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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
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子供ヒモホスト猫サボテン、汚いポテトチップス

15/11/16 コンテスト(テーマ):第九十七回 時空モノガタリ文学賞 【 他山の石 】 コメント:8件 クナリ 閲覧数:1673

時空モノガタリからの選評

「母親のような歳の女ばかり」の専門店の待機所。「小汚いアパート」の通路。持ち込まれたコロッケやメンマや、うわさ話がリアルですね。「美人」だったというヨウコさんをはじめ、彼女達がそこへたどり着いた経緯などは直接描かれませんが、そこには色々な事情があったことが伺われます。また「子供かヒモか、ホストか猫かー、あとはサボテンとか、皆何かはいるよ。でないとやってけないもん」とかいう台詞も印象深いですね。確かに愛するものやすがるものがないと人間は生きてはいけないのでしょうし、地を這うような現実に生きる彼女達であればなおさらでしょう。「ドライ」になりきることと、愛するものを必要とする両極の間で彼女達はバランスを保って生きているのでしょうね。「当時の僕ら」から見れば「結局、色々と可哀想なおばさんに過ぎなかった」という彼女達ですが、少し歳を取ったのであろう主人公が、彼女らの存在から何を学び、“他山の石”とし、どうやって生きてきたのかも、気になるところです。

時空モノガタリK

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 大学生の頃、高田馬場界隈で、同性相手専門のデートクラブでアルバイトをしていたことがある。
 僕が在籍していたクラブでは、ボディタッチは少々、キスやそれ以上はなし(少なくとも建前上は)。
 無店舗型なのでただ適当にそこら辺を客と一緒に歩いて、時々食事して、せいぜい二三時間でバイバイという、「ソレ何が楽しいの?」と聞かれればこっちが客に聞きたいわと言いたくなるような仕事だった。
 客と二人で密室に入ることは禁止だったし(映画もアウト)、危機意識もあまりなかった。
 客は皆中年だったので、僕は常に胸中で「気色悪いなクソ親爺」と思いながらニコニコしていた。
 「体の関係を持つより、普通に話したりしている方が好きなんだ」と言う客には、「そういうの良いですよね。僕もです」などと答えながら、待機部屋で同僚達とそうした客を「嘘つけよ半端野郎」と笑いものにしていた。

 待機部屋は、古くて汚くい、縦に細長いアパートの四階だった。
 漫画やゲーム機が雑然と詰め込まれた部屋で、常時五人くらいがだらだらと過ごしていた。
 ふたつ隣の部屋は、無店舗型のアレな店のキャストの待機所になっていた。多少お年を召した女性の専門店らしく、僕らから見れば母親のような歳の女ばかりが五六人程度、いつも待機しているようだった。
 僕は、ヨウコさんとミホさんいう妙齢のキャストとアパートの通路で時々話した。
 あちらの部屋の中にはキャストが自分らで作って来たコロッケだの味付メンマだのが持ち込まれており、それを僕らの部屋でなぜかいつも余っていたポテトチップスと、よく交換した。
 ただ、当時の僕らから見れば彼女らは結局、色々と可哀想なおばさんに過ぎなかった。

「私ら人妻限定の店ってことになってるけど、人妻なんて半分もいないのよ。私みたいに未婚か、元人妻ばっかしよ」
 手慣れているのにちっともスマートに見えない不思議な手つきでキャメルを吸いながら、ヨウコさんはそう言っていた。
 車のクラクションと何かのサイレンが響く夕方、汚い煙をブハアと黄土色の空へ吐き出しながら、彼女は汚い通路の汚い手すりにもたれていた。
 そのへたれた半袖の袖口からは、しなびた筋肉とたるんだ皮膚に覆われた腕がダラリとぶら下がっていた。
「子供欲しい。産んどきゃ良かった」
 それが本気なのか、倦怠感が生んだ慣用句なのかは分からなかった。

 その後しばらく姿が見えなかったヨウコさんのことを、アパートの通路で行き合ったミホさんに聞いてみた。
 ヨウコさんは、辞めていた。
「あの人さあ、嫌な客相手だと、ホテルに入ってすぐタバコ吸うんだよね。一応真面目にお仕事するために気持ちをセットする、儀式みたいなもんで。それがネットの掲示板で書かれてたみたいでさ。で、それ見たらしい客とホテル入ったら、『タバコ吸って良いですか』って聞いた途端『舐めんな』ってグーで顔パンチ」
 サイコ客だ。僕らにも、必ずしも他人事ではない。
「最近の風俗嬢とかAV女優やたら持ち上げる傾向、バカ丸出しで私大嫌いだけど、本当は有難いのかもね」
「じゃあヨウコさん今、一人で家にいるんですかね」
「あー独身なんて嘘嘘、あの人旦那さんいるよ。子供も一人、あんたよりちょい若いくらいの子。顔に怪我なんてしたからこの仕事のことまでバレて、大ごとだったみたいよ」
 ミホさんは、自分の待機部屋のドアを開けながら言った。
「子供かヒモか、ホストか猫かー、あとはサボテンとか、皆何かはいるよ。でないとやってけないもん。コロッケ食べる?」
「いえ」
「あんたも普通のバイト探した方が良いよ。私みたくドライになり切って、上手くやれるんならいいけど」
「まあ、……」
「悪いけど私らは皆、ヨウコさんこの仕事であんまり良い目に遭わないんじゃないかと思ってたよ」
「どうして?」
「あの人若い時、美人だったんだよね。まあ歳取ったら分かるよ」

