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Fujikiさん

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コウノトリ再配達

15/08/25 コンテスト(テーマ):第九十一回 時空モノガタリ文学賞 【 アニメ 】 コメント:2件 Fujiki 閲覧数:937

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「はい、○○市役所子ども家庭課でございます」
「うちの子がコウノトリにさらわれました。すぐに返してください」
「はあ、なぜさらったのがコウノトリだと?」
「そりゃ分かりますよ。羽が部屋じゅうに落ちてるんですから。ガラス窓まで割って、子どもがケガしてたらどうしてくれるんです?」
「まあ落ち着いて。コウノトリは理由もなしに子どもを連れ去ったりはしません。まずは状況を聞かせてください。お子さんはおいくつで?」
「二歳です。今度の十月で三歳になります」
「まだ小さいのね。それでコウノトリが来た時、あなたはその場にいたんですか?」
「……いえ、一人でアニメを見させていました」
「まあ、ネグレクト!」
「人聞きの悪いこと言わないでください。夕ごはんを作っててちょっとお隣にお醤油を借りに行ってただけです」
「でもまだ二歳の子どもをほったらかしにしておくなんて問題あるとは思いませんか。ご主人はどうしていたんです?」
「主人はいません。去年別れました」
「あら、子どもにとって最善の家庭環境とはいえませんね。離婚の原因は?」
「夫はお酒を飲むと暴力を振るう人だったんです」
「子どもにも手を上げたの?」
「いいえ、とんでもない。いつも私が身を挺して守ってましたから」
「だからって家の中で暴力が行われてるなんて子どもの心の成長に悪影響だったと思わない? あなたもお酒は飲むの?」
「ええ、少しは。模合に出席する時とかに付き合いで」
「家でも飲んでるんじゃない? シングルマザーってストレスが溜まるでしょ?」
「そんなこと決めつけないでください。家では飲みません」
「収入はどうしてるの?」
「別れた夫からの養育費が少しと、あとはパートの仕事を」
「どんなパート?」
「ウェイトレスです」
「お酒とか出すところじゃないでしょうね」
「普通のレストランですよ」
「その仕事の他に国から補助を受給していませんか?」
「働き始める前は生活保護を受けていましたが、今はもらっていません。子どものためにも自活したかったし……」
「で、あなたが働いている間、子どもはどうしてるの?」
「託児所に預けてます」
「託児所に預ける余裕があるなら、なぜ一人のまま放置してたの?」
「パートが休みで私が家にいたんです。ちょっと目を離すことだってあるでしょう」
「あのね、お母さん。二、三歳の子どもはちょっと目を離すだけで命取りにもなりかねないのよ」
「私にも少しは落ち度があったかもしれないと反省しています。でも、これって役所にどうこう言われなきゃいけないような話ですか?」
「コウノトリは子どもを運んでくるだけってあなたは思ってるかもしれないけど、不適格な家庭から子どもを守るのもコウノトリの仕事なの」
「不適格って、そんな……」
「あなたもそう思わない? 貧相な四畳半一間のアパートでアニメなんか見させられながらほったらかされるのと、両親が揃って大人の目が常に行き届くお金持ちの屋敷で温かく見守られて何不自由なく育つのと、子どもにとってどっちが幸せかしら?」
「おっしゃるとおり、私はあの子に何でもしてあげられるわけじゃない。だからって私に説明もなく勝手に子どもを取り上げるってどういうことです? 裁判所の命令でもあったんですか?」
「コウノトリにだって毎月のノルマがあるんだし、そんな悠長な手続きはやってられません。児童の命を救うのは一刻の猶予も許されない仕事なの。だから第三者の命令を待たなくても子どもを保護する権限があるんです」
「そんなことはどうでもいいですから、とにかく子どもに会わせてください」
「保護された子どもとの面会は許されない規則です」
「どうして? うちの子ですよ」
「不適格な親から引き取った子どもは別の家庭に再配達することになってるの。面会しても、子どもにとって別れが辛くなるだけでしょ。ところで、そろそろ再配達を終えたコウノトリがおたくに戻って来るころだと思うけど」
「ええ、今窓から飛び込んできて目の前に立ってます。ものすごく大きなのが一羽」
「あらちょうど良かった。コウノトリって間近で見ると恐ろしげな形相の鳥だと思わない? その鋭いくちばしは、あなたの肌を切り裂く。目玉を潰す。髪をむしり取る。喉笛を掻っ切る。手首を切り刻む。爪をはがす。子宮をかち割る。乳房をちぎる。心臓を抉り出す。それもこれも新しい家庭に配達された子どもが昔の母親の面影を思い出さないようにするためよ。お母さん、あなたは確かに虐待をするようなひどい親ではなかったかもしれない。でもこの少子化のご時世、おたくのような貧しい生活環境に国の貴重な財産である子どもを託すわけにはいかないの。お母さん、安心してね。あなたの子どもは裕福な家庭にもらわれてきっと幸せになりますよ。お母さん、聞こえますか? 聞く耳は、まだ残ってますか?」


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このストーリーに関するコメント

15/09/21 光石七

拝読しました。
子ども家庭課の職員の言い様にムカついていましたが、最後のオチにゾッとしました。
母親の資格とは、子供の幸せとは何だろうと考えさせられます。
いい意味で後味の悪い、印象に残るお話でした。

15/09/22 Fujiki

ありがとうございます。お役所仕事の人間に高飛車な対応をされたことが何度かあるので、0.2パーセントくらいは実話です。親身に話を聞いてくれる公務員もたくさんいるのでしょうが、中には税金泥棒みたいな輩もいて困ったものです。

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