1. トップページ
  2. 神様が化粧をした

佐々木嘘さん

変な話ばかり書いています

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

神様が化粧をした

15/10/14 コンテスト(テーマ):第六十六回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 佐々木嘘 閲覧数:633

この作品を評価する

その日神様はお化粧をしました。
頬と唇には赤を薄く乗せ、瞼の上には金色のキラキラを一筆。
人間の雌。
一番瑞々しいと呼ばれる女の子と女の間の容姿に、真っ白な髪と瞳の色を艶のある黒へ。
青色のワンピースを纏ってそして、緋色の靴を履きました。




しばらくぶりに陸地に足をつける。最初は何だかあやふやな違和感が抜けなかったけれど、6cmのハイヒールで颯爽と歩くにつれ段々感覚が慣れてきた。
相変わらず此処は人間が多いな、と思う。

笑ってる子に泣いてる子。
男性と女性。
希望に満ちた人や絶望する人。

当然のことだけれど、人間はみんなみんな全部違う。
それはそれで一向に構わないが、私はどうにも日本という国が好きになれなかった。

ろくに信仰しない癖に腹痛や自分が窮地に立たされた瞬間思い出したように祈る都合のよさと図々しさよ。そんなもん知らんがな。利己主義者にご加護なんてありません。あまりの身勝手さに呆れ果ててもはや腹が立ちもしなかった。

それにそもそも私は神様だから合格祈願とか安産祈願とかはそれぞれ担当の神が付いてて自分は管轄外。取り敢えず適当に頑張って、と私はいつもそんな様を鼻で笑って目を逸らして過ごしていた。
まぁ、でも今はそんなことはどうでもいい。

「うーん…やっぱり違う気がする」

しかし。どうやら私は頃合が悪かったようだ。
折角若く美しい姿をし、細かな化粧を施したというのにあたりは真っ暗で、前途洋洋な若者が何処にも居い。その代わりに酒臭い老人や目つきの悪い男の群ればかりがうろうろしている。

変だな時間と場所をを間違えたか、と予想とは違いすぎる景色に少しだけ戸惑ってしまう。仕方がない一旦戻ろうかと考えながら歩いていると突然何かに躓き思わず転けそうになってしまった。でも、うわっ、と変な声が飛び出ると同時に私の身体は何かに支えられたお陰でアスファルトへの顔面強打は間逃れる。

「おねーさん、だいじょーぶ?」

声がした。男の子の声だ。
私は両足を地面にきちんと付けて正しく姿勢を整える。
暗くて良く見えなかったが汚れた地べた座り込んでいるこの男の子の足に引っかかったようだ。

「あ。…ああ、ありがとう」

取り敢えずお礼を告げる。男の子はおよそ13・4歳くらいか。
黒いフードを被り黒い服を着て黒いブーツを履いていた。

「お礼はいいからさぁ、僕を買ってよ」
「買う?」
「うん。おねーさん綺麗だから1万でいいよ。あ、あと別途ホテル代。ついでにご飯も奢ってくれるとサービスしちゃうな」
「…………きみ、名前は?」
「名前?名前はなんだっけな……あし、じゃなくて、あせ、あさ…あ、そうそうあさひ。朝日だよ」

あそこのホテル見た目はしょぼいけどベットはふかふかだから、ね?と私の後ろを指さし男の子は上目遣いでそう言った。ベットがふかふかだから一体何なんだろか。私は品定めするかのように足元から頭の天辺まで男の子をまじまじと見る。

しかしこんな男の子を一晩たった一万で購入できる世の中になっていたのかと珍しく驚きの感情を抱いてしまった。
この国は貧富の差はさほど無いものだと思っていたが、裏をちょっと掘り起こせば多分こんなものはごろごろ出てくると思う。
生きる金がないのだろう。
騙されたのか、捨てられたのか、自ら逃げたのか。
まぁでも今はそんなことはどうでもいいか。

それにこの買い物も単に興味本位だ。
だって神様に性別なんてないのだから。
今はたまたま瑞々しい女の肉体に仕上げているだけに過ぎなかった。
だったらそれを上手いこと使用しなければ。
それにこれも日本で言う何かの縁なのだろう。

私は男のに手を差し伸べた。
でもこの手は人間を救う為では無い。

「いいよ、行こうか」
「まいどありー」

どうせ単なる暇つぶしに過ぎないのだから。




「あれ、君日本人?」

壁の塗装は剥がれ廊下の照明など点滅している程おんぼろだけれど、確かにこのホテルのベットはふかふかだ。
私の脚は思った以上にくたびれていたので直様緋色のハイヒールを脱ぎ捨てベットへ寝そべると先に男の子にシャワーを浴びるように促していた。ぼふん、と身体を預けると凄い速さで睡魔が来る。

