1. トップページ
  2. モモの憂鬱な日

光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

性別 女性
将来の夢 可愛いおばあちゃん
座右の銘

投稿済みの作品

12

モモの憂鬱な日

15/10/19 コンテスト(テーマ):第九十三回 時空モノガタリ文学賞【 憂鬱 】 コメント:20件 光石七 閲覧数:1344

この作品を評価する

 サチヨの指が毛並みをかき分け、肌を心地よく刺激する。アタシはサチヨの膝で眠りかけていた。
「あ、誰か来た。モモ、ごめんね」
サチヨはアタシをソファに移すと、玄関へ向かった。……寝よ。体を丸める。
「まあ、ヒロ君。いらっしゃい」
「ばあ!」
「ヒロ、先にじいにナンマンダァ」
……聞き覚え……ある……声……ZZZ
「にゃんにゃん!」
間近での大声にビクッとした。……げ! 不覚、悪魔の襲来に気付かなかった。慌てて逃げようとしたけど、尻尾を掴まれた。悪魔が背中に覆い被さってくる。やめて、前足だけ持って引っ張り上げないで! 重力で体が下がり、後ろ足が床に擦れる。
「にゃんにゃん、だっこ」
「だっこしたの。ヒロ君すごい」
く、苦し……。
「ヒロ君、葡萄食べる?」
「うん」
「じゃ、おてて洗おうか。ヒロ君とママとばあ、誰が一番上手かな?」
……何とか解放された。三人が洗面所に行った隙にサチヨの寝室に移動し、ベッドの下に潜り込む。しばらく隠れてよ……。
 悪魔――ヒロは月に一、二度やってくる。初めて会ったのは二年前、アタシがサチヨと暮らし始めて少し経った頃。あの頃は乳臭い、寝転がってるだけの生物だったのに。あっという間に這うようになり、歩くようになり、今では奇声を上げてアタシを追い回す。毟らんばかりに毛を握るわ、尻尾を引っ張るわ、力任せに抱き締めてくるわ……。
「ヒロは動物好きだね」
母親のマホは笑って見てるだけ。サチヨもヒロを叱らず、アタシをヒロに差し出すことさえある。ヒロがいる間、アタシは憂鬱だ。……まあ、遅くても夕方には帰るはず。あと数時間、なんとかやり過ごせればいいけど。
 ヒロがアタシを探し始めたようだ。声と足音が近い。みつかりませんように……。
「にゃんにゃん、ない」
「いないねえ。お出かけしたのかも。――ヒロ君、積み木しようか」
足音が遠ざかる。……よかった、今回サチヨはアタシを売らなかった。後は遊ばせてバイバイ、だろう。姿を見せなければ大丈夫そうだ。……ホッとしたら眠気が。ベッドに上がり、前足で布団を踏み踏みする。おやすみ……なさ……ZZZ

 お腹が空いて目が覚めた。外は暗いし、もう悪魔たちは帰っただろう。伸びをしてベッドから降りた。廊下を通って居間に足を踏み入れる。
「にゃんにゃん、いた!」
……なんで!? 前掛けを着けた悪魔が嬉々として近寄ってくる。アタシはダッシュで逃げた。
「ヒロ、まだごはん残ってる」
マホが連れ戻したのか追ってはこなかったけど、夕食まで居残るなんて。さすがに食べたら帰る……よね?
 でも、空腹は我慢できない。悪魔に気付かれないよう食べるには……。そっと台所に回り、居間の様子を覗く。食べ終えたヒロはテレビに夢中だ。今のうちに……。
「マホ、本当に帰らないの?」
「だってタンカ切って出てきちゃったし……。泊まったら迷惑?」
えっ、泊まる気?
「迷惑じゃないけどね。変な意地張らないで早く仲直りしたら?」
マホは夫婦喧嘩の勢いでヒロを連れて家出してきたのか……って、エサ皿空っぽ!
「あらモモ、ごはん? ――ヒロ君、にゃんにゃんがごはん欲しいって」
ヒイィッ……! 逃げようにもサチヨに押さえつけられて動けない。結局ヒロのちょっかいを受けながら食事する羽目に……。
 しばらく玩具にされてたけど、ヒロの動きが鈍ってきた。
「眠い?」
マホがヒロを抱き上げる。アタシは逃げ出した。サチヨが客間に布団を敷き始める。ホントに泊まるの? ……まあ、寝てる間は大人しいか。
 だけど、ヒロはぐずっているようで泣き声が止まない。
「夜は割とすぐ寝るんだけど……」
「環境が違うからかもね。ヒロ君がうちに泊まるの、生まれた時以来でしょ?」
「というより……多分、毎晩パパの頭触りながら寝てるから……」
「ママじゃダメなの?」
「あの癖っ毛がいいみたいで」
「困ったわね」
……別にヒロの機嫌の良し悪しなんて知ったこっちゃない。けど、さっさと寝てくれないと安心して家の中をうろつけない。アタシは襖の隙間から客間に入った。
「ニャー」
マホの腕の中からヒロがこっちを見た。
「にゃんにゃん……」
泣き顔のまま手を伸ばしてくる。マホがアタシの前で屈んだ。ヒロがアタシを闇雲に撫で回す――

