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つつい つつさん

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日本縦断3000km

15/09/23 コンテスト(テーマ):第九十二回 時空モノガタリ文学賞 【 沖縄 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:961

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 じゃがいもの収穫が終わった。今年は長雨が振ったりして、一時は売り物になる程大きく育たないんじゃないかって心配した。でも、収穫したじゃがいもは、少し小振りだけど、ちゃんと農協に卸せるサイズだった。
 俺は首にかけていたタオルで額の汗を拭いひと息つくと、隣で嫁の美佳もほっとした様子で俺を見ていた。農業は自然との勝負だ。毎年収穫期に思うことは嬉しさよりも今年もちゃんと育ってくれてありがとうって感謝の気持ちだけだ。いくらで売れるだの、利益が出るだのは収穫出来てこそだ。それまでに育たなかったり、病気でやられたりじゃ何のために育ててきたのか、わかりゃしない。特に俺は、農家に生まれたわけじゃない。普通の会社員の子として生まれ、三十歳になってから農業をやることになったから、育てていた作物が全滅なんてことに耐えられないんだ。農家の娘として生まれ育った美佳なんかは、そんなこともあるから、覚悟しておかなきゃって言うけど、まだ俺はそんなに達観できていない。
 俺は千葉の街中生まれ、農業なんて縁のない普通の学校を出て、社会人になってからは車の営業として働いていた。正直、成績は良かった。他の同期の奴なんかよりバンバン車売ってたし、店舗の主任どころかエリアマネージャーなんかにも期待されていた。二九までは順調に仕事をしていた。でも、もうすぐ三十って考えた時に、急に将来について迷った。営業の仕事が楽しくないわけじゃなかったけど、別に自分が興味もなんもないものを仕事だからってなんでこんな熱心に人に勧めてるんだろうって、わからなくなってしまった。結局、悩むよりは行動するタイプの俺はいいのか悪いのか次の月には仕事を辞めていた。後先考えて思慮深く行動しろって、なんか中学の時の担任に言われたような気がするが、それは大人になっても変わっていなかった。
 仕事を辞めた俺は、とりあえずもっと世の中のことを知らなければいけないって、日本を見て回ることにした。自転車とテントを買って、フェリーで北海道に行って、そこから日本を縦断して沖縄まで行く計画を立てた。実際には計画なんてもんじゃない。単なる思いつきだ。会社辞めて三日後には退職の手続きだのなんだの放り出したまま、もうフェリーに乗っていた。
 北海道に着いた俺は浮かれていた。ものすごく浮かれていた。この旅を終えた後、俺はどうなっているんだろう。何を思うんだろう。どんだけ成長しているんだろう。にやけた顔で北海道のひたすら真っ直ぐ伸びる道を自転車で進んだ。そのまま五日ほど北海道を走っていたけど、すでに進んでも進んでも全然変わらない景色に少し嫌気がさしていた。俺はやる気をなくして、道の駅のベンチで昼間から寝っ転がっていた。そんな俺を、農家のおっちゃんが暇なら手伝わないかって、声をかけてきた。退屈していた俺は急ぐ旅でもないから、手伝うことにした。
 それから十年、俺はずっと北海道にいる。その農家のおっちゃんは今では義理の父親になっている。農家で働いた俺はその一人娘の美佳となんとなく付き合うことになり、ちやほやされているうちに結婚することになり、そして、今では来年小学生になる息子までいる。
 美佳はいつも笑う。俺を初めて見たときから、つかみどころなくて、何しに北海道に来たんだろうって思ったって。人生に迷って北海道に来る人はたくさん見たけど、俺ほどお気楽な奴はいなかったって。でも、俺は人生に迷って北海道に来たけど、迷いながら北海道から沖縄まで走るつもりだったんだ。だから、出発地点の北海道でそんな真剣に悩んじゃいられない。これから悩むつもりだったんだ。もし、旅をして半年とか一年とかならもっと悩んでいたはずだ。たまたま旅のはじめの浮かれはじめだっただけだ。年がら年じゅうお気楽なわけじゃない。何十回と説明してるけど、美佳は俺のことをお気楽な人間としか見ていない。失礼な奴だ。
 たぶん、俺は沖縄に行くことはないだろう。負け惜しみであの時乗ってきた自転車はいつでも走れるようにずっと整備してある。息子の亮太はあの自転車に憧れてるから、乗れるようになったらやるって約束してある。もしかしたら、亮太があれに乗っていつか沖縄まで行くかもしれない。そう考えるとちょっと楽しい。でも、俺は旅をして良かった。あのまま、街中で車の営業続けてるより、今みたいに汗水流して農業してるほうが俺の性分に合ってる気がする。もっともっと胸が張れるよう、俺は農業を続けたいと思う。
 日本縦断、予定走行距離約3000キロ、実際走行距離約100キロ。だけど、負けたなんて思っていない。俺の旅は北海道で終わったけど、たまたまここが俺の目的地だっただけだ。少し早く辿り着いただけ。俺の気持ちはいつだって、沖縄まで走る覚悟はある。あの時も、それに今だってある。そう、俺は信じてる。


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