1. トップページ
  2. 星と金とウィスキー

ケイジロウさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

星と金とウィスキー

15/11/16 コンテスト(テーマ):第九十五回 時空モノガタリ文学賞 【 秘宝 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:702

この作品を評価する

 ゴールド探しで一番大切なものは何か?、ゴールド探し歴40年の老人が「ペイシェント(忍耐)だ」と答えたのを思い出した。その時、よく意味を理解していなかったと今になって思う。ゴールド探しにおける失敗の意味、いや人生における失敗の意味もよくわかっていなかったとつくづく思う。
 今、西オーストラリアの砂漠に僕はいる。360度地平線。人工物と言えば高度1万mをたまに通り過ぎる飛行機くらいか。それがたとえ10km離れていて、僕の存在など知る由もないとしても、なんだか安心感をくれる。ゴールドを求めてメイン道路(と言っても、赤土のオフロードだが)から100キロ以上も離れているので、一番近い小さな集落も300kmくらい離れている。ランドクルーザーに積んである水、食糧、ガソリン、そしてライフル銃だけが、僕の「生」を保証している。
 夕暮れ時、西から東を見るとすべてが輝いて見える時間帯がある。「期待するなよ。ただの石ころだぞ!」と自分に言い聞かせはするのだが、なぜだか足取りが速くなり、3オンス級のでかさだと、目的地に着くまでの間、換金後の使い道をアレコレ検討してしまう。「ザマーミロ!日本で犬みたいに働いているサラリーマンども!」目的地まで1m、「もしや!」目的地まで50cm、「まだ安心するな、ここからだ」と釣り人のような気分になる。手に取ってみる、「軽っ!」・・・トカゲがベロを出して笑っている。
 太陽が沈み確かに気温は下がったが、灼熱の砂漠の中に一日中放置されていた缶ビールの温度はそう簡単には下がらない。しかし、ぬるいビールでも僕は飲まずにいられなかった。何をやっているんだろうか・・・日本でサラリーマンを続けていれば、エアコン付きのオフィスで仕事ができる。金2オンス分くらいの給料が毎月振り込まれてくる。家には、冷蔵庫の中でキンキンに冷えたビールが僕を待っている・・・
 ゴールド探しには何が必要か?忍耐力だ。しかし、忍耐だけではゴールドに行き当たらない。「運も必要だ」とその老人が遠い空を眺めながらつぶやいた。「あと、ある程度バカじゃないと務まらない。まぁ、サラリーマンに戻れない理由があれば、必ずしもバカである必要はない。」たき火に枯れ木を入れながら、そんなことを思い出した。2本目のビールのプルトップを空けた。一本目同様勢いがない。
 42歳独身。3年前に離婚した。当時小学5年生だった一人娘は、もうすぐ高校受験か。一年前、20年近く勤務した会社を辞め、オーストラリアに渡ってきた。学生の頃、オーストラリアの砂漠で会った老人のことを突然思い出したのだ。
 その老人を最初に見たのはエアーズロックの近くで、ツアーバスの中からだ。道路脇に車を止め、簡易チェアーに座りランチを取っていた。赤土で真っ赤赤になっている白のランドクルーザーが、観光地化されつくされているエアーズロック周辺で妙に浮いていたのを思い出す。
 二度目にその老人を見たのは、ウルルからアリススプリングに向かう途中で停まったガソリンスタンドでだ。真っ赤赤の車を見てすぐにその老人の車だとわかった。例の簡易チェアーに座りビールを飲んでいた。
「ここを何時に出るんだ?」とツアーバスの運転手に聞いた。「はっ?何時って?そんなのみんなが揃ったら出発するだけだ。時間なんて決めちゃいねぇさ。」とでっかいパイを頬張りながら答えてきた。「じゃぁ、僕、あの老人と少しおしゃべりするからさ、出発するとき教えてくれ。」「Non Worries(お安い御用だ), Mate!」。全くテキトーだ・・・。本当に教えてくれるのか?まぁどうにでもなれ。とにかく僕は老人の方に向かって急いだ。今思えば、突然紅潮させたアジア人が、たどたどしい英語で話しかけてきたことに、その老人はなぜ無視しなかったのか、いろいろ疑問は残る。ただ、その時の僕は、そんなことを考えている余裕など全くなかった。大手企業への入社式を1週間後に控えた僕は、何かしらのヒントに渇望していた。そう、生きる上でのヒントに。
 僕は必死にインタビューした。なんでこんなに車が汚れているのか?平気なのか?こんな砂漠で何をしているのか?えっ?ゴールド探し?なんだそれ?どうやって探すの?どこにあるの?食べ物はどうしてるの?
 その老人は、遠くの方を見ながら一つ一つ丁寧に僕の質問に答えてくれた。プップッー、遠くの方からクラクションが鳴った。僕のインタビューは終わった。ツアーバスが出発する時間だ。パイでできた贅肉を激しく揺らしながら、バスの運転手が手を振っていた。

 気付くとあたりは暗くなっていた。ウソみたいな量の星にも慣れてきた。寒くなってきたので、フリースとウィスキーを車から引っ張り出して、またたき火の前に座った。
 ウィスキーが脳天に突き刺さり、星の数が倍になるのである。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン