も数人いた。
 元副ボスのゴンタが、幹事のサンキチから開会の挨拶と乾杯を頼まれ席を立った。話は長く、ゴンタ本人の過去の自慢話に終始し、乾杯の時に、やっとタロウの名を出した。
 乾杯の椀を置いて、周囲を見回したジロウは、この中では唯一役員の肩書を得ることができなかったサルであることに気付いた。
 皆、用意された料理を夢中で食べはじめた。食べ終わったサルたちは、好きな酒を注文して、近場のサルと談笑し始めていた。相も変わらず、昔の上下関係を保った話し方があちこちから聞こえた。
(いつまでお互いに上下関係でいるのか、いつまでたっても職制を離れられないサルたちだな) 
「ご歓談中申し訳ありません、主賓のタロウさんの挨拶がありますので、御静粛にお願いします」とのサンキチの声にうながされ、タロウが立ち上がった。もうすっかり出来上がっているようで顔中が、いつもの赤さを通り過ぎて黄に染まっていた。礼を述べ、軽く頭を下げてから話し始めた。
「私がここまでこれたのは、ここにお集まりの皆さまのおかげと思っております。我々の同期は史上最多の30頭で、生まれた時から激しい出世競争の世界に否応なしに入りました。我々の同期だけでなく、前後の年代のサルとも競争しなければなりませんでした。副部落長、部落長と職制が上がっていくに従い、諸先輩の振る舞いや仕事の仕方を学びました。毎日が勝負でした」
(ごますりの勝負だったんじゃないの)
「その後、ここにお集まりの諸先輩たちが、この未熟者を副ボスまでに引き上げてくださいました」
(俺たちの成果を自分のものにしやがって)
「おかげさまで、サル社会の勝ち組に入ることができました」
(なにが勝組か、上への御機嫌取りでは、サル史上トップではないかといわれていることを知っているのに、恥も外聞もなくよくいえるもんだ)
「諸先輩方々の閑職へ飛ばされた噂は、他山の石として、わが身を律するよう心掛けました。ここにご出席いただいた皆様には、幾ら感謝してもしきれません」
(情けないサルだ、他山の石にされたサルはたまったもんじゃない)
「そして無事古希を迎えることができました。これからもよろしくお願いします」
 一呼吸したぐらい後からか、拍手が起こった。
(このようなサルの下で働いたのが運の尽き、役員になれなかった理由が分かった)
とジロウは納得し、この宴であと二時間もいなければならないと思うと気が重くなってきた。
 ジロウの左隣のサルがその隣のサルに話しかけた。
「あいつは俺たちを出世の梯子に使ってきたのか。そういえばあいつの功績や成果を具体的に聞いたことがなかったな」と声を落としながら、お互いに手酌で椀に麦酒を注いだ。
 タロウが、麦酒をもってジロウに酌に来た。
「ジロウ、世話になったな、おまえはこれからどうするんだ」
「わたしは、この世界から引退するつもりです」
「石の上にも三年だぞ、もう少し頑張ったらどうだ」
 ジロウは答えずに、タロウの持っている瓶をとりタロウの持っている椀に麦酒を注いだ。
気まずい雰囲気が漂った時、幹事のサンキチがこの宴の締めとして、会長ザルのヨサブロウが挨拶に立った。
「タロウさん、この度は古希おめでとう。わしも三年前古希を祝ってもらった。この三年の間、人間社会では愚かな戦が絶えるどころか頻発している。我々サル社会では、それを他山の石として、部落間の貧富の差をさらに縮めることによって、5年前に無くなった争いを今後も起こさないよう一致団結して行こうではないか。頼む」
 全会一致で、次期幹事にジロウが、任命され、ヨサブロウの発声のもと一本締めで宴はつつがなく終わった。


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