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三条杏樹さん

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奇人:とは

15/11/02 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:1件 三条杏樹 閲覧数:734

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今日も犯罪がニュースにあがる。
殺人、強盗、収賄、政治家の汚職、警察官の痴漢、サラリーマンの女子高生のスカートの中の盗撮・・・
もっとも目にしたくない二文字の犯罪が見えた瞬間、テレビを消した。弱いものを己の欲を満たすためだけに傷つけ、汚し、一生消えぬ心の闇を植え付けて満足する下衆の極み。もっとも嫌悪を抱く犯罪。
それでなくとも、そもそも暴力事件というものが嫌いだ。話を聞いただけで心臓が痛くなる。まざまざとその場面を想像し、被害者に感情移入してしまう。
周囲の人間からは、考えすぎだと言われた。
はたしてそうだろうか?

誰にも理解されぬと気がついたから、訴えるのはやめた。もっと早くに気がつくべきだった。


初めて女性が殴られたのを見たのは高校性の時だった。今でもはっきりと覚えている。鮮明に、残酷に。
生徒が行き交う廊下で、殴られた女子生徒は泣きじゃくる。その目は赤い。泣いているせいで赤いのではなく、殴られた側の左目の毛細血管がちぎれて内部で出血していたからだ。
今思い出しても胸が痛む。殴った男子はラグビー部。周りの生徒が怯えて手出しできず、止めることができずにいた間、彼は女子生徒を拳で殴りつけその頭を掴み机に叩きつけた。愕然とするほどの外道暴力。やっと教師たちが駆けつけて止めたとき、周りには外野がたくさんいた。私もその一人だった。何も偉そうなことは言えない。ちょうど、それこそドッヂボールの外野のように、コートの中の二人を囲んで何人もの生徒が見ていた。ただし、この場合は一方的にやられているだけだ。

私は憤慨した。どうして、あんなことができるのか。ラグビー部。信じられない!ラグビーで鍛えたパワーは女子を殴るためにあるのではないはずだ。
警察に言うのだろうか。当然だ。れっきとした障害事件ではないか。きちんとした処罰がくだされるべきだ。


しかし、結果はあまりにも冷酷で、傲慢で、非常なものであった。「大人の事情」を一身に浴びせられた被害者の女子が残るだけだった。

男子はラグビー部のレギュラー選手。全国大会である「花園」への出場が、我が校は決まっていた。試合に出たいから、彼を出したいから、なんと彼の処罰はなし。事件も公にしたくないからと、いわゆる「金」での解決で収まった。

どうしようもない怒りが沸いて、涙が出そうだった。殴られたのは私ではない。私ではないのに、腸が煮えくり返るとはこのことか。暴力を名誉のために揉み消すような学校にいることを、恥じた。
私は、こんなひどいことはないと、友人たちに言った。同じ女子ならば分かってくれるはずだと期待して。
しかし、女子生徒たちは怒りで荒ぶる私を笑い、
「他人事だから」
と言った。そのときの衝撃といったら。
全身を身動き出来ぬように縛られて指を一本一本切り落とされていくような、底なしの恐怖と怒り。


今更告発してもせんのないことだが。







そうして私はすっかりそれがトラウマになった。容赦なくか細い女子を引きずっておもちゃのように殴りつけ、そして無罪放免だったあの彼への怒りが派生して、弱者に対するすべての暴力を心から嫌悪するようになった。
至極、当然のことだと思われるかもしれない。しかし私は知っている。いかに世間が「面倒事」に首を突っ込まず、やましいことも隠して我関せずと生きているかを。

あらゆる暴力に怒りを顕にした。今思えば、自分が被害者でもないのに被害者に同情して偽善的な憤怒を撒き散らしていると思われても仕方がない。

そして、人々は「正義感が強いのね」、「自分に関係のないことで怒ってどうするの」、そんなことを私に言ってきた。そうして、皆離れていった。

ニュースを見て涙を流すのも、「他人事」で怒れることも、皆から見れば「異端」だった。

私が、おかしいのだろうか。
あの日の「他人事なんだから」という言葉を聞くことが怖い。
いつしか弱者を虐げる行為が許せないということを口にするのを完全にやめた。
「こいつは正義感を振りかざしてわけのわからぬことを言ってくる」と、レッテル貼りされたようだ。つまり、一番おかしいのは私であり、正常なのは他人事で心を病まず素知らぬ顔で受け流す大多数である。「受け流す」という能力は偉大である。
早く私もそうなりたいものだ。


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このストーリーに関するコメント

15/12/21 光石七

拝読しました。
胸が痛いのと同時に耳が痛いです。
ニュースに胸を痛めることはあれど、どこかで他人事と線引きしている自分がいることを確認させられます。
いろいろ考えさせられました。

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