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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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2.5次元の魔法少女

15/09/21 コンテスト(テーマ):第九十一回 時空モノガタリ文学賞 【 アニメ 】 コメント:8件 冬垣ひなた 閲覧数:1021

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「あーや、お昼のご飯だよ!」
美月はおしゃもじを持ったまま、娘の沙羅がいるリビングを覗いた。いつもならワンパクマンのお茶碗を持って飛んでくるのに、今日に限ってやけに大人しい。
「あーや!」
おもちゃが散らばったままの床に沙羅は座り込んでいる。
「ママ」
沙羅が振り回している宝石のついたピンク色のステッキは、4歳児が持つには大きすぎて、ハンマーにしか見えない。
その膝の上にはやっぱり大胆なショッキングピンクの衣装が広がっていて、オーガンジーの薄布に銀の模様が燦然ときらめいている。
あ、あれはクローゼットに隠してあったはず……。
「ママは、るりあたんだったの?」
沙羅がキラキラと目を輝かせている。
「違うの。それは」
沙羅はもうそんな事聞いてはいない。るりあのスティックと衣装を手に、「ほーっ!」「はーっ!」と大興奮しながら、美月を見上げている。
「いや、だからね……」


〜これまでのあらすじ〜

昔ある所にアニメの大好きな少女がおりました。
町や友達のために戦うカッコ可愛い魔法少女は、テレビ画面の向こうで、いつも大活躍する人気者でした。
21世紀に入って何年になろうかというのに、少女の家はさびれた商店街で豆腐屋をやっていて、光の溢れるヒロインたちの暮らしとは全然違いました。
せめて髪の色だけでもと思い、頭から絵具を溶かした水を被ってみましたが、クラスメイトから笑われただけでした。
豆腐なんて、豆腐なんて……!
「わ、私は、豆腐好きだよ。ごま豆腐とか、たまご豆腐とか、杏仁豆腐とか……」
「それぜっんぶ、原料、大豆じゃないし!」
友達のなぐさめも聞かず、少女の心はどんどん荒んでいきました。
高校を出ると、少女はすぐさま大都会・東京へ行きました。豆腐屋ではなく、声優になりたかったのです。
しかし、それも大変な事でした。バイトで食いつなぎ養成所へ通いながらも声優界の入り口に立つことはできず、子供のころから抱えて来た夢を、鼻で笑い馬鹿にされるのも珍しくありません。
日増しに、彼女は豆腐のある食卓が恋しくなりました。
夢破れ故郷に帰ると、何と商店街の側に大型スーパーが立っているではありませんか!
冷蔵ケースに山積みの豆腐、豆腐、豆腐……。彼女は試食コーナーで杏仁豆腐を初めて食べました。
美味い!大陸伝来のスイーツを手に、己の心の狭さを恥じました。
豆腐を知り尽くした大店舗に攻められ、今や商店街の命は風前のともしびです。そんな時でした。
「立ち上がれ、国産大豆に選ばれし魔法少女よ!」


……帰郷するなり、あれよあれよと商店街のイベントに引き出された美月は、1ヶ月後、紫色のウィッグを被り、必死で縫った衣装を纏って、舞台で踊っていた。
アニメじゃない世界で魔法のステッキを振った所で、ハッピーエンドになるはずなんてない。
でも数十人の子供たちは手を叩いてくれた。
数人の大人は喜んでくれた。
その中に美月の父と母もいて、全然夢など叶っていないのに、真昼の星に手が届いたような気がした。


夢は人それぞれ、2次元に近づいただけでドリーマーの中で特別だなんて思うのは、ほろほろとした朧豆腐の美味に惑わされ、揺らしただけで波打つ脆い豆腐が直方体に立つ奇跡を、ありふれているという理由で見向きもしないのと同じだ。
ここでだって夢は見える。
美月に出来るのはもうこれしかない!!
のちに某動画サイトで名を馳せた、「マジカル豆腐ガールるりあ」誕生の瞬間だった。
商店街のバックアップを得て、歌と踊りに愛を乗せた魔法少女のコスプレ動画は次第に人気を集め、多い時は再生数20万を越えた。
そして奇跡は起きた。
ブログやツイッターのるりあPRも功を奏し、商店街の客足は伸び売り上げは何とか傾きを止めたのだ。
更にその後、地元で出来たアニオタの彼氏は、渾身の力でるりあ3DCGアニメを作り上げプロポーズし、この動画を最後に美月は活動を引退した。
るりあは故郷を救い、そして永遠に歳を取らない世界に旅立った。
分身であったかつての少女に、涙まじりの豆腐を残して。


沙羅が昼寝したのを確認し、美月はリビングを片付けた。
娘には、まだアニメのるりあしか見せてはいなかったが、いつか話すときも来るだろう。夢の狭間、エピソード0の物語を。
妻となり子を産み、体型が変わった今となっては、もうこの衣装を着る事もないだろう。美月の足は3次元の大地を踏みしめている。そのことに少し満足しながら、美月は新聞を手にした。
するとテレビ欄にポンと、赤ペンで花丸がしてあった。
旦那一押しの秋の新作アニメ……ああ、2次元の森は抜けだそうにも深すぎる。
美月は結局スマートフォンでアニメ速報を調べながら、そうだ、今夜は寒いし湯豆腐にしようなどと考えた。
アニメと豆腐は、やっぱり最強のソウルフードなんだ。


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このストーリーに関するコメント

15/09/21 冬垣ひなた

<訂正とお詫び>

娘さんの呼び名を間違えました。正しくは「さーら」です。
何度も見なおしたのですが冒頭という大変な所を見落としました、お詫び申し上げます。

15/09/22 光石七

拝読しました。
後半まで読み進めてタイトルに納得しました。
最初に思い描いたものと形は違えど夢を叶え、今は幸せな家庭を築いている主人公。アニメも豆腐も主人公には捨てられない大切なものなのですね。
心が温かくなる、素敵なお話でした。

15/09/23 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

セーラー○ーンの映画を娘がまだ小さい頃見に行って、
グーグー寝てしまったことを思い出しました(笑い)
アニメの中では世界を救うとか壮大な救世主でしたが、、
個人商店の手作り豆腐を救うってほのぼのとしていいですね。
私が子供の頃は、毎日豆腐屋さんがバイクで売りに来ましたが、
そういう個人の店、今はもうないのかもと思うとさみしい気がします。

大阪文学フリマ、足をお運び下さって、本当にありがとうございました。
お会いできて嬉しかったです!ヽ(*´∀`)ノ

15/09/24 草愛やし美

冬垣ひなたさん、拝読しました。

こういうアニメの描き方良いですね、とても新鮮な2.5次元、発想素敵です。苦労して幸せを掴んだママ、きっと沙羅ちゃんは話を聞けば余計ママを好きになることでしょうね。
現代のシャッター商店街の実情を悲しく思っています。社会問題も含めて描かれていて素晴らしい作品だと思います。豆腐屋さんという設定も馴染みあって好感持てました。

冬垣さん文学フリマでお逢いでき凄く嬉しかったです。お声かけ下さってありがとうございます。冬垣さんは作品のように優しくてふわっとしたイメージ通りの素敵な方でした。機会ありましたら、今度はお茶でも飲みながらまったりと文学やいろんなお話がしたいなあと思っています。(o*’▽’)ゝ

15/09/24 泡沫恋歌

冬垣ひなた 様、拝読しました。

珊瑚さんと同じでセーラームーン思い出した。
娘と一緒に映画に行って、共に感動して帰ってきました。

うちは娘が未だにアニヲタで、私もいい年して一緒に観ます。
ハッキリ言って、テレビで面白いのはアニメだけだと思ってるもん(笑)

豆腐とアニメのコラボがユニークが良かったです。

15/09/26 冬垣ひなた

光石七さん、コメントありがとうございます。

タイトル先行で書いた話は、実は初投稿以来になります。
ライトに書くと読者さんの好みが分かれると思ったんで、お母さん的見守り目線で書いてみました。
豆腐は飽きずに美味しいですが、自分にとってのアニメもこういう位置づけですね。
爆笑は無理でも、微笑コメディーを目指して行けたらと思います。


そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

セーラームーンは漫画持ってるし再アニメ化も見ました、何故か大人になってからハマったという(笑)。ほのぼのしていただけて良かったです。
自分の近所の豆腐屋さんは、田舎ゆえに手広くやっておられます。
豆腐はスーパーで買えても、やっぱり豆腐屋さんがなくなってしまうと寂しいですね。

こちらこそ素敵な作品を本当にありがとうございました!
シルバーウィーク初日、遠方からの移動大変だったんじゃないでしょうか?
ツイッターは今勉強してます、頑張りますねヽ(゚▽゚*)


草藍やし美さん、コメントありがとうございます。

やっぱりアニメ=家族の団欒ですね。ビデオもなかった頃に、アニメを見る環境を整えてくれた親には今も感謝しています。
私は商店街で働いていた事があって、お向かいが豆腐屋さんだったんです。
この作品は、今はなくなってしまった豆腐屋さんへの想いも入っています。

文学フリマお疲れ様でした、お会いできて本当に良かったです!
こちらこそ、またぜひ色々お話出来たらと思います、ありがとうございました(*^_^*)


泡沫恋歌さん、コメントありがとうございます。

お察しどおり、この家族はうさぎちゃんファミリーをモデルにしています。
セーラームーンは母娘の絆もテーマの一つなんで、割と大人にも入りやすいのだと思います。
知人には「アニメ?ジブリとディズニーが好きだよ」とか言って誤魔化しますが(笑)、私は多分一生ア二ヲタなんだろうな。
元々アンハッピーエンドの予定でしたが、最終的にテーマらしいレジェンドストーリーにしました。気に入っていただけて良かったです。

15/09/27 滝沢朱音

「国産大豆に選ばれし魔法少女!」って、すごいキャッチフレーズ!
豆腐とアニメのコラボが斬新で、びっくりしました。
「アニメと豆腐は、やっぱり最強のソウルフード」の一文が熱い!
どこでだって、どんな境遇にいたって、夢を見ることができる。
そんなことを思いました。面白かったです。

15/09/30 冬垣ひなた

滝沢朱音さん、コメントありがとうございます。

考えた必殺技は「豆腐スコール」「にがりストリーム」で、そこ書くと違う話になってしまうのでやめました(汗)。
私が書くと話が熱い方に行ってしまうのは、熱血アニメで育ったせいだと思っています。
今はインターネットでこうやって創作もできますし、夢のかなう良い時代になりましたね。
どう書くか迷った所もあるので、面白かったと言っていただけて嬉しいです。

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