このまま少しだけ眠ってしまおうかと思った。けれど鴉の行水のごとく男の子はほんの数分後、くしゃくしゃくしゃっと短い髪の毛を拭きながら肩にタオルを掛けてパンツ一枚の姿で現れる。
そしてさっきまで汚い黒い服とフードで気付かなかったけど男の子の顔立ちは私が知ってる日本人とは少し違っていた。混血だろうか。男の子なのに随分と美人な顔つきだ。

「お祖父ちゃんがフィンランド人だからクォーターだよ。ね、僕意外と見栄えのいい顔でしょ?」
「うん。いい。私その顔好きだ」
「え、…ちょ、っと、冗談なのに…そんな真面目に返さないでよ…」

じっとその顔に見とれていると、ずっと作り笑顔だった男の子の顔面が少しだけ緩んだ。
何だ、この子はこんな顔も出来るのか。
男の子の耳がおもしろいほど真っ赤になっていく。
私の興味はみるみる膨らんでいった。
そうだそうだよ、折角一万ぽっきりのお買い得品なのだから余すことなく楽しまねば損だろうと。

「じゃあ次。シャワーどうぞ」
「ああ、私はいいよ」
「あれ?おねーさんそういうタイプ?まぁ別に僕も潔癖じゃないから大丈夫か。じゃあ何がいい?何からして欲しい?」
「…キスして」

りょーかい。と男の子はチラッと舌を出すと私をさりげなくベットに押し倒し優しく、妙に大人びた甘ったるいキスをした。
1回、2回、3回、と唇が触れ合う。
自分を買えと言う位自信があるのだろうと考えていたけれど実際確かに上手いと思った。
舌がとろけて意識も淀む。
でもこの子は年の割には妙に慣れすぎている。

「……きみ。朝日くん。いつからこんなことやってんの?」
「え?その話止めようよ、折角これから始めようとしてんのに」
「いいから答えて」
「えー…もうテンション下がるなぁ…ええっと。7?8?多分そのくらい。小学校低学年から」

だからさ僕意外と何でも出来るしどっちでも対応してるからリクエストがあればじゃんじゃん言ってね。若いから体力あるし経験値も高いし変な病気も無いし多少の痛みも平気だよ。
それは淡々と、ゲームのオプションを説明するかのような物言いだ。

なるほど。そうかそうかこんな感じの人間も居るのか。
新たな発見に観察をするようじっと朝日を見つめてみる。


勿論私は神だ。
内面、要は相手の過去や深層心理なんぞ一瞬で全て把握することが出来る。
だからこんなにも心と身体が幼い癖に自分を器用に作る彼はとても面白いと惹かれてしまう。

とおい昔、私は一番初めに光りを創った。
次に空を、その次に大地を。太陽と月と星、魚、鳥、野獣と家畜。最後に人を。
そしてその後はひたすら休んでいた。すると人はいつの間に大量に繁殖を繰り返し、気が付けばもう私の手に負えないほど世界は広まり続けていた。
私の知らない、想像以上の人間の世界。
だからたまに視察と称してこうして人間の姿をして人間として過ごしたりする。

この前はイギリスに居た。
そこでは老婆として過ごし毎日野良猫と遊びながら美味しい紅茶ばかり飲んでいた。
その前はオーストリアに居た。
子犬の姿をしピアノをバイオリンをオーケストラの演奏を劇場の周りを彷徨いながら息を吸うように音楽を聴く日々を送っていた。
そのその前は香港に居た。
食欲旺盛なデブに化け雑多で猥雑な市場や繁華街を胃袋が破裂するまで食べ歩きまわった。


人間は知らぬ間に面白くなっている。
成長。
これは私には予想もつかなかったことだった。


「そういえば名前は?女ってやってる時名前呼ばれる方が嬉しいんだろ?」
「名前は無いけど。私は神だよ」
「……は?え、神って……かみ?は?」
「うん、神。神様。私は天地を創造した神様」

まだ押し倒された体勢の私は、ほんの数センチ先にある彼の顔をじっと見つめながら真面目に説明をする。
すると少しだけ間が出来ると朝日は先に目を逸らし吹き出すように笑いだした。

