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らんかさん

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絶命の詩

15/11/08 コンテスト(テーマ):第六十七回 【 自由投稿スペース 】 コメント:2件 らんか 閲覧数:715

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「なんだ、やっぱり女だったか」
 その男は私のヘルメットを剥ぎ捨て髪を掴むと、顔を覗き見た。憎まれ口のひとつだけでも吐きたかったが、全身の痛みが酷く、自分がどんな顔をしているかも分からない私は、何の音も発することができなかった。男が髪を離せば、重力に押されて顔から地面に打ち付けられる。痛い。悔しい。体から赤が急速に消えていく。火薬と人が焼ける匂いがする戦地で、今まさに私は死のうとしていた。
 遠くで聞こえた叫び声が誰のかを考える代わりに、私は従姉の死に顔を思い出していた。一年前の春先。桜が咲くよりも早く逝った彼女。流行り病に侵された彼女は日毎に生気を失い、その朝、遂に白く儚くなった。眠ったまま去った彼女の顔は美しかった。その姿はわざと唇に死色をさして布団に入ったようで、今にも起き上がりそうだった。覚悟の上の身内の死は私に涙を誘わなかった。ただただ驚嘆したものだ。人はこんなにも静かに綺麗に死体になれるのかと。
 私の死は戦場に散った花として軍で悼まれるだろう。国の為に戦いの場に出向いた女が命がけで守ろうとものを、男のお前たちが守らずして誰が守るのだと、教官が叫び散らすのだろう。そしてあの国の犬共はその戯れ事に共感して、次の戦で意気揚々と命を捨てるのだ。馬鹿な犬共め。誰が国のためになど死んでやったと言うのか。私は父に棄てられた行き場のない女だ。この身に宿ったら命だと、何の足しにもならないと軍に売られた女だ。そしてお前たちも私と同じように価値のない命なのだよ……おお、犬よ。哀れで可愛い犬よ。
 だが犬よ。愚かな犬よ。誰がこの地を好き好んで死地に選ぶというのだろうか! ああ、神よ! この土とも鉄とも動物の死骸とも分からぬ腐りきった赤い土の上で、私はなぜ肉片に成らざるを得ないのか。生き物の死んだ匂いしかしないこんな醜い土地で。私の知らぬ土地で! 私は従姉のように死にたかった。その身に傷ひとつ付けず美しいままに、清らかな布にくるまれて、朝日の中、穏やかに死にたかったのだ。どうして、従姉はあんなに儚く去ったのに! 私の死など隊の一時の鼓舞にしかならない。血と傷で出来た私の身体にも、私の命などに価値もないのに、私の死すらも価値などないのだ。おお、神よ……、あの犬たちは死ぬのですか。私のように。価値なく、誰の涙も誘わず……。
 ああ、神よ、神々よ、神々の王よ。あなた方の内の平和の神というのは、既にいなくなられていらっしゃるのでしょう。この戦は十数年も止まず、あなた方の天に私たち死人が溢れ返っているのではないでしょうか。神々よ。どうか私の命をもって、新しい神を呼んではくれませんか。平和をもたらす神を。誰も私のように死ななくても済むように。ですが神よ、この命にそんな価値もないとあなた様もおっしゃるのなら、私はこの魂を悪魔に売り渡しましょう。どのような形でも、この戦を終わらせるべきなのです。我が子の帰還を待つ悲痛な親の心など、もう誰にも背負わせるべきではないのです。ああ、私の母は、我が子が戦地で死んだ知らせに身を引き裂かれることなくこの世を去った。しかしあの国の犬たちの中には、息子を思って毎夜泣く母親がいるはずなのです。ああ、神よ。私たちは全ての戦争を終わらせるべきです。でなければ、私たちはもう一度初めからやり直すべきなのでしょう。
 ああ、これが絶命。在りし日々は、ただ音もなく流れていく。もうけたたましい悲鳴が聴こえないようにと、私の耳は閉ざされた。最期の爆音と共にあたりは色を無くし、私の中の全てはただただ静かに終わっていった。
 そして世界が変わらないのと同じように、私の骨は永遠にこの穢れた土地に埋もれ続けるのだった。


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このストーリーに関するコメント

15/11/20 たま

らんかさま、拝読しました。

なんだろうこのタイトルは? と思いました。
それで、読んでみたのですが、面白かったです。
面白かったとひと言でいっても、その面白いにはいろいろあって、
いっぱい詰まっている、といった方がいいでしょう。
それらはすべて未解決のシロモノです。
あとは、読者の勝手にしてくださいって、
それが小説ですね。

15/11/22 らんか

たまさま、コメントありがとうございます

全ての解釈を読者に委ねること。小説の良いところでもあり悪いところでもありますね。短編だと、それが余計でてくるなぁと思います。
少しでも誰かの心に残るものになるようにと心がけているので、面白いと言っていただけてとても嬉しいです。
ありがとうございましたm(__)m

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