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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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おじゃみ山の女神さん

15/09/07 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:7件 冬垣ひなた 閲覧数:1161

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「今年は台風もなかったし豊作や」
その日、村を巡回する嘉助は上機嫌であった。
燦々としたお天道様の下でそろそろ稲穂の実った広大な田は、全て村一番の地主である嘉助のものだ。
そしてそれを守るように、お社のあるおじゃみ山はそびえている。
「これも田の神さんのお陰やな!」
娘のトヨは声を大にして言った。
この村もいずれはトヨの婿になる男が継ぐ。嘉助は満足だった。二人は田の神とおじゃみ山に向かい、手を合わせる。
まだ夏の緑が残った田の先で、何かが動いた。
トヨはあっと思った。
彼岸花のあぜ道のあたりに、加代がいた。
ドジョウを捕えに来たのだろうか。珍しく髪を結んで露わになった娘のその頬に、花に似た赤い痣が大きく咲いていた。
彼岸花はな、曼珠沙華ともいうて、めでたい時天から降るんやで。
けれどそれは加代の不幸の源だったろうから、トヨは声をかけそびれ、小走りに通り過ぎた。


おじゃみ山の女神は春、里へ降り田の神となり豊作を約束する。そして稲刈り後の秋祭りに山へ戻って、冬は山の神となる。
村ではそう言い伝えられていて、祭りの奉納相撲で勝者に選ばれたその年12になる醜い娘は、冬を山で過ごされる女神が退屈せぬように、お手玉を頂上の祠に納めに行く習わしがあった。
神主曰く、女神は醜く、自分より美しい女をひどく嫌うのだとか。
「加代は神に愛されておるのう」
村の者は皆、陰日向にそう言って憚らなかった。
それは、嘘だ。
トヨは知っていた。
角ばった顔にそばかすだらけの頬、細い目はヒラメのように離れていて、おちょぼ口のトヨの顔は、誰の目から見ても母親似だ。死んだ母は、おじゃみ山に登った娘だったから。
しかし、村にはトヨと同い年の加代がいた。
「加代は神の娘だ」
それは暗に大地主の娘であるトヨの醜さを覆い隠すものであった。
加代は痣を長い髪で隠しているというのに、噂は村中に知れ渡って、トヨの心は穏やかでなかった。
12歳の秋祭りはもうすぐだ。
このままでは加代は、村一番の醜女にされてしまう……。
トヨは再三そのような事を口にしたが嘉助は言った。
「良いんやよ。神の娘には豊穣の福が授かる。貧しくても、美しさに恵まれんでも、良縁かて望める」
「でも」
「加代のためやで」
そうなだめられると、トヨは黙るしかない。


祭囃子がおじゃみ山の神社に響く、秋祭り。
紅葉の下の小ぶりな土俵の周りには近隣の名士も集まっている。試合は終わっていて、優勝者の加代は薄い肉襦袢に廻し姿のまま、ぼんやり行司の口上を聞いていた。
誰も、本気やなかったな。
神のお恵みがあるといえ、顔に自信がない位の娘ならまず勝つような真似はしない。だから実は大人たちの間ですでに根回しがなされ、勝者ははなから決まっているのだ。
里に下りとる間はちやほやされ、山に戻ったら一人ぼっちの女神さんの気持ち、分かるわ。
こんなん、退屈や。
加世がそう思った時だった。
「待った!」


叫んだトヨは、加代と同じ力士の姿で現れた。
「うちが一番や!」
「トヨ!家に居れと言うたやないか!」
「お父さんは嘘ついたらあかん。この村一番の不細工はうちやさかい、絶対加代と違うんや!」
人々がざわめき出す。
「加代、うちと勝負せえ!」
するりと衆人の間を抜け両者は土俵に上る。勝気な生来の眼差しで、加代とトヨは土俵に手をついて、ぶつかり合う!
「はっけよい、のこった!」
押したり、突いたり、勝負は付かない。
しかし張り手をするトヨの息は段々切れてきて、かわした加代はついにその廻しをとる。
歓声が上がった。
加代は小作人の娘、本気を出せば誰も敵わないのだが、居並ぶ大人たちは気押され固唾を飲んで、神託の行方を見守っている。
トヨの足が浮いた。
加代はそのまま土俵の外へ押し出そうとする。
負けるのは悔しいけどのう、お母はん。
うちが加代を女神さんとこ、連れて行ったる。
間近で見た彼女の頬の曼珠沙華は、やっぱり見惚れる程に綺麗だった。


