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佐々木嘘さん

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すでに呪い

15/10/20 コンテスト(テーマ):第九十五回 時空モノガタリ文学賞 【 秘宝 】 コメント:0件 佐々木嘘 閲覧数:674

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色付きコンタクトで隠しているけれど、実際蒼太の右の瞳は宝石のように美しいく、いつかこの私が彼の目玉をまるっと頂こうと密かにずっと思っていた。
きっと誰も知らない。知ってたまるか。私だけが知っている。ブルーダイヤモンドのその眼球。


「おはよう」

挨拶をすると蒼太は怯えたような顔をして素早く私と距離を取った。おおおはよう、と吃りながらも律儀に挨拶を返すと猫背の背中をさらに丸め駆け足で教室へ向かってしまった。あーあ、と思いながら同じ教室へと歩いて行く。

私は蒼太に嫌われていた。
それでもしつこく迫る私は彼にとって不愉快な存在以外の何者でもないのだろう。

蒼太とは幼馴染ではないが全校生徒1000人程の同じ小学校に通っていた。だからそれを見たのは本当に偶然で。見られたくない傷があるからと嘘をついて付けていた眼帯がずれ、微かな隙間から隠されていた彼の右目を初めて見た瞬間、あまりの美しさに私は一瞬にして虜になってしまったんだ。

「あ、」

欲しい。その時私は本能的にそう感じた。
そして無意識に手を伸ばし蒼太の目玉をえぐり出そうとしてしまったらしい。

ぎゃああっ、と悲鳴が聞こえると、はっと正気に戻した。幸い指は瞼に当たっただけで怪我も出血もなく大事には至らなかったけれど、私の手は蒼太には立派なトラウマになってしまったようだ。それからは離れたり一緒になったりを繰り返し、中学3年でまた同じクラスになっていた。

小学校を卒業すると蒼太はコンタクトを装着し始める。小学校時代は毎日不自然に付けている眼帯のせいでいじめられた時期があった為、ほとんどが近所の公立へ通う中、中学は少し離れた誰も知り合いのいない私立を受験した。
だから蒼太自身もまさか私が同じ中学通うなんて思いもしなかっただろう。あろうことは自分の目玉をえぐり取ろうとした女が。

正直私自身もわからない。
なんでこんなにも蒼太の目玉に執着するのかが。


「…ねぇ、こんなストーカーみたいなこと辞めた方がいい?私のこと嫌い?怖い?」
「え。……え?…今更何言ってんの?」

蒼太は心底嫌そうな顔をした。
誰も居ない図書館のカウンターで私はボリボリお菓子を食べながら図鑑を眺め、蒼太は静かに小説を読んでいる。

「いやぁ、なんか今ふっと思ってさ。中学受験までして追っかけて、委員会も無理やり同じのに入ったりって…改めて考えると…私ってストーカー?」
「あ、……ああ、今頃自覚したんだ…」

今度は心底呆れた顔をしていた。
でも本当に、この執着心は異常だと思う。

私は遊んでばかりでとても頭が悪かった。だから彼が私立中学へ通うと聞いた本当に驚いた。でもすぐに逃がしてたまるかと思った。慌てて両親の説得を行い、小六の夏から自分を震え立たせ死に物狂いで勉強をし、そして見事合格してみせたのは今でも自分で信じられない事だ。

だって私は早熟でどこか冷めた子どもだった。我が儘も言わない、欲しい物も夢も無い、何かに熱中する、などありもしなかった。きっとこのまま特化した出来事も無く平凡でありきたりな人生を歩み死ぬんだろうと思っていた。
だけどあの日あの瞳を見つけ出した瞬間、熱く燃え上がる欲望の甘美にはじめて触れてしまったんだ。

蒼太の眼球はホープダイヤモンドととてもよく似ていると思う。持ち主を不幸に陥れ破滅させ、ルイ16世やマリー・アントワネットすら転落へと導いた呪いの宝石。
事実逸話ではホープダイヤモンドはもう一つ存在するのではないかと言われていた。だから私はその半分が巡り巡って蒼太の瞳へ埋め込まれてしまったのではないかと思っている。きっとそうだ。絶対に。そんなことを考えると全身がゾクゾクと震え上がってたまらない。

そうか、この独占欲すらすでに呪いなんだ。
不幸になるとわかりながらもこの掌に収めたくなる衝動。
恐怖すら凌駕させるその美しさ。
私以外の他人は誰も知らない秘密の宝物。
蒼太のオッドアイに。

「これって、恋なのかな?」
「………蛍の場合は恋じゃなくて変の方だよ」
「は?」
「…な、なんでもない」

言わなきゃよかったというようなバツの悪い顔をして素早く視線を小説へ戻した。
私は数秒間考えて今のはとても貴重な蒼太の冗談だと理解する。

「…それに蛍は僕じゃなくて僕の右目が好きなんだ。僕自身の事なんてこれっぽっちも興味がないんだよ」

1mmだけ蒼太の眉毛が下がった。これはわかりにくいけれど悲しんでいる表情だ。
でもその時の私には何故彼がそんな顔をするのかが全く理解出来なかったし、しようともしなかった。


私は手にしている宝石図鑑のページをぺらっと捲る。丁度そこにはホープダイヤが掲載されていた。呪いの宝石。不幸を招く宝石。

その片割れは今私の目の前に存在する。
蒼太の美しい青い眼球となって。


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