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線を引くオバサン

15/09/21 コンテスト(テーマ):第九十一回 時空モノガタリ文学賞 【 アニメ 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:831

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 それにしても同僚の藤森さんが歌ってる曲ひどいわねぇ。早く終わんないかな。まずこの画面に出てるカップルが問題なのよ。さっきも君たち出ていなかったっけ?この曲は誰の曲で、詩が今後どういう展開になっていくのか知らないけど、絶対にこの二人別れるわ。だってさっきも別れてたもん。で、男は雨の中走り出すんでしょ。あぁつまんない。
 私がアニメオタクだということを最初に断らなくてはならないわね。アニメがあれば私は大丈夫。なんとかなる気がする。面白くもなんともないお弁当配達のパートだって大丈夫。輝きの欠けらもない夫に毎日夕食を用意することだって大丈夫。
 以前はオタクという自覚はなかったの。ただのアニメ好きだったの。でも、「○○オタク」と「○○好き」の違いを必死に説明したところで、みんな「あぁソウナンダ〜」なので、一層のこと「アニメオタク」という肩書にしてしまえ、と変更したの。まぁ私の中では明確な一線があるんだけどね。私も歳かしら、年齢とともに周りにどう見られようとも気にしなくなってきちゃった。
 実はね、私、アニメなら何でもいいのよ。たまにライブとか行くとね、筋金入りのオタクとかがいるんだけど、「誰それの作品は素晴らしい」とか「自分はロボット系専門なんっす」とか「やっぱり花の80年代なのです」とか、周りの人たちがする会話といえばこれらの<アニメの分別・分類作業成果発表会>なの。なんか聞いててウットウシイんだよね、あういうの。縦とか横とかになんで線を引きたがるんだろうね。あれはいわゆるオタクよね。
 確かに製作者はある程度自分の立ち位置が分かっていた方がいいかもしれないわ。それは認める。リンゴ農家が、漠然と「オラ、リンゴ作ってるだぁ」なんて思っていないしね。意図をもって品種を選ぶもんよね。苗が安いから、卸値が高いから、作りやすいから、病気に強いから、流行ってるから、誰もやっていないから、とかね。ビジネスですから。それぞれ対策とか戦略が変わってくるだろうしね。でもね、リンゴ食べる人が「今年のガラはうまいなぁ」とか「わたくし、林檎はふじしか食べないざますの」とか言ってるのを聞くとなんか違和感を感じんだよね、私。力みというかね。
 とにかく、わかった?そうなの私はオタクではないの。別にオタクの人たちのこと嫌いだとか、軽蔑しているとかでは決してないの。ただオタクではないの。リンゴはリンゴでしかなくて、おいしいかまずいかなの。
 でも、私が何で同僚たちの前でアニメソングを歌っているのか説明するのは難しいわ。何でだろうね。もしかしたら、みんなに私の世界を知ってもらいたいのかもしれないし、もしくは、みんなのアニメオタクに対する目をもっとフレンドリーにしたいのかもしれないし。いや、そんな正義感というか責任感なんて私にはないわ。ただ、アニメの広宣活動ではないと思うの。とにかく楽しい。聴いてくれる人がいると気持ちいい。ん?ここにいる9人誰も聴いてないと思うんだけど気持ちいい。
 はぁ。ソファーに落ち着きジャスミン茶で次の曲に備えていると、隣に座っていた若い男の同僚が話しかけてきた。
「さっき歌ってた曲、歌詞がマジよかったッス。なんか感動しました。」
「あら、そおう?」
 本当はもっと解説したい。だって、この子何にもわかってないんだもの。これはね、太郎が、花子との別れの悲しみを唄ったもので、この悲惨な別れ方といったら・・・泣けてきちゃうわ。可愛そうな太郎。感動して当たり前なのよ。
 太郎はいい人でね、花子もいい人なの。二人とも愛し合っていたの。ただね、花子には夢があったの。その夢は遠い国に行かなくてはかなえられないものなの。そうなの、夢が二人の愛を引き裂いたのよ。ある日太郎は、愛と夢の選択に苦しめられていた花子に「オイラ、静江のことが好きなんだ」と嘘をついたのよ、花子の夢のために。花子は泣いたわ。でも、太郎はその花子に背中を向けて走り出すの。雨の中を。行く当てもなく。悲しいでしょ。でもね、私、花子にお弁当の配達はやっぱりやってほしくないのよね。面白くもなんともないしね。
 やっぱりアニメの世界って素敵よね。やめられないわ。ん?待てよ。太郎と今画面の中で雨に濡れながら走っているバカ男、一体なにが違うのかしら。純度?
 まぁ、いっか。さっ、次なに歌おっかな。


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