1. トップページ
  2. 白い砂漠

猫田米さん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

白い砂漠

15/10/16 コンテスト(テーマ):第九十三回 時空モノガタリ文学賞【 憂鬱 】 コメント:0件 猫田米 閲覧数:556

この作品を評価する

砂漠を歩いていたのは僕だろうか。船が不時着する寸前、警報機の切れ目に、砂漠に佇むひとりの男の子を見た。次の瞬間には目の前に、炎と、瓦礫と化した船があった。太陽が僕の肌を焼いていく。ここの太陽は、僕の染色体には合わないらしい。この時代が合わないのかもしれない。体が次々と赤や青や泥に濁ったような色に変化していき、その度に僕の腕が、僕のものではないように感じる。いったいどうして僕はこの星にこようとしたのか、思い出せない。頭が痛い。砂が喉や目に入り、全身の水分がなくなっていく。それよりももっとつらいのは、靴の中に入った砂だ。熱気で蒸れた親指と人差し指の間でこすれる砂。
僕は歩き続けた。歩く必要などどこにもなかったのかもしれない――目的という目的が、僕にはさっぱりわからなかったのだから。でも、まるで何かに引かれるように、僕の行動が、誰かによって予定されていたかのように、僕の足は砂に抗い続けた。
村は廃れていた。砂漠と見分けがつかないほど色褪せていて、村を見て回ることは、余計に僕を疲労させ、苛立たせた。でも、僕はこの村を知っているのかもしれない。木造家屋であったものが並ぶ、砂漠に似つかわしくないこの村は、思い出の残骸のように、僕の頭を痛めた。ところどころに埋もれた、なにか大きな生きものの化石に、なぜか心引かれた。砂から突き出した、肋骨と思われる部位に触れると、それは僕の肌の色を反響し、汚れた緑色に光ったあと、音もなく崩れてしまった。もしかすると、あの化石は、僕の体が記憶していたものかもしれない。時間を越えて辿った、僕たちの進化の一端なのかもしれない。そう思ったが、思うだけで、話す相手はおらず、化石はもはや砂になってしまった。
村の最奥に小さな神殿があった。神殿だけは建造したばかりのように輝いていた。神殿の門をくぐり、地下へと続く階段を降りると、真っ白い部屋に出た。吹き抜けの天井が太陽を切り取る枠のようで、調節された太陽光はまるで、部屋を一層白くさせるための装置のようだった。砂漠から独立した部屋の中は涼しく、僕はしばらくそこで休もうと思い、壁にもたれ、遠近がなくなりそうなほどに白い空間をじっと見つめた。どれくらいそうしていたのだろうか。僕はいつの間にかねむっていた。夢の中で、僕はある声を聞いた。そして、思い出した。「Qー二八番」夢の声は僕にそう告げた。僕はかつてあの場所で「Qー二八番」と呼ばれていたのだ。あそこは、神殿の中のように、すべてが真っ白い場所だった。病院だった。僕はそこであらゆることを放棄させられた。食事も、行動も、思想も、自由も。機械を手にした彼らが僕に近づいてくる。そして僕は何日か、何十日かの間、抜け殻になり、僕を僕として成り立たせていたものが、体という器の中に閉まわれてしまう。そうなることで、僕はなにも考えずに済んだ。抜け殻でいる限り、彼らは僕をおもちゃのように可愛がってくれる。表情のない笑顔が僕の心を通り抜けて行く。僕は、内心では彼らを憐れんでいたのかもしれない――彼らが僕を憐れむのと同じように。そうして、日々は過ぎていった。一分が一年のように長かった。そして、時間とともに、白い壁はだんだんと迫ってきて、僕を圧迫し出した。いや、もしかしたら、僕の内側から、「僕」を押し出していたのかもしれない。
その日、目の前には炎があった。僕が燃やしたのだ。崩壊していく巨大な白。そしておそらく、僕は彼らと、ついに見ることのなかった他の患者たちを救ったのだ。仮面を被った彼らと、生きるために自らの生を、選択を壊されてしまった哀れな患者たちを、白い壁から救ってやったのだ。あるいは、共に火葬されたことで、彼らと患者たちは白い壁と一体になったのかもしれない。
未だ脳が砂に浸っているかのようで、ほとんどの記憶は戻らない。もしかしたら、病院の炎上と、船の炎上が重なりあっているのかもしれない。渡航は僕の夢のなかの出来事なので、僕ははじめからここにいた? いや、記憶の齟齬が生まれているのは病院の方かもしれない。僕は病院でのことを「思い出したと思う」だけで、僕が確かにそこにいたという証拠はどこにもないのだから。そして、不確かな僕の記憶によれば、この村は僕の故郷だ。僕が入院する前、あの星に逃れる前は、もっと彩のある、豊かな村だった。砂漠に囲まれてもいなかった。ここにはもう、誰もいないのだろうか。誰か、僕の名前を知っている人はいませんか?


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス