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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
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相馬の馬追い祭り

15/09/07 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:6件 そらの珊瑚 閲覧数:1285

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 2011年3月11日。東北地方を襲った未曾有の大地震によって、茜の祖父の住む福島県相馬市も甚大な被害が出た。

 あれから一ヶ月。無事に助かった祖父は今、隣町に住む、幸運にも被害を免れた茜の両親のもとに身を寄せていた。
 しかし先祖から受け継いだ田畑は、津波の影響で台無しになったまま、赤い瓦屋根の祖父の家は流され跡形もない。
 大切に育ててきた愛馬、シロもあの日を境に行方が知れなかった。

 祖父は心労がたたったか、持病の胃炎が悪化し、みるみる痩せてしまった。心と身体は連動している。特に80歳を超えた祖父にとって、もう立ち直ることさえ出来ないような悲劇だった。
「あの時、ワシは確かに聞いたんじゃ。シロのながーく尾を引くような、いななきを。あれはシロの悲鳴じゃ。助けてけろって叫んでいたんじゃろう。じゃがのう、助けてやることはできなんだ。どうしてやるごとも出来んでなあ」
 祖父はあの日、自ら軽トラックを運転し命からがら津波から逃れた。家を離れる時、馬舎につないであったシロを野に放したのだが、おそらくシロは津波にのまれてしまったのだろう。
 隆々とした筋肉で盛り上がった白く美しい馬。アーモンド型の黒く光るその瞳がさいごに映したものは何だったのだろう。シロが無情に津波に飲み込まれていくことを想像して、茜は祖父と涙が枯れるまで泣いた。祖父の命が助かった嬉しさのあとで、シロを失った悲しみは日にちが経っても癒されることはないように思われた。
 ◇
 相馬には一千年続く祭りがある。それは相馬野馬追(そうまのうまおい)と呼ばれている。
 甲冑を身に付け、腰に刀、背には旗指物(はたさしもの)を翻した武士さながらの人々が、馬で行軍し、疾走する様は、まるで時空を超えた戦国絵巻を見ているような壮大な神事でもあった。
 祭りは毎年七月に行われてきたが、今年はその開催さえ危ぶまれていた。自然災害だけでなく、原発事故による放射能汚染も深刻だった。人もいないが馬もいない。
 第二次世界大戦中も、この祭りは途切れたことがないというのが茜に祖父の誇りであったが、今年ばかりはダメかもしれないと諦めかけた時だった。

「北海道の牧場主さん達から、たくさん馬を貸してもらえそうじゃど」
 ――祭りをつなげていけるかもしれない。
 それは災厄によって絶望した人々に、もたらされたひとすじの希望だった。
 ◇
「じいちゃん、私、祭りに出たい。馬に乗りたい」
 大学進学を機に東京へ出るまで、小学生の頃からその祭りに出ていた茜にとっても、祭りに対する想いは祖父と同じだった。

 シロは祖父の馬であり、茜の馬でもあった。
 シロは気性の荒いサラブレッドであった。シロを乗りこなすまで、茜は三度落馬した。そのどれも脚の捻挫で済んだのは奇跡かもしれない。そのたびに両親は馬に乗ることを反対したが、茜は負けなかった。まだポニーしか乗れなかった茜にとって、祭りに馬を駆る祖父の姿は、憧れだった。
 彼女は「乗るのは下手だけど、落ちるのは上手いから」と言って、心配する両親を説得した。
 ――私はあんたの友達になりたいんだよ。
 土日は祖父のもとに通い、シロの世話をして過ごした。そんな彼女の願いはいつしかシロに届き、シロは茜を受け入れるようになる。
 風を切って走るシロのたてがみは、陽を受けて銀色に輝いていた。そんな思い出のひとつひとつが、日毎に鮮明になる。
 ――シロ、友達になってくれたのに、助けてあげられなくてごめんね。だけど、だけどね、祭りに出るから。ちゃんと前を向いて生きていくからね。
 ◇
 2011年7月、開催を危ぶまれていた馬追祭りは、規模を縮小しながらも行われた。
 雲雀(ひばり)ヶ原の広い草原を疾走する馬と人。そのひとりは茜だった。祭りに参加出来る女は二十歳までと決められている。ちょうどその年に成人の仲間入りする彼女にとって最後の祭りでもあった。

 この年の祭りは、馬と共に永い時代を生き抜いてきた人々の、不屈の精神の現れでもあった。
 
 ヒヒーン。
 老人は、ほら貝の音に混じってシロの声を聞いた気がした。
 もうもうと土ぼこりを上げている疾走する馬の中に、自分が愛した白い馬の勇姿を確かに見た気がするのだった。
 


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このストーリーに関するコメント

15/09/08 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

馬と人間の絆が、悲惨な津波の被害で引き裂かれてしまった。

あの津波は、人や建物だけではなく、多くの動物たちの命も奪った災害でした。
そのことをこの物語で再確認させられました。

とても感動的でいいお話でした。

15/09/10 光石七

拝読しました。
人と馬の絆、震災が奪ったもの、伝統の祭りと人々の不屈の精神……
悲しみとそれを乗り越えようとする人々の強さを強く感じ、心を揺さぶられるお話でした。

15/09/10 鮎風 遊

シロは一体どこに行ったのでしょうね。
やっぱりどこかで元気よく疾走してるような気がします。
馬を友だちになってみたいです。

15/09/10 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

相馬馬追い、唄も有名ですね。長い歴史の間、祭りを支えてきた方々の努力は並大抵のものではなかったことと思います。東北の震災は様々なものを奪いました。それでも、人々はそこから立ち上がり伝統を守っています。頑張ってと言うのは容易いですが、維持するにはまだまだ支援が必要と思います。忘れないように、心に刻んで生きていきたいです。

15/09/11 冬垣ひなた

そらの珊瑚さん、拝読しました。

祖父と茜、震災という未曾有の災厄に呑まれながらも、祭りを守ろうとする姿に強く心打たれました。
心の支えであったシロを救えなかった無念、その窮地で救いの手を差し伸べる人々と馬がいる。
伝統を絶やさぬ東北を、心に受け止め忘れないようにしようと思いました。

15/10/12 そらの珊瑚

>泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
家畜だった馬とか牛が、野良になって群れて生きているという報道を
見たことがありますが、その後、どうなったのだろうとふと思い出すことがあります。

>光石七さん、ありがとうございます。
実際にあった祭りのことをもとにしています。
相馬の方々の強さ、悲しみを乗り越えてゆく力が人間にはあるということを教えられる気がします。

>鮎風 遊さん、ありがとうございます。
この話しを書きながら、私もどこかでシロが
生きているんじゃないだろうか、と思いました。
野良馬になって、走っているかもしれませんね。

>草藍やし美さん、ありがとうございます。
受け継がれてきた歴史の重さと、それを次世代へつなげてゆくという使命感のようなものを、この祭りに感じます。
いつか実際に見て、私も応援したいなあと思います。

>冬垣ひなたさん、ありがとうございます。
もしかしたら、困難を乗り越えるために、受け継がれてきた祭りと
いうものの存在意義があるのかもしれないと思ったりします。
そういう人たちが実際いるという事実に、力をいただいくような思いです。



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