「ぶはっ!あんた僕よりイカレてるよ。神様とか頭可笑し過ぎ!」
「え?そう?うーん、でも嘘じゃないし…どうすれば証明できるかな?」
「あははは!まじで言ってんだ!じゃあ神様なら何でも出来るでしょ?だったら俺を救ってよ。今すぐこんな糞みたいな生活や汚れた身体からさぁ」
「あ、ごめんそういうのは無理。今すぐ何でも願いを叶える系は創作上の魔法使いだから」

私は即座に朝日の願いはお断りさせてもらった。
だって無理なのは無理だし。そもそも今日はそんな事をする為に来たんじゃない。
私は右手を自分の顔の前で小さく左右に振って否定をし、何一つ欺きもせずに事実を述べる。


すると終始笑顔だった朝日の顔は一瞬にして心の底から呆れた顔に変わってしまう。
そして、あーもう萎えた、と呟くと私の両手首を掴んでいた手を離して、ふかふかのベットの端に座り込んでしまった。

「えー続きしないの?」
「しない。やる気も失せた」

駄々をこねる子供のようにふくれっ面をする朝日。
さっきも思ったけど朝日には作り笑顔より素の表情の方が年相応で可愛らしいと思う。

「………神様って信じたの?」
「一瞬、救われると願った自分に萎えた」
「そう。まぁ申し訳ないんだけど、今日は人間を救う為に来たわけじゃないから」
「……じゃあ何しに来たの?なんで俺の前に現れたの?」
「ただの暇つぶしだよ。朝日に会ったのは偶然。幸運だね」

私はにっこりと笑って答えた。
どこが幸運だと、と朝日は細めた目で訴えている。本当に、本当に心の底から嫌そうな顔を剥き出しにして。
そしてまるで諦めたような独り言を呟いた。

「…ははっ、うける。自分の人生なんてどうでもいいと思ったけど………僕やっぱり誰かに助けて欲しいのかな」

私は朝日を見つめた。外見じゃない、内面、奥底を見透かす。
朝日の心は泣いていた。おんおんと小さな子どもが母親を呼ぶように、助けを請うように、見つけて欲しいと自分の存在を訴えるような泣き方だ。
親に捨てられずっとずっと一人ぼっちで、愛情を、家族を、平穏を欲し続けている朝日の心。

口ではどうでもいいなんてほざきながら、汚い大人に汚された身体を必死で守ろうとするこの子は、とてつもなく可哀想で、そしていじらしいほど可愛らしい。

「神も人間も動物も。結局自分しか自分のことは何も出来ないんだよ」
「生まれた家柄と親で全てが決まるのに?人間を創ったのはアンタだろ?」
「私が創ったのは最初だけで朝日を作ったのは朝日の両親でしょ?」
「もーアンタまじで何で来たんだよ!救いも慰めも出来ない癖に!」

もーいい、と朝日は黒いフードを被り黒い服を着て黒いブーツを履いていく。
私はお札をそっと差し出すと彼はそれを雑に受け取ってポケットにぐしゃぐしゃに仕舞い込んだ。
一晩きっかり1万円。
その小さい身体と美しい顔はたったお札一枚で堪能出来る。
きっと朝日は今日も生きる為に見知らぬ誰かにその身体を売るのだろう。

可哀想な朝日、可愛い朝日。
でもごめんね。
きみはきみで自力で頑張って。
ただ待ってても突然都合よく助けてはくれないし、救い出してくれやしない。
誰も、もちろん神様も。
だって、今の神様はただの人間の、快楽主義の女の子だもの。




「あ、朝日」

薄汚い埃まみれの窓から見える。朝、東から昇る太陽の光り。
そういえば私が一番に創ったのは光りだったな、と思った。確かあの時もこんな眩い光りだった。
世界の始まるを告げる、朝と夜を創る、今を生きる人間の一縷の希望の象徴。

「…なんだっけ。私あれは好きだな。日本の歌なんだけど。あーさがきた、とかいう」
「え?ああ、あれ。あたーらしいあさがきたー、…ってラジオ体操の歌じゃん」
「そうそうそれそれ。素朴だけどいい詞だよね」
「そうか?」
「あーたーらしいあーさがきた きぼーおのあーさーだ よーろこーびにむねをひーらけ おおぞーらあーおーげー」

朝が来た。昨日とは違う一日が朝日と共に始まりを報じる。
そしてまた夜が訪れ、朝が来てを繰り返し人間はどうしようもなくもがき足掻きながら呼吸をする。
死に向かいながら、一秒一秒をたった一人で生きて行く。

よわいいきもの。



「じゃあ、そういうわけだから。朝日は今日もそのしょうもない人生を自分で勝手に生きて行ってね」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス