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AIR田さん

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15/09/23 コンテスト(テーマ):第九十三回 時空モノガタリ文学賞【 憂鬱 】 コメント:0件 AIR田 閲覧数:886

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 中学生の頃、クラスでエレキギターが流行っていた。
 私は姉の影響で洋楽を聴くようになり、ギターを始めるきっかけになったのも洋楽だった。ケーブルテレビの洋楽専門チャンネルで流れていた、「Desert」というイギリスのロックバンドのミュージックビデオを見て買う決心をした。
 その当時流行っていた、ビジュアル系のバンドも大好きだったが、労働者階級の不良くずれが歌とギターでロックスターとなったイギリスのバンドの方がもっと「クール」だったので、意気揚々とクラスメイトにそのことを伝えた。
 しかし、予想に反してクラスメイトの反応は冷たく、それどころか「洋楽なんか聴いて調子にのっている」といわれ、好きだった女子からも笑われるという最悪な結果に終わり、私は心の中で中指を立てながらも、「そうかも」なんて呟き薄ら笑いを浮かべ、クラスメイトの意見に合わせた。
 そんな中、親友だったジボンボは流行に乗ることもなく、カブトムシを捕まえたり、粗大ごみが不法投棄されている山の中で訳のわからないオブジェを作ってはしゃいでいた。
 私はイギリスのロックバンドがいかに「クール」なのかを熱く語ったり、雰囲気で「社会」の文句を並べ、よくわかっていないクラスメイトの不満をぶちまけていた。
「好きなこと、好きなようにすればいいのにね」
 私がどれだけ語ろうが、ジボンボから返ってくる言葉はシンプルだった。
 思春期真っ盛りで、服装、恋愛、髪型、進路という様々なことで混沌としていたクラスの中、ジボンボは蚊帳の外にいた。
 だから、ジボンボからギターを買ったと見せられた時、おまえも同じじゃないかと、口に出して喜んだのもつかの間、
「ひ、弾いてないじゃん!」
「えぇ?」
 ジボンボは小さいアンプから発せられるフィードバック音に聞き入っていた。
 エレキギターは、ピックアップが弦の振動を拾い電気信号に変え、それをケーブルで繋がれたアンプから音を出す仕組みで、フィードバックとは、アンプから出た音を再びピックアップが拾いアンプから出た音をまたピックアップが拾う、という繰り返しで鳴る持続された音のことで、それだけを聴けばただのノイズだった。当時の私はそう思っていた。

 入社してからお世話になっていた先輩が退職することになり、送別会の幹事を任された。他の客に気を使いたくなかったので、ワンフロアを貸しきれる店を予約することにした。
 送別会当日、予約した店へ行くと、店員が「スピーカーがありますので、音楽をかけたり、マイクを使用することも出来ます」と説明してくれたので、私はマイクを使いますと伝えた。
「かしこまりました」  
 店員はマイクをセッティングし始めたが、マイクとスピーカーの接続に戸惑っていた。やっとのことで音が出たが、音量が大きかった為、甲高いノイズが店内に響き渡った。
「きゃっ」
 店員は思わず両手で耳を塞いだ。
 手に持っていたマイクが床に落ち、鈍い音を拾い、スピーカーから増幅された音が出る。甲高い音は音程を不規則に変え、店内を駆け巡り、空間を満たす。
 私はその光景を見て、
「いいじゃないか」
 無意識に呟いた。

 学校でバンドブームが盛り上がる程、ジボンボは一人でギターからノイズを出すことに盛り上がり、曲が出来る度に私はそれを聴かされた。始めはただのノイズであったが、ジボンボはギターの音を歪ませられたり、短い間録音出来るエフェクターを使うようになり、ギターを弾いてもいないのに、段々と曲らしくなってきた。
「いいじゃん」
 素直に褒めた私の言葉に、ジボンボは嬉しそうに笑った。
 文化祭が近付き、クラスメイトが流行りの曲をバンドで演奏する中、ジボンボは弾き語りで出演すると自ら名乗り出たので、声を上げる程驚いた。その時、私は何故ジボンボが普通に弾き語るのかと思ってしまったのか。
 結果、女子生徒が4人程倒れ、学校史上に残る珍事件となってしまった。
 騒然とする体育館で、私はその曲に聞き惚れていたが、非難するクラスメイトの輪から出ることは出来なかった。

 その後、ジボンボは転校した。消息は長らく不明だったが、先日音楽のニュースサイトで、世界的に活躍しているアーティスになっていたことを知る。

 私はふと昔を思い出した後、スピーカーのボリュームを落した。
「あ、ありがとうございます」
 店員は頭を下げた。
「大丈夫ですよ」
 私は笑いながらマイクを受け取った。 
 もう一度スピーカーの音量を上げたい衝動に駆られたが、ただ溜め息を吐いただけだった。
「お客様?」
 店員に話しかけられて、私は自分が俯いていたことに気付く。
 同僚達が店に入ってきたので、私は当たり障りの無い明るい振る舞いで彼らを迎え入れた。


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