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八子 棗さん

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誰しもが奇人になる 初恋

15/11/18 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:0件 八子 棗 閲覧数:711

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 でんぐり返しが好きな熊沢さんの友達で、笹川さんというネクラな女子がいる。
「笹川さん、あなた学級文庫の本借りっ放しでしょ」
「あ……すみません……」
「図書室からも、返却のお願いのプリントまた来たわよ。こっちも返してないんでしょ」
「え……すみません……」
 学期末になると、こういう情景が毎年見られるのだと、担任の山崎先生がこぼしていた。「あの子、本を溜め込むのが好きなのかもしれないわね」、とも。
 僕は五年生の時の席替えで、初めて笹川さんと同じクラスになった。笹川さんは一日の大半を寝て過ごしているけれど、国語の授業中だけは楽しそうに体を揺らしている。後ろの席の女子は大抵気持ち悪がって机を少し後ろに離す。なぜかくじ引きをするといつも一番後ろの席になる僕は、そんな笹川さんをいつも見つめていた。
 知らないうちに、僕は、笹川さんのことを好きになっていたのだ。でも、他の女子なら、ちょっと髪を引っ張ってみたり、足を引っかけてみたりできるけど、笹川さんにはできなかった。笹川さんには本のカミサマがついていそうで、天罰が下りそうな気がしたのかもしれない。
「あんた、ササちゃんのこといっつも見てるよね。好きなの?」
 熊沢さんに僕の想いがバレたのは、六年生の秋だった。
「別に、好きとか、そういうのじゃなくて……」
「じゃあ何?」
「なんか、カミサマがついてるみたいで、気になって」
 しどろもどろな僕の言い訳を聞いて、熊沢さんは目を輝かせた。
「やっぱりそうだよね! じゃあ、ササちゃんを崇めようよ!」
 こうして六年二組に、信者二人の笹川教が生まれた。笹川さんが不思議な行動を取っていたら、手を合わせて拝むだけ、というシンプルな宗教だった。
 笹川教は僕たちの知らないうちに、その行動に気付いたクラスメイトによって布教された。六年二組の全員が笹川教に入り、廊下ですれ違う他クラスの生徒はもちろん、低学年の子たちにまで笹川教が広まった頃。
 僕は、笹川さんに告白された。卒業を間近に控えた、小学校最後の二月だった。
「あの……私のカミサマを崇めてくれて……ありがとう」
 呼び出された葉のない桜の木の下で、マフラーに顔を埋めながら笹川さんは切り出した。
「私……昔から私のこと、カミサマが味方してくれているんじゃないかって……思ってた」
「そうなんだ」
「本の匂いが好きなの……カミサマ」
 だから、みんなが読んで臭いのついた本ばかりあつめているのだと、恥ずかしそうに笹川さんは語った。
「あのね……これからも私のカミサマを崇めてくれる?」
 僕は迷わず頷いた。否定する理由がなかった。
「……ありがとう。君……変な人だね」
 笹川さんに言われたくはなかったけれど、僕は誇らしい気持ちで一杯だった。

『カミサマのおかげで、初恋が実りました』
 あの日、嬉しさのあまり折り取った桜の蕾は、卒業式の日に貰った手紙と一緒に、今でも僕の机の引き出しの中に大切にしまわれている。


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