「ヨウ君の髪とモモの毛って似てるのかしら? あんなにぐずってたのに」
ヒロの寝顔を見ながらサチヨが言う。
「おかげで助かったわ。これから泊まる時はお願いね、モモ」
マホ、冗談やめて。今夜だけよ。ヒロがうるさくて寝てられなかったから……それだけ。

 翌朝、マホの夫が迎えに来て二人は帰っていった。やっと平穏が……。悪魔の滞在は一時間で十分。それくらいは……我慢してやるわよ。


 翌年ヒロの妹が生まれ、兄妹から追い回されるようになることを、モモはまだ知らない。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/10/21 滝沢朱音

憂鬱なモモちゃん、かわいい(ΦωΦ)
にゃんこさんたちにとっては、ちびっこは悪魔のような存在なのですね^^;
来年からはその悪魔が二人に…?!
マホさん夫婦も無事に仲直りできたみたいでよかった。ほっこりしました♪

15/10/21 智宇純子

拝読させていただきました!
そのほんわかした情景が繊細に浮かび上がり、癒され、そしてとても楽しませていただきました♪
そして、自分の幼少の頃を思い出し、懺悔したい気持ちになりました(汗)

15/10/23 泡沫恋歌

光石七 様、拝読しました。

ですよねぇ〜猫にとって幼児は天敵ですもの。
向こうは可愛がってるつもりでも、力加減が分からないのでまるで拷問でしょう。
これ読んだら猫もタイヘンだと思ったわ。

プロフィールの愛猫ちゃんのアクビがお見事(ω゚∀^ω)ニャンニャーン♪

15/10/24 こうちゃん

光石七様、拝読させて頂きました。情景描写が鮮明に脳裏に浮かんできました。猫をお飼いでないと出来ない「吾輩は猫である」のような的確な視点ですね。周りの環境を上手にコントロールすれば、書き手にとっては物凄いパワーの源となりますね。 

15/10/24 鮎風 遊

モデルは上のニャンコですか?
なるほど、追い回したくなりますね。
ほのぼのとさせてもらいました。

15/10/25 光石七

>朱音さん
コメントありがとうございます。
モデルは愛猫と動物大好きな甥っ子です。
他の甥っ子姪っ子は興味は示しても触れるのを怖がるのに、この甥っ子だけは愛猫に突進します(笑) 1歳になったその妹も猫に触りたがって仕方なくて。可愛がってるつもりなんだけど力加減がわかってないので、猫は嫌がるという……
うちの猫はすっかり子供嫌いになり、滞在中は外出するようになりました(苦笑) でも、ちびっこに対しては何をされても絶対引っかいたり噛みついたりはしないので、その点は偉いと思います(大人にはします)。
ほっこりしていただけてよかったです。

>智宇純子さん
コメントありがとうございます。
ほんわかしていただけたようで、うれしいです。
子供の頃はしょうがないですよ。逆に、そうやって生き物に触れる中で学んだこともあるでしょうし。私もいろんな生き物にいろいろやってしまいました(苦笑)
楽しんでいただけたなら、幸いです。

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
猫と幼児、まさにおっしゃる通りの関係ですね。
愛猫と動物好きの甥っ子がモデルとなっています。ちなみに、寝るときにパパの頭を触るのは、今は小学生の姪っ子の昔の癖でした。ただし、癖っ毛ではなく坊主頭が気持ちよかったらしいです(笑)
うちの猫はすっかり子供恐怖症(笑)となり、声や気配を察すると外に出て、子供が帰るまで家の中に入らなくなりました。どうしてもお腹が空いたときは、さっと帰ってきてさっと食べてすぐ出ます。でも、捕まって嫌なことをされても、子供に対して爪や牙をむくことが無いのは…… 一種の母性なのかなあ? それか、抵抗する気も失せるほど恐怖を感じているか(苦笑)
あくび写真、気に入っていただけてよかったです。

>こうちゃんさん
コメントありがとうございます。
過分なお褒めの言葉、恐縮です。
猫や甥っ子姪っ子は観察してると面白いし、彼らの言動が小説を書く際に役立ったりしますね。
少しでも楽しんでいただけたなら、うれしいです。

>鮎風 遊さん
コメントありがとうございます。
はい、モモは写真の愛猫がモデルです。毛色は読まれる方のお好きに想像していただければと書いていませんが、動物好きの甥っ子によく追い回されてます(笑) あと、その妹にも。今や愛猫は完全に子供嫌い、子供恐怖症です(苦笑)
ほのぼのしていただけて、何よりです。

15/10/25 メラ

光石七さん、拝読しました。

これ、ありますよね。猫って子供嫌いですよ。だって子供は容赦ないし。
それを助長する「親」も多いですよね。「動物好きのいい子なんだね」って、猫が迷惑しているのに、その子を褒めるんですから。
「猫と人間の子供」は「犬猿の仲」ですね。楽しい作品でした。

