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浅月庵さん

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吹雪メルヤを殺さないで。

15/09/09 コンテスト(テーマ):第九十一回 時空モノガタリ文学賞 【 アニメ 】 コメント:2件 浅月庵 閲覧数:955

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 少年漫画雑誌で連載中の”勇気の魂”がアニメ化するらしい。開始当初からずっと話題の人気作だ。
 単行本10巻程度でメディア化なんて先走りな気もするけど、勢いのある漫画はさっさと映像化する、といった傾向通りなのかもしれない。

 私は無類の漫画、アニメ好きなのだけど、数々の漫画ランキングで1位を獲る”勇魂”は食わず嫌いというか、周りが熱狂していると逆に冷めてしまうというか、ずっと敬遠していた作品なのだ。

「うーわ、馬鹿でい。また逮捕だってさ」私はニュース番組を見ながら煎餅を齧る。
 私たちの住む世界は二次創作に関する罰則が相当厳しい。商業作品としてすでに発表された漫画やアニメの同人誌を販売するのは勿論、個人の娯楽に関する作品制作についても政府の目に触れれば罰金、場合によっては逮捕にまで至るケースも少なくない。昔はコミケなんていう楽園のようなイベントもあったらしいが、今となっては......。
 そんな中勇魂の1巻から登場していた吹雪メルヤというキャラが6巻で仲間を守るために死んでしまったため、彼のファンは異常なまでに怒り、悲しんだ。その愛情の行き場を探した結果、自作の漫画やアニメーション、オリジナルフィギュアを制作し、他のファンにも想いを共有してもらおうと半ばお披露目デモみたいなものを行なうことにした。一斉に検挙された。
 そのデモの中には勿論、主張もあり、吹雪メルヤの熱狂的信者たちは「アニメでは吹雪メルヤを殺すな! オリジナルストーリーにしろ!!」なんて原作者や出版社、アニメ制作会社の心情を無視した暴走が目立つ。
 おいおい、それはやりすぎでないの?といった疑問を持ちつつも、ついにTVアニメが放送開始されるので試しに見てみる。

 1話目はなかなか面白い。王道のファンタジーバトル漫画だ。まだ吹雪メルヤは出てこない。
 2話目で吹雪メルヤが登場。メルヤは穏やかで、優しくて、過剰に主人公の安否を心配し、苦しむ民のために涙を流す。へぇー、カッコカワイイじゃん、吹雪メルヤ。

 アニメが進むにつれ、私はどんどんメルヤの虜になっていく。さすがは一番人気。ファンが多く、その誰もが熱心な理由もわかる。他人の心配はするくせに、本人自身はどこか抜けていて、そんなところも母性本能をくすぐられるのに、いざとなれば滅茶苦茶強い、格好良いだなんて、スペック最強すぎるだろう、吹雪メルヤ。

 私はグッズを買い漁る。フィギュアもラバストもバッジも下敷きもポスターも買いまくる。部屋を吹雪メルヤ一色に彩る。今まで、一人のアニメキャラへこんなに固執したことなんてあっただろうか。駄目だ、好きすぎる吹雪メルヤ。こんな重要なキャラを早々に殺してしまうだなんて、原作者はなにを考えてるんだ!と、私も道を間違えそう。

 だけど現実は非情で、ストーリー改変の噂も立ったのだけど、12話目で漫画と同様、あっさりと吹雪メルヤは殺される。仲間を庇い、剣で胸を貫かれる。私は涙で画面が見えない。鼻水もグチャグチャで嗚咽が止まらない、やっぱり死んでしまった吹雪メルヤ。
 わかっていたはずなのに、いざその時を迎えるとショックで仕方がない。こんなことになるなら、初めから出会わなければ良かった、なんて大恋愛の気分。

 あぁ、私は愛を持て余している。まだまだ吹雪メルヤに伝えたい想いが沢山あるのに、もう新しく動く彼を見ることはできない。録画を巻き戻すくらいしかできないんだ。

「安藤ちゃん、大丈夫? メルたん死んで、相当やばやばなんでしょー?」私の落ち込み具合を聞きつけて、アニメ仲間の小西氏がわざわざ部屋を訪ねてきてくれた。
「うん、大丈夫だよ」私は小西氏に向かって笑って見せると、すぐに机へ戻る。
「安藤ちゃん、なにやってんの?」小西氏が私の机を覗き込む。
「メルヤ描いてる」
「え、ちょっと! 安藤ちゃん、それヤバくない? 見つかったら即刻逮捕だよ」
「んー、大丈夫」
「いやいや、どう考えても大丈夫じゃないでしょ」小西氏が心配そうな声で私の絵を見つめる。
「どうかな?」
「......うーん。いや、ハハハ。これなら大丈夫かも」

 私は吹雪メルヤの絵を描く。もうこの世に産み出されることのないメルヤを私自身の手で紙に表現する。そうしている内は、まだ吹雪メルヤは死んでいない。
 小西氏にこれなら問題ない、とお墨付きを貰ったのは嬉しいような悲しいような複雑な気分だけど、これが私のできる精一杯。

 不器用な想いがいつ昇華し切れるのか、今はまだわからないけど。
 筆圧の強い歪んだ線は、情熱の証だと受け止めてほしい。
 どこからどこまで違法で合法かわからないけど。
 ただ単純に私は、好きな人に正直でいたいだけなのです。

 ーー例え、笑っちゃうほど下手くそな愛情だったとしても。


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このストーリーに関するコメント

15/09/13 クナリ

近年、二次創作にかける愛情をことさらに美化したり、実害を無視した過度な正当化などには首を傾げてしまいますが、こうした純粋な感情が大元にあるんですよね。
それにしてもこの主人公、似ていない自分の絵では満足できずに、いずれ国家に内緒でオンリー即売会を開いてしまったりして…。

15/09/25 浅月庵

クナリさま
お読みいただきありがとうございます。
行き過ぎは良くないですが、ある意味ピュアな感情なのかもしれないことを
表現してみました。
クナリさまの作品、いつも面白いな、すごい発想だな、と思いながら
読んでいますが、なかなか感想を書けずに申し訳ございません(笑)

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