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空乃星丸さん

私がこの時空に現れて、地球は太陽の回りを60周しました

性別 男性
将来の夢 ピンピンコロリ
座右の銘 われ思う、x”&%

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コウガンザイ

15/11/08 コンテスト(テーマ):第六十七回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 空乃星丸 閲覧数:586

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 オカチマチ博士は新しい薬を開発した。数日後に製薬会社に連絡した。製薬会社の博士担当の研究員はオカチマチ博士の電話を受けるとすぐに、御茶ノ水にある博士の研究所に直行し、研究室の部屋に入るな否や、興奮気味に言った。
「先生、今度はどんな薬ですか。前回の奴は相当売れましたからねえ。今回も期待していますよ」

「ああ今度のはコウガン剤と言うのだが……」
博士はやや控えめに、小声で答えた。

「抗がん剤ですか!沢山出ていますが後遺症などあって、なかなか良いものが無いようですが、先生のは画期的な発明なんでしょうね!」
「いやー、コウガンザイとは言っても抗がん剤ではないんだよ」

研究員は博士が言っていることが理解できず質問した。
「抗がん剤じゃないコウガンザイって、一体どんなコウガンザイなんですか?」
「それなんじゃよ。いったい何なんだろうねえ。これ」
と言って博士は白い粉の入った瓶を研究員に差し出した。

「でも、これって、コウガンザイなんでしょう」
受け取った瓶をまじまじ見つめながら研究員が言った。
「そうなんじゃが、漢字で書くと分かると思うが」
と言って机の上の紙に、ちびった鉛筆で“睾丸剤”と書いて研究員に見せた。

「なんですか、これ」
「じゃろう」
博士も困った顔で答えた。

「わしもその効果を自分で確かめたんじゃ。結局、こういう名前にならざるをえん。君も試してみてくれんか。この通り、わしはピンピンしておる。むしろ元気になったような気がする。2,3日様子を見たが何ともない。害はないことだけは保証できる」
「人体実験ですか。気が進まないけど、博士がそうおっしゃるのなら試してみましょう」
研究員は白い粉をひとさじすくい、水と一緒に飲んだ。お腹が痛くなったり、熱が出たり、眠くなったりするようなことは無かった。

「わしも抗がん剤を作ったつもりじゃった。ねずみで実験したが特になんともなかった。
そこで、自分で試してみたんじゃが、体にはなにも影響はなかった。しかし、ちょっとした異変に気が付いたのは、実験結果を研究ノートに書こうとしたときじゃった。しかしその異変も二日ほどで治ったんじゃが。これがわしだけの結果なのか、他の人にも同じ作用が出るのか試してみたかったのじゃ」

博士はさらに、研究員に、
「今からわしが字を書く。その字を君も書いてみてくれたまえ」
と言って博士は紙と、もう一本、ちびった鉛筆を研究員に渡した。

博士が“抗がん剤”と書いた。研究員は“睾丸剤”と書いた。
「あれ、おかしいなあ」
と言うと研究員はもう一度書いた。“睾丸剤”となってしまう。
「次は、紅顔の美少年」
博士が言うと、研究員は“睾丸の美少年”と書いていた。
「次は、厚顔無知」
“睾丸無知”
博士は広辞苑を持ってきた。
「へえ、こんな言葉もあるんだ。対面することだそうじゃ。向顔」
“睾丸”
「抗顔。かおむけとか、傍若無人とあるのお」
“睾丸”

「わしだけじゃないんだねえ。わしは最初、困ったよ。抗がん剤の研究ノートを書こうとしたんじゃが、この始末じゃ。もう論文も書けんと思ったよ。しかし、二日くらいで元に戻った」
「博士、鉛筆じゃなくパソコンで書いてみたらどうでしょう」
研究員が言った。
「おお、それは気が付かなかったのお。やってみよう」

研究員はパソコンの前に座り、ワープロソフトで書くことにした。博士が、
「抗がん剤」
と言うと、研究員が打ち込み、“睾丸剤”。
「厚顔無恥」
“睾丸無恥”
研究員は“コウガン”という音声が頭の中で響くと、“睾丸”しか受け付け無くなるようであった。
「パソコンもおなじか」
博士は何を期待していたのか、少し肩を落として言った。研究員は適当に文章を書いてみた。コウガン以外は普通に書くことができたが、コウガンだけは駄目であった。

「なるほど。たしかに睾丸剤ですね」
研究員は納得した。そして、思いついて言った。
「博士、我々は男じゃないですか、女性がやると、どうなるのでしょう」
「それは良いことに気が付いた。が、こんな実験やってくれる女性がおるかのお」
「会社の研究室に、男など関係ない!私は研究一筋!という、赤い吊り上がった眼鏡をかけたベテラン女性研究者がいます。彼女にお願いしてみましょう」
と言うことで、研究員が乗ってきた○×製薬と書いた車で製薬会社まで行った。

早速女性研究員に事の仔細をつげ、論文出すときは連名でと言うことで白い薬を小さじ一杯、水と一緒に飲んでもらい、パソコンで実験をやってもらった。
博士が
「コウガンザイ」
と言うと、彼女は“抗がん剤”と書いた。

「次は紅顔の美少年」
“紅顔の美少年”

「厚顔無恥」
“厚顔無恥”

「どうも女性はコウガンはまともに書けそうですね」
研究員が言った。女性研究員は少々不機嫌そうであった。

博士はふと閃いた。
「ならばランソウはどうじゃろう」
博士が
「ランソウ」
と言うと、女性研究員は
「卵巣」
と書いて、少し顔を赤らめたが、すぐ気を取り直しキリッとなった。
「乱層雲」
“卵巣雲”
研究員に広辞苑を持って来させて、
「乱僧。乱暴な坊さんのことらしい」
“卵巣”
「藍藻。専門外でよく分からんが、モネラ界の下等生物で原核生物の一種」
“卵巣”

さすがの毅然たる女性研究員も、顔を真っ赤にし、
「もう、勘弁してください。これ以上やらせるなら、セクハラで訴えますよ」
と言うのも無理はない。うら若くはないにしても、独身女性にランソウなる言葉を連発させては、論文を連名にする以前の問題になりえる。

しかし、博士ならずともあの白い薬が、人間の誕生と存在を司る臓器に関連した、脳の言語野を性別に応じて麻痺させるのか、活性化させるのか、とにかく限定された効果があることは理解できた。

……もう少し検証実験例を増やせば論文にできる……
と博士は思った。研究も長く続けると、その学術的な新規性や社会的な価値より、論文を出すこと自体にこだわり、論文を出しただけで仕事をしたような気になってしまう。
論文中毒とでもいうものであろう。博士も中毒症状が慢性化してきた様子である。

しかし、今回のコウガンザイ、一体何の役に立つのか、用途がわからず、薬として世に出ることはなかった。


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