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ねむ亭三さん

基本的におもしろいことは何でも大好きなオヤジです。

性別 男性
将来の夢 悠々自適な隠居生活
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不確かな記憶の欠片

15/10/05 コンテスト(テーマ):第九十四回 時空モノガタリ文学賞 【曖昧】 コメント:0件 ねむ亭三 閲覧数:609

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え〜、いつの間にか季節もすっかり秋でございまして、朝、散歩なんかをしてますと、いきなり鼻を突くような芳しい匂いがする。ふと回りを眺めますと、なるほど、そこは銀杏並木だったりするんですね。そう、地面いっぱいに散らばった銀杏の実が、無残にも踏みつぶされてる。こりゃア、臭いわけですな。

うちの母ちゃんは田舎者でしたから、この季節になると、道端に落ちた銀杏の実を拾ってたんですね。拾ってどうするのかと言いますと、もちろん、食べるんです。でも、食べると言っても、茶碗蒸しなんかにして上品に食べるんじゃない。干した銀杏の実を炒って、殻を割って、そんでもって塩つけて食う。これがまたなんと美味かったことか。今も忘れられぬ、母の味。そんな感じでございます。

この銀杏拾いに関しては、いろいろと思い出がある。ただ、あまりにもたくさんの思い出がありすぎて、いざ記憶を辿っても、ちゃんとした話にはまとまらないんですね。それと言いますのも、幼いころの記憶なんてものは、せいぜい断片的なピースを、あたかもパズルのように組み合わせてるだけ。けれど困ったことに、その貴重な記憶の断片が現実に起こったものなのか、あるいはいつしか見た夢の欠片なのか、そこんとこがとんと分からなくなるときもある。困ったものですな。人の記憶ってものは、不確かなもんなんです。

たとえば、母ちゃんは確かに銀杏を拾いにでかけてましたが、アタシが拾ったら鬼のような形相で怒ってたんですね。自分は遠慮なくビニール袋がパンパンになるまで拾ってたのに。そのことを考えると今でも腑に落ちない。いつか母ちゃん本人に訊ねてみようとは思ってたんですが、そうこうするうちに母ちゃんはあの世に行っちゃった。もう、その真実を確かめることはできないんです。

それにしても、都会でもこの時期にはたくさんの人が銀杏を拾ってるんですね。田舎者の母ちゃんだけじゃなかったんです。大概がご年配の方なんですが、中には小さなお子様もいらっしゃる。あっちこっち走り回ったり、銀杏の実をわざと踏んづけたりしながら、ホント、楽しそうに遊んでる。

そんな姿を見ますと、やっぱり自分の子供のころの記憶が蘇ってきますな。一生懸命に銀杏の実を拾い集めてる母ちゃん。そのそばで同じように銀杏の実を探している自分。自分も銀杏の実を拾って母ちゃんに誉められたかった。その一心で、足下に落ちてたものを拾ったんですね。もう、嬉しくて嬉しくて、早く母ちゃんに見せたかった。
「母ちゃん、ギンナン、ひろったよ」
そう言って、手のひらの中にあるモノを母ちゃんに見せてあげたんですよ。そしたら怒られちゃった。
「なにしてるの、それは犬の……」

この季節の思い出の欠片でございます。


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