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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
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奇人王子

15/11/30 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:6件 そらの珊瑚 閲覧数:937

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 ペルテモア王朝の第一王子アレクは「奇人王子」と呼ばれていた。
 腰まで伸ばした彼の金髪は頭の上で高く結えられ、季節の花で飾られている。お気に入りは、孔雀の羽を縫い付けたドレスだった。
 夜を想わせるような黒い瞳、整った鼻筋、うすい唇、それらが細面の顔の中で絶妙に配置された美しさを醸し出し、彼の母親である前王妃に生き写しでもあった。
 けれど過剰な化粧を施されたそれは、人々には奇異にしか映らなかった。緑色に塗られた唇から歌とも呼べないような奇声を発し、馬で駆けるその姿を見かけた領民は、かげでこっそりと失笑した。
 今年二十歳を迎える彼の日常は、次期王としてのそれとは程遠く、ほとんど女の成りをして自由気ままに時を過ごしてるようにみえた。

「おはようございます、アレク様、お目覚めはいかがですか?」
 彼の寝室に入ることを許可されているのは、彼の乳母ロナだけである。彼を産んですぐ亡くなった前王妃に代わり、彼の養育をまかされてきたのだ。
「おはよう、ロナ。ああ、よく寝た」
 ふあぁーと大きなあくびをするアレク。その口からは清涼な朝の香りが漂ってきそうだった。
 ロナは手際よく朝食の準備をする。焼きたての雑穀パン、ヤギのミルク、卵焼き、朝取りの桃。全てロアの手で調理され運ばれたものだった。アレクは食欲旺盛な若者らしく、それらを平らげていく。
 昨晩開かれた城の宴で、アレクはしこたま酒を飲み、――それは陽気な酒ではあったが、まるで道化師のように騒ぎ、でたらめに踊り狂う王子を見て、温厚な父王もさすがに声を荒らげて叱った。
 何度も派手に転びながら去ってゆくその後ろ姿を見て、現王妃は内心ほくそえみ、確信した。
――あれでは次期王は到底務まるはずがない。いくら王がしきたりを重んじる方であっても、次期王に指名されるのは、我が子パルティナに違いない。
 パルティナは、アレクにとって五歳離れた異母兄弟。代々長男が王位を継ぐ決まりのこの国においては、パルティナの王位継承権はアレクが存在する限り、二番目であった。

 アレクが物心ついてから、彼の命を脅かすいくつかの事があった。原因不明の熱が一週間続き、何らかの毒が盛られたのではないかと推察された。幸いロナの知人の薬草師の尽力で、アレクは健康を取り戻した。又、アレクが好んで登っていた樹の枝が少しの力が加われば折れるように巧妙に切れ目が入れられていた事や、頭上から大きな石が落ちてきた事もあったが、みな事なきを得た。
 ――誰かが、アレク様の命を狙っている。
 それが誰であるのか、証拠はなかったが、アレクがいなくなって一番得をするのは、パルティナとその母である現王妃。そう考えるのが妥当とロナは考えた。たとえ王家の一員であっても、殺人未遂であったとすれば重罪であるし、もしそのことが明るみに出れば、正義を重んじる王は妻といっても容赦はしないだろう。
 ロナはアレクの命を狙っているのは現王妃だという証拠を、買収によって手に入れたが、それを王に訴えるかどうか迷っていた。
「ロナ、どうかした?」
 まだ十歳だったアレクにとって、ロナは母親代わりでもあった。いつも笑顔を絶やさなかったロナの憂鬱を子供ながらに敏感に感じ取ったようだ。
「何でもございません」
 とっさにごまかしたものの、アレクは納得しなかった。重大な隠し事をしていると彼は直感的に悟った。
 彼の黒い瞳は亡くなった前王妃の瞳と同じ色。そんな瞳でじっと見つめられ、ついにロナは事の顛末を打ち明けた。驚いたことに、アレクはすべてを了解した。その上でこう言ったのだった。
「僕が王を継がなけりゃいいんだね」
 その日を境にして、アレクは変わった。家庭教師の授業もほっぽかし、父王の前でまるで馬鹿のふりをした。そう、最初はみな、ふり、だと思ったのだ。思春期にさしかかった男子によくある反抗期か何かの類だろうと。けれどそれから十年経った今では、アレクは奇人王子の烙印を押されている。
 パルティナはそんな兄を面白がって慕いながら育った。大きくなった今でも、兄のことが大好きで、自分の母親が兄のことをけなすと、機嫌が悪くなるほどだった。彼だけは兄のことを「奇人王子」だと呼んだことはなかった。

