かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

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蜘蛛

15/11/16 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:710

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 ナカザワはいつも生徒に馬鹿にされていた。同じく教師の俺でさえナカザワを馬鹿にしたくなる気持ちはよく分かった。いつもおどおどしていてきょろきょろと定まらぬ視線は壁をさ迷った。職員室で隣あって座っていても、ナカザワの挙動不審は目の端にうるさい。爽やかな朝が台無しだ。俺はできるだけナカザワに背を向けるようにして仕事をしていた。と、突然ナカザワが叫んだ。椅子を蹴倒し俺の背中にしがみつく。俺は背を押され机に突っ伏した。背中でナカザワが叫ぶ。
「やめてくれ! たすけてくれ! ゆるしてくれ!」
 何が起きたか分からぬ俺は耳をつんざくナカザワの叫びに耐えきれずナカザワを振り落とし立ち上がった。床に倒れたナカザワはすごい勢いで自分の机から距離を取ろうと這って逃げた。机にいったい何があるのかと覗きこむと一匹の小さな蜘蛛がのんびりと鋏角を動かしていた。ナカザワはいつも蜘蛛がいないか探していたのか。
「ナカザワ先生は蜘蛛が苦手なんですか」
「たすけてくれ! たすけてくれ!」
 ナカザワは叫びながら職員室から飛び出していった。俺は机の上の蜘蛛を潰してゴミ箱に捨てた。
 パニックを起こし泡を吹くナカザワを数人の教師で取り押さえ保健室に運んだ。ナカザワの叫びは止まったもののキョドキョドとした目はせわしなく壁を這い、身をかがめて机の下や椅子の下まで覗きこんだ。
「蜘蛛を探してるんですか」
「アレがいるのか! どこだ!? どこにいる!?」
「落ち付いて下さい、ここにはいませんから」
 俺の腕にすがりつくナカザワの手を無理に外させるとナカザワは全身の力が抜けたようで床にへたりこんだ。
「アレは俺を見つけたんだ。もう駄目だ、もう駄目だ……」
 ナカザワの目には何も映ってはいなかった。結局、意味のない言葉をつぶやきつづけるだけのナカザワは病院に運ばれそのまま入院した。翌日、ナカザワはベッドパイプにシーツを結び、それで首をつって死んだ。
 葬式には俺が代表で弔問に訪れた。親族だけがひっそりと祭壇の脇に座っていた。軽く礼をするとナカザワの祖母らしい老婆がぶつぶつと呟いている事に気付いた。
「だから朝蜘蛛は殺すなと言うたとに、朝蜘蛛は殺すなと……」
 何度も何度も低く繰り返される言葉は呪いのようにも聞こえた。
 焼香を終えて最後にナカザワの顔を見ておこうと棺をのぞいた。一匹の蜘蛛が、ナカザワの長く伸びきった首に糸をかけていた。ざわり、と鳥肌が立つ。俺は急いで棺から身を離し斎場を後にした。

 職員室のナカザワの机を片付ける役目が回ってきた。隣の席なのだから仕方ない。重い気分を奮い立たせ早朝の会議の後から始めることにした。とはいえ机の上には雑多なものが山と積まれている。辞書も出席簿もファイル類も。その山の下に生徒のノートが潰されるように挟まっている。どこから手を付ければいいか見当もつかない。とりあえず引き出しの中身も確認してみようと開けてみた。
「うわ!」
 そこにはびっしりと白い蜘蛛の巣が張り巡らされ、小さな蜘蛛が何匹もうぞうぞと蠢いている。俺は思わず飛びのいた。引き出しから蜘蛛がぞろぞろと這い出て机の周りに散らばり始めた。
「きゃあああ!」
 近くの席の女教師が叫び逃げていく。何事かと覗きに来た体育教師も近づけぬまま呆然と立ちすくんだ。しばらくすると、逃げだした女教師が殺虫剤を手に駆け戻り、引き出しに向けてノズルを引いた。
「蜘蛛を殺しちゃだめだ!」
 俺の叫びは無視され、女教師は殺虫剤が空になるまで噴霧し続けた。蜘蛛たちはいとも簡単にころころと死んでいった。
 蜘蛛の死骸と粘つく蜘蛛の巣を掃除している俺の背中に女教師が声をかけた。
「なんで蜘蛛を殺したらいけないんですか?」
 俺は手を動かしながら答える。
「朝蜘蛛を殺すと縁起が悪いらしいですよ」
「非科学的な」
 鼻で笑われ、むっとして振り返ると女教師の肩に一匹の蜘蛛が止まっていた。笑われた腹いせに俺は蜘蛛の事を教えてはやらなかった。
 女教師はその夜、暴漢に襲われ細い紐で首を絞められて殺された。

 続けて二人もの教師が亡くなったことで生徒の中には体調を崩すものが多く出た。俺のクラスにも二人、登校できなくなった生徒がいる。スクールカウンセラーから家庭訪問を勧められ生徒たちの家へ向かった。
「死んだ先生たち、呪われたんでしょう? 蜘蛛の呪いなんでしょう?」
 生徒達は口々にそう言う。学校でもその噂が広まっている。
「呪いなんてあるわけないだろう」
 生徒はまっすぐ俺を指差した。
「でも、先生。先生の首に蜘蛛の巣がかかってますよ」
 急いで首に手をやる。首の周りをさすってみたが蜘蛛の巣なんてどこにもない。
「脅かすなよ」
「嘘じゃないよ」
 言いながらその白い腕は俺の首を絞める。俺の足は動かない。
「ほら、かかった」


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