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GM91さん

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『そして3人が残った』

12/08/10 コンテスト(テーマ):第十一回 時空モノガタリ文学賞【 高校野球 】 コメント:0件 GM91 閲覧数:1327

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 まるで、悪夢のような展開だった。
 
 3回裏に入ったところだが、失点は既に20点を超えた。次郎はもう数えるのも馬鹿らしくなっていた。
 そんなことは最早どうでもいい、それよりもアウトが取れない。
 もうとにかく一刻も早くこの悪夢を終わりにしたかった。
 それだけだった。

 ノーアウト、1、3塁。この回だけで既に打者一巡し、なおも樫丘実業の攻撃は続く。
 マウンド上の恭一がバテバテなのは誰の目にも明らかだ。しかし、代わりのピッチャーなどいない。
 キャプテンの次郎としては、恭一に何か声でも掛けてやりたいが、もう何も言うことがない。
 そして、樫実の打線は情け容赦なく襲い掛かる。
 ――何度目かの押し出しにより30点を超えたところで、大会委員の裁定にて薙島二高の「特別コールド負け」が決定した。

 次郎達の夏はこうして終わった。


「次郎、……すまんかった」
 試合後、恭一は憔悴しきった表情で、ただそれだけを言うとその場に座り込んだ。
 キャッチャーの俊三は終始無言のまま地面を睨み付けている。

「もういいんだ、終わったんだ。お疲れさん」
 次郎もそう言うのが精一杯だった。

 薙島二高の野球部はその日をもって休部となった。

   ★  ★  ★ 

 事の発端は、2年前の事件だった。
 当時、県でも有数の強豪校だった薙島二高野球部で、部員による喫煙が発覚。春の選抜への出場が決まった直後のことだった。
 当事者であるエース川崎は自ら退部。野球部としても選抜出場取り消しはもちろん、1年間の対外試合禁止という処分となった。
 1年生ながら次期レギュラーとして期待されていた恭一と俊三の落ち込み方は相当なものだったが、彼らに更に追い討ちをかけたのは2年生で4番を勤めていた鈴木の転校だった。
 
「鈴木さん!転校するって本当かよ?」
 恭一の詰問に鈴木は少し困った表情を見せたが、自分に言い聞かせるように口を開いた。
「……今なら、来年の夏に間に合うからな」
「俺たちはどうなるんです?」
 俊三の悲痛な懇願も、鈴木の心は動かせなかった。

「悪い、もう、決めたことなんだ」

 中心メンバーを失い、急速に瓦解していく薙島二高野球部。
 一月後には恭一と俊三の他は補欠の次郎を残して、部員は全て退部するか幽霊部員となっていた。

「3人で野球ができっかよ!」
 悪態をつきながらも、ボールを手放せない恭一は今日も俊三相手に投げ込みを続ける。
 次郎には恭一の本気の球は取れないので、必然的に俊三が女房役に徹している。
 俊三も口には出さないが、これからどうなるのか不安でないはずはなかった。

「どうするよ?俺たちもどっか転校すっか?」
 空しい「部活」の帰り道、恭一は次郎と俊三に問いかけた。
 恭一がその気もないくせに、そんな憎まれ口を叩くのも、先への不安の表れによるものだと次郎は気がついていたが、恭一を納得させるだけの上手い回答は思いつかなかった……。


 休日、次郎は気晴らしに寄ったレコード屋でふとあるタイトルが目に留まった。

「そして3人が残った」
 GenesisというUKのバンド、メインのメンバーが脱退して3人になってしまった……。
 なんだかまるで俺たちみたいじゃないか、と苦笑しながらレジへと向かった。

 翌日。次郎は決意を胸に学校へ向かった。

「なんだ次郎、変なもんでも食ったのか?気色悪りいな」
「恭一、俺はやっぱりあきらめない。やれることがあるうちはそれをやろうや」
「お、おう、そうだな」 
 妙にさっぱりした表情の次郎の言葉に、恭一はただ頷くしかなかった。

 それから3人は部員集めに奔走した。
 集まったのは素人同然の生徒ばかりで長続きする者は皆無だったが、それでも何とか3年の夏の大会前に9人集めることができたのは奇跡としか言いようがなかった。
 いや、事実、夏の大会への野球部出場を薙二高生はからかい半分でこう呼んだ。

「ホンダ3兄弟の奇跡」と。

   ★  ★  ★ 

 試合後、肩を並べてとぼとぼと帰途に着く3人。
「恭一、俊三、野球部の事……後悔してるか?」
「うんにゃ、全然」「俺も」

「もちっと悔しいかと思ってたけどよ、あんだけコテンパンにやられっと涙も出ねえな」
 いつも強がりを言う恭一だったが、今のはまんざら嘘でも無さそうだった。
 
「……また、3人で何か面白いことできたらいいよな」
 寡黙で強情な俊三が、柄にもなくしおらしい台詞を吐くと、恭一がバーカ、と叫んで次郎と俊三の前へ跳ねた。

「『できたらいいよな』じゃねえよ、やろうぜ、また3人で何か」
 そっぽを向いて頭をかくのは、恭一が照れ隠しするときの癖だよなあ、次郎はそう思うと何だかひどく幸せな気持ちになった。



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