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ヒナタさん

まだまだ青春したいお年頃。 僕自身のお話や、私自身のお話があります。

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山の彼方。

15/10/20 コンテスト(テーマ):第九十五回 時空モノガタリ文学賞 【 秘宝 】 コメント:0件 ヒナタ 閲覧数:526

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山に囲まれたこの村で、ひとつのうわさを耳にした。
”山の彼方に、秘宝があるようだ”
それを求めて、この村から出て行く若者がたくさん居たそうだが、便りが絶え果て、家族は途方にくれるばかりだ。

「へえ、本当にあるのか、探してみたいな。」

彼は無邪気に笑うけれど、人の好奇心は止められない、と誰かが言ったような気がする。
その言葉のとおり、彼は後ろを振り向かず、ひとつの笑顔を残し、出て行ってしまった。





ロッジから今日も見える山。
彼からの便りなんざない。
この村よりもっと山の向こうに、ひとつの村があり、そこについたときはさすがに貰ったけれど、今はどこに居るんだか。
かれこれはや5年。
帰ってこない彼は、村民からは、あの若者と一緒に死んだのでは、とくだらないうわさを流していた。
無論、信じては居ない。
何せ、私が愛したあの人だ。
彼はどんだけ絶体絶命でも這い上がってくるゾンビみたいな生き物だもの。
_早く、かえって来ないかな。






「あら、奥さん。」

「隣の奥様?」

「お久しぶり。」

「ええ。」

「聞いたわよ。貴方の旦那様、お亡くなりになさって?」

「いいえ、あの人、秘宝とやら言うもの、探しに行ったんです。」

「まあ、馬鹿らしいですね、うちの旦那も行こうとしたんですの。さすがにとめましたけれど。」

「へえ、いいですね。うちは聞かずにふいっと行ってしまうもんだから。」






笑い飛ばすと、私は町へ出て材料などを買い込む。
嗚呼、貴方が行ってしまってからもう10年。
私もそろそろ年ですよ。
貴方は、今______
くだらないことを考えてしまう。
帰ってこないかと心配してしまう想いは、歳のせいだろうか。





”山の彼方に秘宝などはなかった。”
無事に帰ってきたある人が言った言葉だった。
行く前はもう少しふっくらとしていたのに、今にでも死にそうなぐらい、ガリガリだった。
_もう少し、早く言ってくれれば。
あの人は行かなかったかも知れない。







名前も、声も、顔も、姿も。
すべて忘れてしまった。
帰ってこなくなった貴方。
今日も元気にしてるのですか?
笑ってるのですか?
わからない。
私にはもう貴方がわからなくなってしまいました。
目からあふれ出る涙に、私は止められない。
_もう、60になってしまうのね。







ガチャリ。
ただいま、と聞き覚えの無い声が聞こえた。
誰ですか?
のそのそと立ち上がり、玄関まで覗き込むと、
土まみれの、酷くしわの荒いおじいさん。
おじいさんは私を見たなり、感嘆を嘆く。
_貴方?





「すまない、ずっと、ずっと・・・。」

「貴方なの・・・?」




ガリガリになった貴方の姿は、
もう面影もなくなってしまってる。
それでも。
貴方は私を信じ、
私は貴方を信じ、
帰ってきてくれたのね。








「聞いてほしいことがあるんだ。」




「なんですか?」




「山の彼方に、”秘宝”があったよ。」




「どんな?」





「それはね

















愛という名の秘宝さ。」










意地悪っぽく笑う貴方。
嘘をおっしゃい、なんて、
いえるはずが無いでしょう?


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