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みやさん

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海月ノ見ル夢

15/10/02 コンテスト(テーマ):第九十二回 時空モノガタリ文学賞 【 沖縄 】 コメント:6件 みや 閲覧数:1081

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「クラゲになる夢を見た」
高校二年生の弟の一樹が、真面目な顔をして言う。

「何それ」私は苦笑いしてしまった。
「クラゲになる夢を見たんだ」一樹はもう一度繰り返した。
「海の中をぷかぷかゆらゆら漂って、すごく気持ち良かった。今俺頭が坊主だろ?だからちょうどクラゲに似合ってるかも」そう言いながら一樹は笑った。私もまた苦笑い。何年か前に家族で旅行に行った沖縄の水族館で見たクラゲ達。私と一樹は飽きもせずにそのクラゲ達を眺めていたっけ。

「昔沖縄で見たクラゲ…気持ち良さそうに泳いでたよな。俺、産まれ変わったらクラゲになりたい。よし、絶対そうしよう」
一樹は真剣にそう言った。自分に言い聞かせるように。私はなんて答えたらいいか分からなかった。
「クラゲに生まれ変わったらサッカーが出来ないよ」
以前、一樹はサッカーをしていた。サッカーが大好きな男の子だった。
「サッカーが出来なくてもいいんだ。クラゲになってのんびり暮らしたい」
一樹のプロのサッカー選手になるという夢が、クラゲになるという夢に変わった瞬間だった。

「姉ちゃん、クラゲも夢を見るのかな?」一樹が聞いてきた。
「クラゲには脳が無いから、多分見ないんじゃない?」
「そっか…見ないのか」一樹は残念そうだ。
「でも人間が知らないだけで、クラゲも夢を見てるかも」私は慰めるように答えた。
「そうだよな、見てるかもしれないよな。クラゲ…どんな夢を見てるんだろう」一樹は嬉しそうに笑った。
「きっと人間になる夢を見てるんじゃないかな」私はそう呟いた。

一樹には右足が無かった。
クラゲになる夢を見る一年位前に右の太腿の腫れを自覚して一樹は病院を受診した。
腫瘍が出来ている、と医者に聞かされた私も一樹も両親でさえも、最初は太腿にデキモノが出来ていて、そのデキモノを切除すれば治ると軽く考えていたのだけれど、病理診断の結果、その腫瘍は滑膜肉腫と呼ばれる、悪性の筋肉に出来るガンだった。

一樹の腫瘍は広範囲の為に、右足切断を余儀無くされた。サッカーが大好きだった一樹は泣き喚き、絶対にイヤだと拒否した。
「まだ左足が残っているから大丈夫」
主治医の先生や両親は諭すように一樹をそう慰めたけれど、一樹にとっては何の慰めにもならなかった。無理矢理切断された一樹の右足は、今どうしているのだろうか?

右足切断後、すぐに肺への転移が発覚し、化学療法が開始された。入退院を繰り返しながら治療は進められたけれど、化学療法の副作用の為に、髪は抜けて一樹の頭は丸坊主になった。イケメンが台無しだよ、と泣く一樹。吐き気もひどく、体重は減る一方で、化学療法は一樹にとって辛く長い治療になった。

そんな化学療法の事をけれど一樹は助っ人外国人と呼び、両親や主治医の先生や看護師さん達を笑わせていた。自分の身体を悪の親玉のガンから守ってくれる助っ人外国人。最後の切り札の助っ人外国人にみんなが一縷の望みを託した。

助っ人外国人は頑張った。頑張って頑張って、踏ん張ってくれたけれど、悪の親玉から一樹を守り抜く事は出来なかった。


今、煙突から出る煙を見ながら、私は一樹と話したクラゲの事をぼんやりと思い出していた。クラゲになる夢を見た約一カ月後に、一樹の身体と魂は煙になった。一樹の棺桶に両親は天国でサッカーが出来るようにとユニフォームを入れ、私はこっそりクラゲの図鑑を入れた。一樹の夢はプロのサッカー選手になる事ではなく、クラゲになる事に変わったんだよと私は両親に言い出せなかった。

煙はまるでクラゲのように、空をぷかぷかゆらゆら気持ち良さそうに漂っていた。人間になる夢を見ているといいのだけれど…私はそう願わずにはいられなかった。


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このストーリーに関するコメント

15/10/04 つつい つつ

 クラゲになりたいと言い、助っ人外国人に望みを託す一樹。せつないけれど、病気に負けない一樹に励まされました。

15/10/14 光石七

拝読しました。
ただ気持ちよさそうに海を漂うクラゲ。一樹がクラゲになりたいと言ったのは、つらい病気との戦いから生まれた願望だったのかもしれませんね。
それでも明るさを失わず懸命に戦った一樹と、弟を思う主人公が切ないです。
心に沁みるお話でした。

15/10/15 泉 鳴巳

拝読致しました。

大好きだったサッカーを捨ててまで海の中をただのんびりと漂っているように見える海月に憧れるほど、先の見えない辛く長い治療の中で人間としての一樹の意識(というか魂というか)は磨り減ってしまったのでしょうか。急に産まれ変わったら〜と言い出したのも自分の死期を感じていたようで切ないです。
人間になって、サッカー選手になる夢を見てくれたらと願います。

15/11/02 みや

つつい つつ 様

コメントありがとうございます☺
一樹の新しい夢が叶うと良いのですが…

15/11/02 みや

光石 七 様

コメントありがとうございます☺
一樹の様な状況になったら、自分も海月になれたら…と思う様な気がします。

15/11/02 みや

泉 鳴巳 様

コメントありがとうございます☺
一樹の夢が海月になる事に変わった時に一樹は死を自覚していたのかもしれないですね。

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