空は赤く燃えていた。
神社から見下ろすのどかな村の全景を照らしながら、日が沈んでゆく。トヨは、稲の刈り取られた後の、丸裸の田から雀の大群が飛び立つのを見ていた。
「ここに居ったん?」
見ると、いつものように髪を下ろし着物を着た加世が立っている。
「お父はん探してはったよ」
「いつ山に登るん?」
「あさってや」
加代は言った。
「トヨさん。お父はんは嘘ついてなんかおらへんよ、だって」
さらさらと黒髪を翻し、加代は茜色の光射す顔を背ける。
「うち好きやで、トヨさんの笑った顔」
ドドドドドド!
祭りの太鼓が紅葉の山に鳴り響く。女神が山に帰るのだ。
トヨは少し寂しくなったが、すぐ思い直した。
お父はん。
冬は加代とお手玉を作るんや、田に降りる春に女神さんが退屈せんように。
女神さん、笑ってくれるやろか?


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このストーリーに関するコメント

15/09/08 冬垣ひなた

≪補足説明≫

この話は冬垣の創作ですが、醜い山の女神と田の神の関係性は各地の伝承に残っています。

15/09/10 草愛やし美

冬垣ひなたさん、拝読しました。

良い子ですね、トキも加代も、素朴な田舎のお祭りに様々な想いが交差して深い内容になっていますね。この日をさかいに、二人はかたい友情で結ばれたことだと思います。
今年は山神さんになった女神さん寂しくないようにと二人が作ったお手玉しながら、二人のことを思い出してきっと笑顔になることと思います。ほんのりと心温まるお話でした。

15/09/14 冬垣ひなた

草藍やし美さん、コメントありがとうございます。

この女神さんははるか昔「まんが日本昔話」で見たのですが、今回はジブリ風でアレンジしてみました。
郷土色を出す試みとして、関西圏以外の方には不親切に仕上がってしまったうえ、
字数が足りず泣く泣く描写を削ったので、不足な部分もあったかとおもいますが、お読みいただき感謝します。
私も女神さんに幸せになってもらいたいと思います。心温まると言っていただけて嬉しいです。

15/09/16 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

自然の営みの中で生きている農耕の民のちょっと意地悪なしきたりって
現代ではすたれてしまっても、実際には昔あったような気もします。
二人の少女の純朴で健気な姿、愛らしいなあと思いました。

15/09/16 冬垣ひなた

そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

大人にすれば嫁ぎ遅れを出さないようにするのための風習ですが、子供は何だかなぁとは思いますよね。
そういう所を素直に出した少女たちというのを書きたかったので、気に入っていただけて良かったです。
身近な読者である母がハッピーエンド至上主義なので、キャラクターやラストの見せ方にはいつも苦労します。

15/09/21 泡沫恋歌

冬垣ひなた 様、拝読しました。

ほのぼのとした郷土色が出ていて、どっちが醜女か相撲で決めるというアイデアが面白い。

なんだかふんわりとしたお話で悪い人が出てこないのがいいね。
読後感が爽やかで秋の風情を感じました。

文学フリマのブースにお立ち寄りありがとうございます。
お会いできてとっても嬉しかったです(○^o^○)ニコッ♪

15/09/26 冬垣ひなた

泡沫恋歌さん、コメントありがとうございます。

神事の女相撲はアイデアが先に来て、後から実際のものを調べましたので結構冷や汗でした。
ないのはともかく、禁じられているものを書くというのはいけないと思いますし。
さだめられた枠の中で生きるエンドから決めた話で、今回は悪人を出さないようにしました。
季節感は毎回出せたらとは思います、来年ネタ切れにならないといいですが(汗)。

こちらこそお会いできて、親切にして頂いて感謝します。
ツイッター頑張って勉強してます、早く出来ると良いですね♪

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