15/10/25 光石七

>メラさん
コメントありがとうございます。
ええ、子供は容赦ないですね。本人は可愛がってるつもりでも、猫にとっては……
二、三歳児の猫のだっこなんて、だっこになってませんからね。そして、猫の気持ちを考えるより、とにかく自分が触りたい。甥っ子を見てつくづく感じます。
あまりに愛猫が苦しそうな時は止めに入りますし、「やさしく、やさしく」と諭したりしていますが、そういう経験も含めて、子供は生き物との触れ合いからいろいろ学んでいるのかもしれません。
楽しんでいただけたようで、うれしいです。

15/10/29 冬垣ひなた

光石七さん、拝読しました

猫さんのほのぼの話、いやモモにとっては大変だったのだろうけど、面白かったです。
子供の頃はやたら動物と、何故か意思疎通できてると思ってましたね。あれは猫が大人だったのだと思います。
仲良くなるのかな……と思っていたら、ラストの衝撃的展開に、モモ頑張れと応援したくなりました。
素敵な話をありがとうございました!

15/10/30 光石七

>冬垣ひなたさん
コメントありがとうございます。
楽しんでいただけて、よかったです。
ヒロのために一肌脱いだモモの微妙な心理を察してくださったようで、うれしく思います。しかし、この後に待っているのは、確かにモモにとっては衝撃の展開でしょうね(笑)
なごんでいただければ幸いです。

15/11/01 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

そうですよねえ、猫の身になれば悪魔そのもの……でしょうねえ。苦笑

家族の関係など知ったことじゃないのに、被害だけは受ける、そんなモノの顔が浮かびそうです。生き生きとモモが描かれているのは光石さんが飼っている猫ちゃんを愛しているからできることでしょうね。猫の目を通しての世界、とても興味深くて面白かったです。

15/11/03 光石七

>草藍さん
コメントありがとうございます。
家の中に入ろうとしたら子供が来ていた、そんな時の愛猫はまさに悪魔を見たかのように強張ってますね(苦笑)
生き生きと描かれているとのお言葉、うれしいです。
私としては愛猫を大事にしてるつもりですが、愛猫からすれば“使えない奴隷”のようです(笑)
楽しんでいただけたなら、何よりです。

15/11/04 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

ネコちゃん目線の語り口がなんとも可愛くて、気の毒で(笑い)
ネコにとっては幼児はなるほど悪魔かも。
モモには同情するけれど、あと数年は受難の日々が続きそうですね。

15/11/06 光石七

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
人間の言葉をすべて理解してるわけではないだろうけど(本当は人間語(笑)はわからない設定にしたかったのですが、字数的に無理と判断した次第)、猫はこんなふうに思ってるんじゃないかと。
兄妹が猫への思いやりと力加減を覚えるまで、モモの受難は続くでしょうね。
少しでも楽しんでいただれば、うれしいです。

15/11/06 石蕗亮

拝読いたしました。
お久しぶりです。
猫らしいお話でリアルでした。
私の実家の猫は、仕方ない、といった体で子供をあやしますが、やっぱり苦手な子供が来ると逃げていきます。

15/11/06 光石七

>石蕗亮さん
コメントありがとうございます。
愛猫と甥っ子をモデルに書いてみました。愛猫が自分からちびっこに近づくことはまずありませんが(苦笑)
石蕗さんのご実家の猫ちゃんは大人の対応をされるのですね。うちの猫は、引っかいたり噛みついたりはしないけれど、幼児を嫌がって(怖がって?)捕まっても隙あらば逃げようとします。
楽しんでいただけたのでしたら、幸いです。

15/11/07 みつ

光石七様、こんにちは!
私もお邪魔させて頂きました。
とてもほのぼのとして可愛らしい物語でした。にゃんにゃん好きにはたまらないのではないでしょうか?(残念ながら、私はわんわん派なのですが…)
これからもっと大きな試練がやって来るモモちゃんにエールを送りたいと思います!

15/11/07 光石七

>みつさん
コメントありがとうございます。
ほのぼのしていただけてよかったです。愛猫と甥っ子(+その妹)の関係から思いついて書いてみました。
私は猫派ですが(こういう話を書く時点でバレバレですね(笑))、犬も好きですよ。
これからもっと大変になるモモを思いやってくださり、うれしいです。

15/11/11 murakami

猫ちゃんの憂鬱が伝わってきました。でも、憂鬱になるのは、反撃に出ない、モモちゃんの優しさですよね。
このテーマで読む人が憂鬱にならないような題材を選ばれたところが素晴らしいです。

最後の1行がとっても効いていて面白かったです。

15/11/11 光石七

>村上さん
コメントありがとうございます。
愛猫と甥っ子(とその妹)がモデルになっています。
猫の優しさなんでしょうかね、反撃しないのは。飼い主に怒られたからというわけでもなく、最初から子供に対しては噛みついたり引っかいたりしないですね。私がちょっかい出すとすぐ噛むんですけど。
楽しんでいただければ幸いです。

ログイン