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ポテトチップスさん

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月兎のしもべ

12/08/03 コンテスト(テーマ):【 プール 】 コメント:1件 ポテトチップス 閲覧数:1714

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5日前に都内で起きた殺人事件は、容疑者の自首という結末で終止符をうった。
テレビニュースでもこの事件は取り上げられ、コメンテーターのタレントの女性は、「物騒な世の中になりましたわね。最近の若者達は、一体どうしちゃったのですかね」と、溜め息と苦渋の表情で言った。
テレビを消した俺は今朝の新聞を広げ、何度も繰り返し読んだ事件の記事を、改めて読み返した。
『5日前に起きた、葛飾区立東第三中学校のプールで男性が殺害され浮いていた事件は、昨晩、葛飾署に、無職久米真一容疑者(28)が自首した事により事件は解決した模様。警察関係者によると、プールの更衣室のドアに残っていた指紋と、久米容疑者の指紋が一致しているとの事で、ほぼ間違いはないと話す。また取調べでは、久米容疑者は意味不明の事を話していると関係者は話す・・・』

新聞から顔を上げ時計を見ると、家を出る時間を少し過ぎていた。
慌てて新聞をたたみ、マグカップに残っていたコーヒーを飲みきり部屋を出た。


13年前、久米真一とは中学校で同じクラスだった。
彼は誰とも話さない生徒で、他の生徒達はそんな彼を気味悪がってイジメていた。
あれは、中学3年の修学旅行での事、俺はホテルの部屋が久米と一緒の部屋になった。
誰もが久米と同じ部屋になるのを嫌がっていたため、担任の先生が学級委員の俺に、同じ部屋になりなさいと言ったので、同室になったのだ。
夜中、ホテルの部屋で俺は久米に話しかけた。
「久米君って、どこの高校受験するの?」
「僕は、高校受験しない」
少し粘りつくような声で、中学生にしては大人びた声だった。
「高校受験しないで、何するの?」
「家にずっといる」
やっぱり変わった奴だと思った。話もすぐに終わってしまい、気まずい雰囲気に耐えられなくなった俺は、まだ夜中の9時だったがベッドに入って寝ようとした。
「ねえ、熊坂君、夢ってある?」
突然、夢について聞かた。他の友達にだったら将来の夢について語れるが、久米には話すべきかどうか考えあぐねていると
「僕はあるんだ、夢」
「久米君の夢って何?」
「人を殺す事」
「……。冗談でしょう」背筋がぞっとした。でも、こいつなら本当にやるかもしれないとその時、思った。
「熊坂君は信じてくれるかどうか分からないけど、僕、人の心の声が聞えるんだ」
「人の心の声?」
「うん。街を歩いていると、向こうからやって来る人波の中から、誰かが『俺を殺してくれ』『私を殺して下さい』って叫んでいるのが聞えるんだ。でも、どの人が叫んでいるのかは分からないけどね」
俺は久米の話を聞きながら、こいつとは絶対に友達にはなれないと思った。
「ねえ、熊坂君、満月のお月様の中で、月兎って何をしてるか知ってる?」」
「ああ、たしか餅つきだったよね」
「違うよ。月兎は、臼の中に入っている人間の死体を、つき臼で砕いているんだよ」
なんで楽しいはずの修学旅行で、こいつの不気味な話を聞かされなくちゃいけないのだろうかと、嫌な思いがした。
俺はもう久米の話が聞きたくなく、早くベッドに入って眠りたかったが、久米は目に鈍い光を湛えながら揚々と話を続けた。
「だからね、満月の日には必ず月兎の為に人間の死体を奉納しなくちゃいけないんだ。特に月兎は、水に濡れた死体を好むんだよ。海、川、湖、それにプールに浮んだ人間の死体なんか奉納するとすごく喜ぶんだよ」


シトシトと雨が降り続ける梅雨がようやく終わり、ここ最近は30度を連日越える猛暑日が続いていた。
電車に乗って会社に向かいながら、冷房の効いた車内で久米真一の事を吊革につかまりながら考えた。
久米はなぜ人を殺したのだろうか……。
そんな事を考えているうちに、電車は日暮里駅に到着した。そして会社に向かい、いつもと変わらず仕事をした。

仕事が終わり電車に乗って自宅へ帰った。
目を瞑って吊革につかまっていると、後ろから幼女の声が聞えてきた。
「ねえ、ママ、兎さんが餅ついてるよ!」
「ほんとね、可愛いわね」
目を開け車窓から夜空に顔を向けると、少し欠けた満月の中で、月兎が浮んでいた。
そうか、5日前は満月だったのか……。久米があの時言ってた、水に濡れた人間の死体を好む月兎のために、久米は人を殺し、学校のプールに浮かべてそれを月兎に奉納したのか。
なぜそんな馬鹿な事をしたのか、俺には理解出来なかった。
やっぱりアイツは、変な奴だったと改めて思った。
でも少し寂しさが込み上げてきたのは、なぜなんだろうか……。


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