1. トップページ
  2. 同族嫌悪愛

佐々木嘘さん

変な話ばかり書いています

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

同族嫌悪愛

15/10/09 コンテスト(テーマ):第九十四回 時空モノガタリ文学賞 【曖昧】 コメント:2件 佐々木嘘 閲覧数:822

この作品を評価する

安心、嫌悪、恐怖、期待、欲望。感情は未熟な心の中では一つも混ざり合えないでいた。多感な体内で持て余し発酵も出来ないでいつまでも燻り続けている。
優等生と劣等生、高慢と謙遜、理性的と盲目的。
そんな曖昧な境界線をほんの些細な出来事で反転させてしまう、15歳のこの身体。



「瀬山くん。今いいかな?」

花壇に水をあげている彼に初めて話しかけた。当たり前だけど瀬山くんはとても驚いた顔をして、手元が緩みホースの水が全て自分の服や靴へとドバドバかかっている。私は優しい口調で、とりあえず水止めたら?と促した。

「…え?ええ?何か…僕に用?」
「うん。ちょっと瀬山くんに話しかけてみたかっただけ」
「ぼぼぼ僕に?」

信じられないという顔をしている瀬山くん。それもそうだ、もう夏も中盤だというのに彼には友達が居なかった。それどころか話しかける人さえ居ない。寧ろ、いつも遠目から笑われ、いじられ、からかわれる。
いじめ。という程ではないけれどクラスに一人は居る浮いてる存在の人間だった。

ぶわぁっと熱気の篭った風が吹く。
その風は私の校則より長い丈のスカートと分厚い眼鏡、艶のない黒い髪の毛の束を小さく揺らした。

「私、3年で同じクラスになってから瀬山くんと話してみたかったんだ」

いつになく饒舌になり、ふふふっと笑って彼に一歩近づくけれど、その幅の分だけ瀬山くんは後退した。
耳まで真っ赤になった顔は随分と幼い。素朴で特徴のなく田舎の少年のような顔つきだ。姿勢の悪い身体。吃る口調。
だから彼はこんなにも同年代の奴等から見下され馬鹿にされるんだろう。

「いいい、い委員長が僕に?」

彼の発したその台詞はやけに癪に触ってしまった。
まるでスイッチが入ったように小さな苛々が一つ生まれた感覚が襲う。

そう、私は委員長だ。でもそれはただ糞真面目で地味で暗い性格の為無理やり決めさせられた忌々しい役職に過ぎない。そのせいで私は内申点にも繋がらない作業を押し付けられ性欲も阿呆も丸出しの群れをまとめないといけないのだ。担任も友達も誰も助けてくれもしない。なんだそれは。むかつく、むかつく!

「そう。瀬山くんに興味があって」
「ききききょうみって…」

うるせーな。一々オウム返しすんな。
話す度に私は苛々は募らせた。顔に出さないよう笑顔を作るので精一杯だ。
彼のその吃った声を聞く程私を異様にむしゃくしゃさせるのだから。

「服。びしょびしょだね。脱いだら?」

瀬山くんはホースを置き言われるがままたどたどしく動作する。そしてぐっしょりと濡れたシャツを脱ぐと頼りない上半身が剥き出しになった。
その腰は驚く程細く、無駄な肉はないが必要な筋肉もついてなかった。
一瞬背筋がぞわぞわとなぞられたような悪寒がする。
なんだろう。彼のこのしょうもない肉体は。私は半裸姿に異様に興奮した。

そして今すぐその貧相な身体を殴ってしまいたくなった。蹴りたくなった。顔面を地面に踏みつけて泣きじゃくる顔が見たいと思った。

だって私は優等生で糞真面目で地味で暗い性格で。
だから素の自分を曝け出せないストレスはガス抜き出来ないまま蓄積され続けていた。
心の中ではこんなにも毒舌で暴力的で嗜虐趣味をずっと隠していた本当の私。
反抗も出来ずハブられるのを恐れいつも周りと同調している外見の私。
でも内面の真っ黒い私は苛立ちを生産しいつも口悪く叫んでいたんだ。しね!みんなしんでしまえ!と。

でも。彼なら。私より下の彼ならいいのではないかと思ってしまった。
だって私と良く似るこいつが視界を過る度に腹が立って仕方がなかったのだから。上手く馴染めず笑われる姿がいつかの自分を見ているようで。腹が立って、愛しいのだ。

「私。好きかもしれないの。だから、確認させて?」
「かかか、か確認?」

さりげなく一歩彼に近づくと何の躊躇も断りもなく私は彼の頬を平手打ちした。
パァアアンと何とも心地の良い音が響く。
そしてその音と同時に私のもやもやしていた気分は吹き飛んだ。
ああ気持い。
思わず口が醜く歪んでしまうほどの快感で全身が震え立つ。ああなんて気持ちがいいのだろうか。

「……え、?」

瀬山くんは驚きを通り越して呆けた顔をしていた。
なんて無様な顔。情けない顔。でもその下がった眉毛が潤んだ瞳がとてつもなく可愛いと私は思ってしまう。
愛。そうこれは愛だよ。決して憂さ晴らしや鬱憤を晴らしている訳じゃないんだ。

「ああ、私やっぱり瀬山くんが好きだわ」

うっとりしながらそんな台詞を吐き捨てる。好きだから。だから今私は彼を叩いたんだ。
好きだからもっと殴りたいしもっと踏みつけたい。

優等生と劣等生、高慢と謙遜、理性的と盲目的。
そんな曖昧な境界線をほんの些細な出来事で反転させてしまう、15歳の私の、この身体。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/11/07 光石七

拝読しました。
“思春期の危うさ”とでもいえばいいのでしょうか、モヤモヤやストレス、苛立ち、衝動、自己欺瞞、自己弁護…… 様々なものを内包している主人公の姿が妙にリアルで、説得力がありました。
もやっとしたもの、ざらりとしたものが残る読後感で、いつまでも心に引っかかっているような静かなインパクトがあるお話だと思います。

15/11/09 佐々木嘘

光石七様

初めまして、佐々木嘘と申します
閉じ込めきれない感情を持て余し内面と外面の自分に悩む思春期が曖昧というテーマにぴったりだと思い書いた話ですのでこのように思って頂き本当にありがとうございます

個人的に後味の悪い話が好きなのでこんな嬉しい感想を頂いたのと、初めてコメントをされた喜びでいっぱいです

最後まで読んで頂きありがとうございました

ログイン