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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが最近になって、やっぱり小説家の夢を追い求めたい自分がいることに気づきました。久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説を書いてます。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 太宰治賞もしくは北日本文学賞で最終選考に残ることです。
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真っ赤な炎

15/11/10 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:2件 ポテトチップス 閲覧数:939

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6畳ほどの小さな取調室で、テーブルをはさんで向かいの椅子に腰かける狩野という名の若い刑事が、眉間に皺をよせながら、苛立たしく何度も「オマエがやったんだろう!」と言った。
成田修介は俯いたまま無言をつらぬき続け、そんな成田を見て狩野は、何度も吐いているため息を再度吐いた。
「やったのかやってないのかハッキリ答えろ!」
取調室の隅で、腕組みをしながら立って様子を窺っていた牧田刑事が「狩野、ちょっと休憩して来い」と言った。
「自供するまで寝させねぇからな!」と吐き捨て、狩野は休憩をするため部屋を出て行った。
牧田刑事は狩野が座っていた椅子に腰かけ、俯いている成田に言った。
「田舎、岩手なんだってな。俺もキミと同じ岩手なんだ。高校卒業して東京に上京し警察官になったけど、もう岩手にいた年数より東京に住んでいる年数の方が長い。あと2年で定年退職なんだが、退職したら妻と岩手で暮らすことを考えているんだ」
「……」
「田舎に住む両親のためにも、やったのかやってないのか答えてくれないか」
成田は一瞬、牧田刑事に目線を合わせ、すぐさま目線を下に落とした。
「やりました……」
「そうか。近隣で発生した5件すべてか?」
「はい」
「動機は?」
「家が燃えるのが好きで、日頃のストレスから解放されたんです」

夕方5時から勤務する食品工場の仕事が、定時の深夜2時に終わった。
更衣室で作業着から私服に着替え、成田修介は会社を出た。独り暮らしのアパートまでは徒歩で40分程かかる。いつもは自転車で通勤していたが、1週間前に会社の駐輪場に止めていたらサドルを盗まれたので、しかたなしに徒歩で通勤する羽目になった。
ポケットにしまっているタバコを取り出し、火をつけ吸った。11月の真夜中はブルゾンを着て厚着していても肌を冷やした。
とある2階建の民家の前を通り過ぎようとしたとき、玄関外に赤いポリタンクが置かれていた。成田は不意にあれに火をつけてみようと思った。おそるおそるポリタンクに近づき手で揺らしてみると、少量の液体が入っていた。成田の心臓は激しく鳴り出し、笑みがもれた。
咥えていた火のついたタバコを、キャップを外したポリタンクの中に落とすと、火柱を上げて一気に燃え広がった。成田は走って近くの土手に行った。熱くもないのに汗が止まらなかった。声を上げて笑った。
10分程経った頃、サイレンを鳴らした消防車が3台、川の上に架かる橋をスピードを上げて通り過ぎて行った。
成田は高鳴る心臓をおさめ、火災現場にゆっくりと歩いて向かった。木が燃える臭いがし、大勢の野次馬ができていた。野次馬にまぎれ、煌々と燃える家を見た時、あまりの愉快さに、大きな声で笑いたかった。それを必死に成田は堪えた。
この日から逮捕される1ヶ月間の間に、5件の放火をやった。
逮捕されたのは、運が悪かった。近隣で5件も不審火があり、警察が目を光らせていたのを知らず、ある民家に6件目の放火をやろうとしたとき、パトロール中の警官に呼び止められ、現行犯逮捕されたのだった。

狩野刑事が休憩を終え、取調室に入ってきた。
「自供しましたか牧田警部?」
「ああ。今さっき5件とも自分がやったと自供したところだ」
狩野は何で放火なんて馬鹿なことをやったんだと成田に聞いた。
成田は相変わらず俯いたまま、沈んだ声で言った。
「子供の頃に、よく家の庭でたき火をしたんです。あの頃はどこの家も庭でゴミを燃やす家が多くて、僕はたき火の匂いが好きな子供でした。学校のテストで点数が悪いと、親に見せずに庭で燃やしました。あの木や物が燃える匂いを嗅いでいると、不思議と穏やかな気持ちになれたんです。高校を卒業して東京に上京すると、外でたき火をする家なんてありません。そんな東京での暮らしも13年が経ち、あの日、不意な出来心から民家の玄関外に置いてあった液体の入ったポリタンクに放火し、数十分後に火災現場に戻ると、その家が燃える匂いに、とても心が安堵しました。日頃の単純な仕事内容や会社での人間関係に疲れていた心の疲労感が、その燃える匂いを嗅ぐと心が安堵し安らいだんです。罪悪感も少しはあったんですが、放火から数日が経過すると、また家が燃える匂いを嗅ぎたくなって、それで5件も放火をしてしまいました」
取調べ調書に自供内容を書き留め、深夜1時に取調室を出ると、牧田警部が狩野に言った。
「署の向かいのラーメン屋で遅い晩飯でも食わないか、おごるから」
「お言葉に甘えて、ごちそうになります」
2人が店内に入ると、客は1人もいなかった。注文したラーメンはすぐに運ばれてきて、2人は啜って食べた。
「でも牧田警部、家が燃える匂いが好きだからって、放火までしますか?」
「そういう人と違った感覚の持ち主なんだろうな」
狩野は割り箸を咥えたまま大きく頷いた。


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このストーリーに関するコメント

15/11/14 クナリ

善と悪、奇と正、後天と先天、優先順位と価値基準、どんなものさしを持ってきても理解し合えないのであろう価値観の違い。
ある意味で、永遠に解決しないとも言えるのでしょうこの事件、印象的な作品でした。

15/11/15 ポテトチップス

クナリさまへ

感想、ありがとうございます。
私は32年生きていて、警察のお世話になったことが一度もないので、犯罪を犯す人の考えやら気持ちなどは分かりません。でもきっと、犯罪を犯す人は、うまく説明できませんが、罪悪感を感じる幅が他の人よりも短いのではないかと感じます。

ご感想、ありがとうございました。

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