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高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

性別 女性
将来の夢 二次元に入って箱崎星梨花ちゃんと結婚します
座右の銘 黙り虫、壁を破る

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キジン

15/11/30 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:2件 高橋螢参郎 閲覧数:766

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 その日、目抜き通りを行進するパレードの主役である王様は、何故か一糸まとわぬ姿のまま天蓋の下、国民に手を振っていた。その動きに連動するが如く、しなびた睾丸もぶらぶらと振り子のように揺れていた。
 権威の象徴である王冠だけは最後の砦とばかりにしっかと被っていたが、出っ張った下腹部に半ば埋もれる形で小さく悄気込んだ陰茎との対比はあまりに滑稽で、見ている者の失笑を誘った。
 しかし市井の人々はそんな奇行に気を引かれるわけでもなく、パレードという非日常の傍でただ淡々と仕事をこなしていた。
 だが、そうでない者がいた。特に定められた日課のない子供たちだ。
 ある男の子が母親のすそを引っ張り、こう言った。
「ねえ、何で王様は……」
 最後まで言い終える間もなく、男の子は周囲の大人たちに麻袋へと手際よく押し込められ、そのままどこかに連れ去られてしまった。母親は一部始終を黙って見ているだけで、まだ喋れない男の子の弟を腕に抱えたまま、最後まで止めようともしなかった。
 それを観ていた子供たちは口々に「黒い森へと連れて行かれるのだ」と噂し、やっと口を噤んで押し黙る事の重要性に気付くのだった。

 王様が奇行に至るまでの大体のいきさつは皆も承知していた。
 たちの悪い詐欺師たちにだまされて、ありもしない服を着せられているつもりになっているのだ。この布は愚か者には見えぬ、己の職分を全うしていない者にも見えぬなどと大法螺を吹いたらしい。当の詐欺師どもは面の皮の厚く、パレードの片隅で民衆に向けて誇らしげに振る舞っていた。
 だが大人たちは王様の過ちを正す事もしなければ、詐欺師の罪を咎める事もなかった。
 とある善意の人が「おかしいのではないか」と周囲に意見を求めても、返ってきたのは「問題ない」という乾いた声だけだった。
 事実として王様が裸だったとして、下々の生活に何の影響が出るだろうか。王様は見ての通り賢君とはとても言い難かったが、決して暗君とまではいかなかった。領民に無理な租税や賦役を課す事もなく、戦も下手なのを重々承知していたため、在位中は平和が続いていた。布の一件に関しても、裏を返せばそれだけ責任感の強い事の表れだろう。
 いや、そもそもこれまでに王の顔を拝した者が、この民衆のうちに果たしてどれほどあったか。それでも日々の生活は滞りなく回り続けていた。王様が裸で今年の麦が実らないというのなら、また話は別だったが。
 王様も最初こそ意地もあって裸で通したが、次第に冬が近付くにつれて何かしらの理由をつけてはまたいつもの服を着るようになった。詐欺師たちはそこそこの額の謝礼を王から貰ってどこかへと流れ、その金を元手に今度は本当に服を作って売るようになったという。
 誰も何も言わなかったとしても、結論はそう悪いものでもなかった。

 数年後、かつて王様が行進した目抜き通りを、物狂いの男が時折奇声を上げながらふらふらと歩いていた。やはり誰も見て見ぬふりをして、相手にはしなかった。
 そんな様子を見て、やっと喋れるようになったあの男の子の弟が兄と同じように母親のすそを引っ張りながら、今度は黙って男を指差した。
 母親は指差した方の手をやめなさい、と軽く叩いた。流石に袋へと押し込めてしまうような真似こそなかったが、それでも幼い弟は少なからず不機嫌になってむくれた。
「一体どこが違うんだろう」
 母親は聞こえていたはずの息子の不平に、何も言わなかった。


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このストーリーに関するコメント

15/12/30 光石七

拝読しました。
『裸の王様』をこう捉えるのか、と感嘆しました。確かに王様が裸だろうが変な服を着てようが、平和にそれなりに暮らせれば下々の民はそれでいいわけで。
最後の弟の一言が全てですね。
面白かったです。

16/01/08 高橋螢参郎

>光石七様
コメントありがとうございます。
敬愛するTHE BLUE HEARTSの影響もあり私裸の王様という童話がこの世のお話の中で一二を争うほど好きなのですが、王様は裸だ、と言えるほど本当に人々は賢いのか、と思い立ち書いてみました。
....と書くと聞こえはいいですが『奇人』と『貴人』をかけた単なるおっさんのダジャレ一発ネタです。はい

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