 ミホさんに言われた通り、僕も一層ドライに上手く務めようと思っていた矢先。
 社員らしい男にミホさんが待機部屋で散々折檻されたのは、その翌日だった。
 詳しい事情は知らないが、ミホさんの泣き喚く声を聞いて、結局そうなる仕事なのだろうと、その週のうちに僕はデートクラブを辞めた。
 足抜けし損ねた同僚の何人かは、よりハイリスクな仕事へとエスカレートしたそうで、少なくともそういう目には僕は遭わずに済んだ。

 小金以外にあの仕事で得たものなどなく、むしろ空しい思いをしたことの方が多かった気がする。
 けれど今でも夏限定のワサビ味のポテトチップスが発売される度、このフレーバーが大好きで、小汚いアパートの通路で汚れた風に吹かれつつ、スライスチーズを乗せてぼろぼろこぼしながら食べて、余計汚しながら笑っていた母親と同世代の女の人達を、毎年のように思い出す。


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このストーリーに関するコメント

15/11/16 メラ

クナリさん、拝読しました。
まじっすか?と思わず言いたくなりました。迫力ある青春のワンシーンですね。
こういう世界に生きる人々。縁のない人には永遠に縁がないでしょうけど、本当にあるんですよね。そして彼らはリアルに息をして、飯を食って生活している。新宿界隈を夜な夜なウロウロしていた、かつての自分を思い出しました。ありがとうございます。

15/11/19 クナリ

メラさん>
水商売(?)にも深浅大小いろいろありますが、まあその中のひとつということで…。
やですねえ、フィクションに決まっていますよもちろんー。もちろんー。
部外者と当事者、精神状態と暮らし、様々な要素が絡み合った一人一人の人生は、自分などが書き表せるものではありませんが、まあ時にはこんなのも…ということで。
コメント、ありがとうございました!

15/11/23 冬垣ひなた

クナリさん、拝読しました。

猥雑感がリアルで何だか引き込まれてしまいました。
長年生きると彼らに近い人たちと知り合ったりもしますが、描き方が上手いなあと思います。
誰かの「何か」にもならない、ちょっと引いた感じの主人公。汚いポテトチップスの距離感が印象的でした。

15/11/25 クナリ

冬垣ひなたさん>
リアリティが出ていれば嬉しいです。
ちょっと冷めた主人公を置いて、その人が心乱れて慌て出すようなのが好きなんですが、今回はこんなやつのこんな話でありました。
ただの狂言回しのような位置ですが、役目を果たせていれば幸いです。
コメント、ありがとうございました!

15/12/14 こうちゃん

クナリ様、拝読させて頂きました。ミホさんの「子供かヒモか
ホストか猫か、サボテンとか、皆何かはいるよ」というセリフが僕は気に入りました。情感が出ていて、本当に横で聞いているような気分になりました。僕は普段、社員食堂で熟女に囲まれて仕事をしているので、「悪いけど私らは皆、ヨウコさんこの仕事であんまり良い目に遭わないんじゃないかと思ってた」という似たようなセリフを本当に聞いた気がします(笑)ラストの「余計汚しながら笑っていた母親と同世代の女の人達」の映像が、鮮明に見えました。

15/12/16 草愛やし美

クナリさま、拝読しました。

中身はこのようなことになっていたのでしょうか、
私は、数年前まで、こういう待機部屋関連の部屋に、
新聞の集金に行っていたことがあります。
そこは怪しい空気の漂う部屋の隣にある衣裳部屋。
一度だけ大きく放たれたドアから様々な煌びやかな衣装が見えました。
すぐ近くの部屋の前にはマンションといのに
大量の使用済み貸しおしぼりが山盛りになったカートンが……。
集金先に指定された部屋を横切る女性たちは
淡々としていた印象でした。
多くお金を稼げても失うもののほうが多いのでしょう。
それでも、その仕事を選んでいる人々がいるのは哀しいですね。
集金も大変でしたがまだまだ良い仕事だったと思います。
あの頃のことは今でも思い出すと切なくなります。

15/12/19 クナリ


こうちゃんさん>
作中ではかなり大切な一文なので、そこへ注目して頂けて嬉しいです。
「人は一人では生きて行けない」とはよく聞く言葉ですが、何で支えられているのか、そこにその人の人生を物語るドラマがあると思います。
自分と周囲という「場」と、流れて行く「時」の中で、少しでも自分を取り巻く世の中が良くなってくれればいいのですが。
女の世界の、熟したガールズトーク…深いようで他愛ない、同時に無意味なようで激しい告白のような、不可思議なもののような気がします。
通常仕事モードONの人達が見せる、OFFの顔。濃密な悲喜こもごもが、その時どろりと溢れるのでしょう。
「母親と同世代の女性達」の顔立ちはあえて描写しませんでしたが、イメージして頂けて有難いですッ。

草藍やし美さん>
色々なお仕事されてますねえ(^^;)。おしぼり、…な、なんか生生しいッ。
自分は彼女達と同じ仕事をしたこともありませんし、決して彼女達の身になって偉そうなことを(創作文の中ででも)申し上げるつもりはないんですが、何となく感じたことをなんとなくそのまま文章にして、なんとなく他の方にも何かを感じて頂けたら、何かが成功しているのかもしれません。
近年、体を元に(映像でも肉体そのものでも)対価を得る仕事をされている女性の地位向上というか、やたらと持ち上げる風潮を感じることはあるのですが、作中のようにそうした世間に対して冷ややかな視線を送っているのも、その仕事をしている本人達の一部、あるいは多数だったりするようです。
少なくとも、望まぬ仕事をしなくて済むような社会になってくれればいいのですが…。

16/04/25 犬飼根古太

クナリさま、拝読しました。

タイトルのインパクトと、冒頭の「同性相手専門のデートクラブ」という所に惹かれました。

「大学生の頃、高田馬場界隈」という風に時間と場所が限定されていて、印象的な描写や台詞が多いため、非現実的なのにリアリティーが感じられて面白かったです。

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