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ハヤシ・ツカサさん

テーマは「どこにでもある、日常。」 サラッと読めて、時々泣ける短編を目指します。

性別 男性
将来の夢 ハヤシ名義で短編集が出せたら。 ゼロから一を創り出す、小説家は憧れです。
座右の銘 人生は、死ぬその日までの暇つぶし。 だから、一分でも一秒でも楽しいことを考えて生きる。

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カラフル水墨画

15/08/25 コンテスト(テーマ):第六十一回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 ハヤシ・ツカサ 閲覧数:763

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「ハッ!ハッ!ハーッ!」
 テレビでは、女子高生らによる『パフォーマンス書道』の様子を放送している。
 映画にもなったこの書道法は、従来の書道の枠を超えた、彼女たちの若々しさと古風な書道がベストミックスされ、床に置かれた畳大の書道用紙に走りながら大きな筆を持つ彼女たちの姿が感動を呼ぶ。
 高校を卒業後、自分探しの真っ只中であるプータロー・翔は、たまたまこの番組を観たことをきっかけに現代アートの世界に興味を持ち、造形専門学校に入学した。
 翔の祖父・究次郎は、プロはだしの水墨画を描き続けている。周囲の勧めで町主催のコンテストに応募。初めての挑戦にもかかわらず幸運にも町長賞を受賞したものだから、すっかり彼の老後の楽しみになっている。
「よっ。じいちゃん、元気?」
 翔は、徒歩数分のところに住む究次郎宅をたびたび訪れ、かといって毎回小遣いをせびるわけでもなく、年の離れた男同士、微笑ましい交流を深めている。 
 翔の学校では、月一回の作品発表の提出日が迫っていた。合格しないと単位取得にならないので、翔は作品のネタ探しに奔走していた。
 究次郎の多くの水墨画作品を前に、翔はひとつのアイデアが浮かんだ。
「水墨画は黒一色で、イマイチ味気ない。これを、赤や黄などで描く『カラフル水墨画』なんてどうだろう。よし、これでいこう」
「『カラフル水墨画』?あのな、水墨画ってのは墨で描くから水墨画なんだ。お前、水墨画の世界を馬鹿にしとんのか?」翔のひとりごとを聞いていた究次郎が呟いた。
「別に馬鹿になんかしてないよ。水墨画って超かっこいいと思ってる。でも、所詮は黒一色じゃん?俺、それをベースに、ポップに、アートに仕上げてみようと思っているんだよ」究次郎を怒らせまいと、翔は必死に弁明した。
 究次郎にとって、水墨画は亡き妻との思い出の趣味だった。若い頃から古風だった究次郎は、ある日ぶらりと入った骨董品店で見た、しかし当時ですらシニアチックな水墨画に惹かれ、独学で勉強を始めたのだ。それが縁で、書道教室の娘と結婚。究次郎には、伝統を汚すカラフルな水墨画なんてありえない、と思っている。
「ま、場所だけは貸してやらぁ。でもな、伝統と歴史ある水墨画の世界を馬鹿にしたら、ワシは許さんぞ」究次郎は、しぶしぶ妥協した。
 発表日。翔は、試行錯誤の末ようやく完成した『カラフル水墨画』を自分の作品として提出した。
「十代にしては、なかなか斬新な発想じゃないか。よし、合格」
「ありがとうございます。ヤッター」
 入学初月にして高評価を得、有頂天の翔。周囲から発想の原点の質問を受けるが、究次郎の水墨画作品をヒントにしたくせに、自分の直感だ、と誤魔化すのだった。
 一方、究次郎も次の作品展のためのネタを模索していた。
「そうだ。あいつのアイデアをちょいと拝借するか」
 究次郎は、翔の発案した、あれだけ嫌悪感を示した筈の『カラフル水墨画』のことを思い出していた。
「習字の添削用の紅色墨汁ってもあることだし、墨ではなく絵の具を使っていかにも水墨画風に描いてみると、面白いかもしれん」
 歴史と伝統の…と能書きを垂れた手前、このアイデアが翔にばれると恥ずかしい。究次郎は油絵用の画材を調達。翔が遊びに来ない日を狙い、こっそりと『カラフル水墨画』の制作に取り掛かった。
 作品展当日。
「とても斬新な発想で、素晴らしいと思います。おめでとうございます」
 夢だった町長賞をまた、受賞した究次郎。大手新聞のインタビューを受け、その記事を見た海外の著名なアーティストが絶賛した、と、いち田舎の初老が造ったに過ぎないこの『カラフル水墨画』は、すぐにネットニュースのトピックになった。当然ながら発想の原点を問われるが、やはり、孫のアイデアが元で…なんて言えない究次郎。なんともいじらしい、妙なDNAがここでも活きている。
 ある夜。翔は、いつものように究次郎の家に遊びに来ていた。ただ、いつもと違うのは再度、究次郎が町長賞を受賞した記事の載った新聞が、話の肴になっている点だった。
「じいちゃん!ネットニュース見たぜ。それとこの新聞の記事も。まさかの町長賞のダブルスコア、すげえじゃん」
「ま、まあな…。お前こそ、例の色付き水墨画ってヤツは、どうだったんだよ」
「じいちゃんに否定されたりもしたけど、俺も先生から合格、貰っちゃったよ」
「おう、そうか!でもな、お前より先にそのアイデアを思い付いたのは、実はワシなんだけどな」
「あ、きったねー!何言ってんだよ、じいちゃん!俺が先に言い出したんだろ?それをパクったのはじいちゃんのほうじゃないかよ!」
「ハハハハッ…。ま、互いに夢が叶ったんだから、終わり良ければ全て良し、としようや」
 二人は、缶ビールと缶コーヒーで軽く、乾杯した。
 ネットの世界では、二人の知らない間に『カラフル水墨画』のスレッドが立ち、ネット民らの激論が交わされていた。もともと昭和初期からあった説、既に80年代に親日家外国人が発表していた説、いつぞやのオリンピックシンボルデザインで揉めた、どこぞのデザイナーの如く、それらをパクったんだ説…。
 しかし、互いの夢を叶えた翔と究次郎には、そんなことはどうでも良いのだ。
 素直に褒め称えることもなく、他人の粗探しに躍起になるネット民。彼らにとっては、『カラフル水墨画』の元祖を探し、二人を糾弾することが目的なのだろうが、少なくとも今は、二人のオリジナル作品であることに、間違いはないのだ。


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