1. トップページ
  2. プールの底

泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

投稿済みの作品

3

プールの底

12/08/06 コンテスト(テーマ):【 プール 】 コメント:14件 泡沫恋歌 閲覧数:2792

この作品を評価する

「あたち、菜々美四歳、ひまわり保育園のタンポポ組だよ」
 クルッとした瞳の大きな女の子だった。プールサイドでは人目を惹く色の白さで、ひとりぼっちでいるが気になって声をかけた。
 この夏、僕は水泳部の仲間たちと遊園地内にあるプールの監視人のアルバイトをしていた。平日はさほどでもないが、土日は家族連れでプールは賑わっている。
「お母さんやお父さんと一緒じゃないのかい?」
「菜々美はここでママを待ってるの」
「迷子じゃないんだね」
「うん。ここで待ってるだけ」
「そうかい」
「お兄ちゃんは菜々美が見えるの?」
「えっ?」
「だったら、プールの底でいっしょに遊ぼう」
「……どういうこと?」
「うふっ」
 僕が瞬きをした瞬間に少女は目の前から消えていた。まるで白昼夢のような出来事だった。その後も賑わうプールサイドで時おり少女を目撃したが……まるで煙のように、一瞬の隙にスッと消えてしまう。――この少女のことが気になっていた。

 その日は、仕事が終わってバイト仲間たちとマック食べて帰ることになった。そこで僕は家の鍵を失くしたことに気がついた。たぶん、プールのロッカーに置き忘れて来たのだろう。うちの両親は旅行中なので鍵がないと家の中に入れない。仲間にプールに鍵を取りに戻ると言ってマックから出た。すっかり陽の暮れた街を自転車で戻って行く。
 閉園時間を過ぎた、遊園地は闇に包まれて閑散としていた。門の詰め所にいるガードマンに事情を話して中に入れて貰った。
 ロッカーにあった鍵をポケットに捻じ込んで、帰りかけたら……プールから水音がする。
 何だろう? プールを覗くと、小さな女の子が水に浸かって遊んでいるではないか。――こんな時間にひとりで!?
「おーい! そんな所で何しているんだ?」
 僕の呼び声に、少女はニッコリ笑って、
「お兄ちゃん、一緒に遊ぼうよ」
「プールには鍵が掛かっているだろう? どうやって入った?」
「開いているよ」
 プールに入る扉を軽く押したら開いた。いつも厳重に施錠してから帰っている筈なのに……とにかく、こんな時間にプールに人がいるなんて、トンデモナイことだ! 早くプールから出さないと――。
「こんな時間にプールに入っちゃあダメだろう。さあ、上がるんだ!」
 手を伸ばし、捕まえようとしたら、
「ここでママを待ってるだけ! ねえ、一緒にプールの底へ行こうよ」
 少女が僕の手を強く引っ張ったので、プールの中に転落してしまった。

「うわっ! 何をするんだ!?」
 水深八十センチのプールなのに足が着かない! 水泳部の僕は泳ぎには自信がある。プールサイドに上がろうとするが、誰かに両足を掴まれて泳げないのだ。
「お兄ちゃん、プールの底に行こう」
 耳元で菜々美の声がする。僕の身体にしがみ付いて離れない。
 く、苦しい……息が出来ない、このままでは溺れてしまう。ああ、僕の意識が遠のいていく……。誰かの叫び声がする。

 気が付いたら、病院のベッドだった。
 プールで溺れて死にかけていた僕のことを、なかなか戻って来ないので様子を見にきたガードマンが助けてくれた。あんな時間にプールに入っていた僕の行動をみんなに聞かれたが……少女の話をしても誰も信じてくれなかった。
 だけどバイト仲間からプールに纏わる怖い噂を聞いた。一年ほど前に四歳の女の子が排水溝に足を吸いこまれて溺死した事件があった。母親とプールに来ていた保育園児で名前は菜々美ちゃんと新聞に載っていた。――たぶん、あの少女のことだ。
 その後、六歳の男の子が浅いプールで溺れたり、ホームレスの老人がプールの中で死んでいたりと、不吉な事件が何度もあった。深夜に人影が見えたり、女の子の笑い声を聴いた人もいる。
 実は「幽霊プール」として、密かに霊スポットになっていたのだ。

