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汐月夜空さん

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君の二つ名は〇〇だ

15/11/30 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:0件 汐月夜空 閲覧数:654

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「私は『個性』というものを大事にします」
 そんなマニフェストを掲げていた政治家が、国のトップに立ったのは、つい先日のことだった。誰かが右を向けば、誰もが右を向く。この国の皆はきっとそんな没個性社会にうんざりしていたんだろう。誰もが彼の言うことを疑わず、より良い社会を目指して賛成した。
 彼が施行した『マイネーム法』がこの国を大きく変えることになる。この法の概略を簡単に説明すると以下のようになる。
 1、すべての国民は通常の名前の他に二つ名を持つこと。
 2、二つ名を裏切ることは許されないこと。
 1の概略から分かるように、二つ名を持たない者は国民とは認められず、行政の恩恵を受けられなくなる。つまりは、強制的な個性化が義務付けられた法だった。
 個々が申請した二つ名は被りが無いかを確認された後に、正式に付与されることになる。子の二つ名は出生とともに親が申請することになっており、原則変更は認められない。
 1億を超える国民すべてが唯一無二の二つ名を有するようになった社会の中で、俺は持つべき二つ名を、決めかねていた。



「三浦! 今日こそ二つ名を申請するんだ!」
「やめてくれ倉本! 俺のことはほっておいてくれ!」
「いや、ほっとかない! 親友が非国民と蔑まれることを僕が放っておくわけないだろう!」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、ブリッジで全力疾走してくる親友とは仲良く出来る気がしねえよ!」
 俺は今日も二つ名をつけることから逃げていた。全速力で逃げていた。この両足を懸命に蹴りだして、50メートル7秒フラットという平均速度で翔けていた。
 にも関わらず、マイネーム法が施行されてからわずか三か月にも満たない、つまりは三か月しか練習期間の無かったはずの親友の倉本は俺から1メートルも離されない。3メートル後ろをぴったりとついてくる。ブリッジで。背面四足歩行をしながら。『背面世界』の二つ名は伊達ではない。怖すぎる。
「二つ名は素晴らしいぞ! 自分には何もないという虚無感から脱却できる!」
「そりゃ魅力的だが、俺はそんな奇妙な姿になりたくねえよ!」
 そうだ、俺には誰もが奇妙に見える。この世界が狂って見える。
 テレビの向こうの芸能人を見てもそうだ。あんなにも輝いて見えた世界が今は恐怖の対象でしかない。『逆立世界』の司会者に『百耳装飾』のアイドル、『全色宝石』のビッグ女優、『銃指平和』のイケメン俳優、『常食常飲』の早食いタレントなどが賑わせる最近のバラエティはとにかく落ち着きが無い。
 ニュースではいつだって奇人が逮捕され、奇人の死が確認される。差別化を図るあまり、『対人殺人』『放課後放火』などの二つ名を有してしまった者は犯罪を犯す前に捕まってしまったし、『百吸煙草』『骨折肉断』は病気や怪我で早々に亡くなってしまった。そんな失敗した二つ名は永久欠番となり、悲劇は二度と繰り返されないとのことだが、そもそも起こらなくていい悲劇だったと俺は思う。
 俺が憧れてた隣のクラスのさっちゃんの二つ名は『全力スクワット』で、気付いた時には白魚のように細かった足が俺の胴回りくらいに変わっていたし、尊敬していた香苗先輩の二つ名は『腐豆投擲』で、すれ違うたびに納豆を投げてくるようになった。香苗先輩はこれまで彼氏が居るのを伏せていたが、『豆腐投擲』が先輩と同じクラスに居るところを考えると二人が出来ているのは明白だった。知りたくなかった。
 そんなことを考えながら、とにもかくにも全力で俺は逃げた。しかし、逃げるという動作は、追う動作を誘発するらしい。気付いたころには俺は、『背面世界』『全力スクワット』『告白場面』の三人に取り囲まれていた。みんな、俺が良い奴だと思っていた奴らだった。
「どうしてそんなに二つ名をつけるのが嫌なの?」
 『全力スクワット』のさっちゃんが俺に尋ねる。
「……つけたい名前が無いからだよ」
 逃げられないと観念した俺は、正直に答えることにした。
「俺はお前らのように奇抜な名前は付けたくないし、そもそも唯一無二の特別な名が思いつかない。やりたいこと、なりたい物が存在しないんだ」
「本当に? ただの一度も、『自分がこれをやったら世界はどうなる?』とか想像したこともないの?」
 『背面世界』の倉本。じゃあ、お前はブリッジをしたかったのか。俺は頷いた。

「じゃあ、簡単だ。三浦、今日から愛する君の二つ名は『普通人間』だ。好きだ」
「は?」

 『告白場面』が言った言葉に俺は耳を疑った。二つ名を検索するアプリを起動し、検索窓に『普通人間』と打ち込む。
 ノーヒット。
 嘘だろ。なんでこんなありきたりの二つ名が誰にもつけられてないんだ? 首を傾げる俺は一つの事実に思い当たった。

 そうだった。この世界は、誰かが右を向けば、誰もが右を向くんだった、と。


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