「ロナ、アレク、を、頼む、わ、ね」前王妃が亡くなる直前、ロナに告げた最後の言葉が蘇ってくる。そのたびに、これからどんなことがあろうともアレクの味方であり続けようと心に誓う。
 それにしても、と、ロナはふと可笑しくなる。一滴の酒も飲まず、昨日の酔っ払いのふりは本当にお見事だったとしかいいようがないわ、と。
「ロナ、何を笑ってるんだい?」
「いいえ、何でもございません」
 アレクは誰より聡明で優しい。それを自分だけが知っている事を、ロナは誇らしげにさえ思いながら、その長い髪を櫛ですいた。
 


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このストーリーに関するコメント

15/12/03 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

聡明な王子は馬鹿の振りをして、周りを欺いていたのですね。
王位を継ぐよりも、生き延びる方が大事ですもの。

誰か一人だけでも分かってくれてれば、それでいいのでしょう。

15/12/10 冬垣ひなた

そらの珊瑚さん、拝読しました。

殺されないために奇人を装う。弟は兄の事を慕ってくれているのに……悲しいお話です。
優しい乳母が支えている事がせめてもの救いですが、弟が王になって状況が変わるのかも分からない。
王子に生まれたばかりに、ありきたりな人生すらも諦めなくてはならないのは可哀想ですね。彼が生きながらえることを願います。

15/12/12 鮎風 遊

なるほど、この手が一番安全ですね。
だけど案外人気が出て、最終的に王になったりするケースがありますよね。
ひょっとしたらここまで読んでの作戦だったりして、てなことを考えました。

15/12/14 草愛やし美

そらの珊瑚さま、拝読しました。

子供の頃、よく見た時代劇の映画にこういうお話があって思い出しました。若殿が気がふれたように振る舞い城内の陰謀を暴くというものでとてもわくわくドキドキで見ました。その時の感情を懐かしく思い出し読んでいてハラハラしました。良い味方がいて良かったです、ホッとしました。

15/12/30 光石七

拝読しました。
聖書のサムエル記の中の、命を狙われたダビデが狂ったふりをする場面を連想しました。
でも、アレクは王になるつもりはないんですね。その無欲さがアレクの良さでもあるのでしょうが、なんだかもったいない気もします。
腹心の乳母に、慕ってくれる腹違いの弟。いつかアレクが本来の姿で生きる道が開けないかと、願ってしまいます。
素敵なお話をありがとうございます。

16/01/04 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
言ってしまえば嘘をつきながら生きるということですが
誰も不幸にしない嘘なら許される嘘かなとも思います。

冬垣ひなたさん、ありがとうございます。
王家にはありがちな後継者争い、欲を捨てたとて、運命に翻弄されるってケースもありそうですね。家出して、放浪の旅に出るっていう方法も彼には合っているかも。

鮎風 遊さん、ありがとうございます。
望まないのに、結果王位を継ぐはめになるということもありそうですね。

草藍やし美さん、ありがとうございます。
王家に生まれたら、演技力があったに越したことはなさそうですね(笑い)

光石七さん、ありがとうございます。
そうですか、そんなお話があったのですね。
理解者がいるとはいえ、やっぱり欺きながら生きるということは辛いことでしょうね。

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