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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが最近になって、やっぱり小説家の夢を追い求めたい自分がいることに気づきました。久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説を書いてます。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 太宰治賞もしくは北日本文学賞で最終選考に残ることです。
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チョモランマで初めまして

15/11/17 コンテスト(テーマ):第九十七回 時空モノガタリ文学賞 【 他山の石 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:729

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自転車で朝刊を配り終えた。
畠山仁志が販売所に戻ると、所長の鬼塚が待っていてくれた。
「お疲れさま」
「お疲れさまです」
鬼塚は「はい、先月分のお給料」と言って、茶封筒に入ったお給料を仁志に渡した。
「ありがとうございます」
「誕生日祝いと登山の前祝いをかねて、気持ち分だけちょっと多めに入れておいたから」
「ありがとうございます。絶対に登頂成功させてみせます」
「16歳になってようやく夢が叶うんだね」
「はい。ずっとこの日を待ち望んでいました」仁志が歯をむき出して笑うと、鬼塚は仁志の肩を叩いて
「応援してるから、頑張れよ」と言った。
販売所の時計の針が早朝6時にちょうどなったところだった。
自宅に帰った仁志は、母が作った朝食を胃にかきこみ、身支度を済ませ急いで学校に向かった。
今日は高校1年最後の日だった。明日から春休みになる。
修了式が終了すると、クラスの同級生や担任の先生が「頑張れよ!」と言って、見送ってくれた。
その日の夜、父の運転する車に乗り、父と母、それに妹に見送られてPM7時発、カトマンズに向かう飛行機に乗った。
翌日にカトマンズに到着すると、安いホテルにチェックアウトし、すぐにネパール政府にチョモランマ(エベレスト)の入山料を支払った。この日を夢み、中学1年の時から始めた新聞配達で稼いだお金は、あっという間に無くなった。この日から2日後、仁志は酸素ボンベと大きな登山リュックを背負ってチョモランマを見上げていた。
この日のために、5人のシェルパと荷物を運ぶ人を数人雇った。シェルパの1人のギルバンという名の若い青年は、日本語が少しだけ話せた。
ベースキャンプを出発して少し経った頃、最初の難所であるアイスフォールに差し掛かった。
「ヒトシサン、アシキオツケテ」
「はい」仁志が立っている場所は氷河の真上で、至る所に崩落が出来ていた。
仁志の鼻息は荒くなっていた。それは小学生の時に山岳図鑑で観たチョモランマに、今、自分が挑戦していることに歓喜と興奮をしていたからだった。
仁志は立ち止まって8,850mの山頂を見上げた。山頂は雲に覆われて見えなかった。
それから2週間が経過した。標高7,500mまで登って来たが、昨日と今日は登れずにいた。
ギルバンが言った。「ヒトシサン、アタマダイジョウブ?」
「頭がガンガンして割れそうに痛いです」
「ダイジョウブ。アトモウスコシデナオル」
この日、テントの中で高山病が治まるのを待って過ごした。
翌日、まだ高山病が治まっていなかったが、ギルバン達シェルパを説得して、山頂を目指して登り始めた。登山開始から20日が経過し、ようやく8,000mまで登りきった。依然、山頂は遥か先だった。この標高まで登ると空気が薄く、酸素ボンベ無しでは呼吸が苦しかった。
それからさらに4日が経過し、標高8,500mまで登りきった。残り350mだったが、近くて遠いとはこのことだと、仁志は思った。登ってくる最中、何体もの死体が眠っていた。みな、登頂を目指した登山家の亡骸だった。仁志はそれら登山家の死体を注意深く確認しながら登頂を目指していた。
翌日、さらに200m登りきった時、1人の登山家の亡骸の前で仁志はひざまずいた。
大事にポケットにしまっていた1枚のモノクロ写真を取り出し、確認した。
間違いないと思った。
「ドウシマシタカ?」ギルバンが尋ねた。
「僕の曾祖父です」
「ソウソフ?」
「僕のお爺ちゃんのお父さんです」
「ドウシテココニイルノデスカ?」
「今、僕の前で永眠している曾祖父は冒険家で、1971年に71歳でチョモランマに挑戦して、二度と家族のもとに帰ってくることはありませんでした。このことは、僕が小さい頃、お爺ちゃんやお父さんから聞かされていた話です。僕はいつか曾祖父が挑戦して敗れ去ったチョモランマに登頂することと、曾祖父にお会いすることが小さい頃からの夢だったんです」
仁志は背負っていた大きな登山リュックを降ろし、中から日本から持ってきたワンカップの日本酒とタバコを、冷たく眠る曾祖父の亡骸の前に置いた。さらに、白い布をほどき、中から拳くらいはある赤い石を出した。
「ソレハ、ナンデスカ?」
「これは、曾祖父が生前住んでいた故郷にそびえる赤嶺山という山で採ってきた石です」
仁志はその赤い石を、山頂を掴もうとするように手を開いている曾祖父の手に載せ、目を瞑って黙とうをした。
「さあ、行きましょう」仁志は立ち上がって行った。
「キョウ、トウチョウデキマス」
「はい。曾祖父の分も、僕が登りきってみせます」
雲の隙間から山頂が見えた。
このまま順調に行けば、あと2時間くらいで登りきれそうに思えた。
チョモランマは、曾祖父の命を奪ったが、曾祖父は勝負には勝ったと思った。なぜなら、こんな素晴らしい地で永眠できたのだから。


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