 あれから三年の歳月が経った。
 当時、高校だった僕は大学に進学して地元を離れていたが夏休で帰省した。当時のバイト仲間から、あのプールは悪い噂が後を絶たないので埋め立てられたと聞いた。
 そして、今はプールは埋め立てられてバラ園になっていた。元々、遊園地の片隅だったのでバラが咲かない季節は訪れる人もいない。
 まるで何かに曳き寄せられるように、僕は再び訪れた。
 あの少女はママに会いたくて、プールの底で地縛霊になったのだろうか? 冥福を祈るためにジュースとキャラメルを土の上に置いて、僕は手を合わせた。
「菜々美ちゃん、成仏してくれよ」
 突然、土の中から小さな手がニョキと突き出した。ギョッと驚いて僕は尻餅をついた。恐怖でいざりながら後退りをする。
「ママはどこー?」
 菜々美の声がして、僕は足首を掴まれた。
「お兄ちゃん、一緒に遊ぼうよ」
「た、た、助けてくれぇー!」
 ズボズボと……足が土の中に呑み込まれていく……。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

12/08/06 そらの珊瑚

恋歌さん、拝読しました。

土の中から手が……このラストに背筋が冷たくなりました。
でも菜々美ちゃんは、きっとさみしいだけなんだよね。
怖いけれど、なんだかかなしいお話でした。

12/08/07 ドーナツ

菜々美ちゃん、最後は成仏するかと思いきや、どんでん返しで、怖いです。
深夜に笑い声なんて、かなりぞっとします。
お母さんを待ってるというのが、なんとも悲しいですが、でも、このプール怖い。お風呂入る時も,思い出してしまうかも。
下から引っ張られそう。

12/08/07 泡沫恋歌

珊瑚さん、読んでくださりありがとうございます。

最後に、成仏しないで手がニョキと出てくる、この返しは
「13日の金曜日」風のジェイソンくんのもじりです(笑)

プールに地縛霊がいたら、本当に怖いよねぇ〜

12/08/07 泡沫恋歌

おおくぼゆういち 様

こういうコメントはアラ探し、もしくは重箱の底を突くというモノですよね?

私がここに書き込んで欲しいのは読後の作品への感想や文法上の間違い、表現についてなど
創作者らしい感想なんです。
いつも、こんなことをコメントに書かれて迷惑です。

申し訳ありませんが、私の作品にはもう書き込まないでくださいね。

12/08/07 泡沫恋歌

ドーナツさん、コメントありがとうございます。

菜々美ちゃんはなかなか成仏しそうもないです。
お母さんに会いたい気持ちが強くて、自分が死んで別の世界に行かなくてはいけないことが
理解できないのでしょうね。

子どもの地縛霊はよく、そういうことがあると、以前に「心霊」番組で霊媒師が言ってた
と思います。

可哀想な霊だけに・・・救ってあげたいね。

12/08/11 ryonakaya

恋歌様、私は一人暮らしの怖がりなので、眠れなくなりそうです。夜寝ないで昼間寝るようにして、読ませていただくことにします(#^.^#)
トイレは近いので何とか行ける気がする(^^)

12/08/13 泡沫恋歌

ryonakaya 様

そんなに怖かったですか?
そこまでビビッて貰えて、作者冥利に尽きます(笑)

ありがとうどざいます。

12/08/18 郷田三郎

読ませて頂きました。このラストだと如何に水泳部員でも逃れる術は無いでしょうね。
水の事故は後を絶たなくて、楽しく遊んでいての事故が多いから更に悲惨さが増す気がします。
自分的には最後のオチが意外性があってよかったのですが、もっと本格ホラーっぽく書いたらもっと恐くなったような気がしました。

12/08/20 泡沫恋歌

郷田様、コメントありがとうございます。

オチはあれで良かったですか? 土の中に引き込まれてしまいます。

水で亡くなるよりずっと悲惨です。菜々美ちゃんは悪霊に憑かれているのかも知れません。
ページがあれば、もっともっと怖く書きたい気がしますが・・・

如何せん! 作者がビビリなので怖いのは実は苦手です(笑)

12/08/28 鮎風 遊

夏の夜の恐い話し。
もうバラ園には行けません。
しかし、現実にありそうかな。
面白かったです。

12/09/04 泡沫恋歌

鮎風さん、コメントありがとうございます。

この遊園地は地元H市にある、●●パーがモデルかも(笑)
あそこのバラ園はひと目につかない所にあります。

もう長い間、行ってないので今は変わってるかも?

12/12/30 笹峰霧子

初めは孫と一緒に楽しく読んでいましたが、
後半になると怖ーいお話しになりましたね。
ぶるぶるっと震えがきて、孫もこわーい!と言いました。
そこの土地、お祓いをした方がいいですね。笑

13/01/07 泡沫恋歌

霧子さん、コメントありがとうございます。

お孫さんと読んでくれたのですか。
とっても嬉しいです。
怖い話なので、お孫さんに怖がって貰えて嬉しいです。

お孫さんによろしくね♪

ログイン