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長月フレンチクルーラーさん

性別 男性
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憂鬱が咲く

15/09/30 コンテスト(テーマ):第九十三回 時空モノガタリ文学賞【 憂鬱 】 コメント:0件 長月フレンチクルーラー 閲覧数:660

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 最悪の気分だ。
 家までの道のりがやけに遠く感じ、足も鉛のように重たかった。
 僕は恋をしていた。そしてその恋が今しがた終わったのだ。
 二年という長きの片思いについ先刻、終止符を打たれてしまった。
 理由なく街をぶらついていて、たまたま目に入った花屋で彼女を見つけた。
 透き通るような白い肌にショートカットがよく似合う絵本に出てくる妖精のような女性だった。
 それからというもの話題のため草花について猛勉強をした。そしてお店に行く度に花を買って帰った。僕の家は今ではちょっとした植物園状態だ
 そんな地道な努力もありこの二年ほどでどんどん(自分なりに)と距離を縮めていった。手応えもかなり感じていた。あとは最後の一歩踏み出すだけなのだけれどなかなか踏ん切りがつかないでいた。
 そんな矢先の出来事だった。
 その日も僕は学校の帰り道、彼女のいる花屋へ向かった。そして。店の前で車から出てきた男性に抱きつかれている彼女の姿を目撃してしまったのだ。男性は「会いたかった」といい「彼女は外では恥ずかしいからこういう事はしないで」と言った。たしかにいった。
 僕は彼女たちに気づかれる前に気配を殺し(すでに死んでいたが)その場を後にした。



 なぜだ。彼氏がいる雰囲気なんて微塵もなかったではないか。なかなか発展させようとしない僕についに愛想を尽かしてしまったのかもしれない。確かに考えてみればあんなに可愛い女性が放っておかれるわけがないのだ。けれど二年間僕の中に溜まった彼女への思いは簡単に消えることはなかった。
 そして僕はある決心をした。



 次の日僕は大学を休んで彼女が勤める花屋へと足を運んだ。
 「あら、大学はどうしたんですか?」
 無邪気に聞いてくる彼女の笑顔に情けなくも泣きそうになる。勿論彼女は昨日の出来事を僕が見ていたことは知らない。
 「ちょっと休講になったもので」
 今は、こう答えるのが精一杯だった。話をどう切り出したものか。そんな事を考えながら店内をみて回っていると、紫色の小さなツボ状の花がたくさん付いた植物を見つけた。あの花はたしか……。
 僕はその、まるでぶどうの房を逆さまにしたような植物の前にしゃがみこんだ。
 綺麗に憂鬱が咲いていた。
 「ムスカリですか、とても可愛い花ですよね。でも、なんか今日の学生さんに似てるかも。顔もムスカリの花みたいに下ばっかり向いてますし」
 流石に僕のアンニュイな雰囲気を感じ取ったのだろう。
 「そうです、これは僕です。この花の花言葉通り憂鬱です。僕には好きな女性がいました。僕は近々その女性に告白するつもりでしたがその女性にはどうやら彼氏がいたようなのです。僕には到底かなわないような方でした。これは愚痴とかではなくてえっと、僕は彼女の幸せを願っています。……なんかすみません。ということで、これ下さい」
 途中自分でも何を言っているのかわからなくなった。
 彼女は最初、わけがわからないというような顔で聞いていたがすぐに、「あっ」という表情に変わった。そして、はあと短く小さなため息を吐いた。
 嫌味たらしい、根暗男と思われたかもしれない。けれどそれでも聞いてもらいたい想いがあった。このまま何も言わずに諦めて後悔したくはなかったし、次に進むために自分の中で決着をつけておきたかった。
 けれど彼女の口から出た言葉は僕の予想外ものだった。
 「こういうのって現実にもあるんですね。兄弟を恋人と間違う人なんて少女漫画とか小説の中だけだと思ってました。たしかにシスコン気味の変な兄貴ではあるけど……」
 え、兄弟?兄貴?シスコン?僕が顔を上げると彼女は続けて言った。
 「それとムスカリの花言葉はたしかに憂鬱でもありますけど、もう一度ちゃんと調べてみてください」
 彼女は、ほら早く早く、と言わんばかりに僕を見つめていた。僕は言われるがままポケットから携帯を取り出し「ムスカリ 花言葉」と検索をかけた。
 ムスカリの花言葉は「失望」「絶望」「憂鬱」ほら、やっぱりマイナスなイメージの花言葉ばかりだ。
 そう思いながらページを下にスクロールしていき僕は目を疑った。そこにはこう書かれていた。
 『明るい未来』
 『通じ合う心』
 「分かりました?ムスカリの花言葉にはまるで正反対の意味のものもあるんです」
 その声を聞き僕は少し混乱しながら、再び顔を上げ携帯の画面から彼女へと視線を移した。
 すると彼女はクスッと、憎たらしいほど可愛い笑顔を置いてタイミング良く(悪く)入ってきたお客さんの対応へ行ってしまった。
 すると途中で振り返り、
 「それ、お代は四〇〇円になります!」
 と、笑う彼女はやはり妖精としか思えなかった。


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