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汐月夜空さん

切ない話が好きな空想好きです。 なんでもない日常がなんでもある日常に変わる物語を読んだり書いたりするのが特に好きです。 ブログの方でも小説やエッセイ、ネタなどを書いておりますので、よければどうぞ。 twitterの方は私生活も含めて好き放題呟いてますので、汐月夜空のことが気になる方フォローお願いします。 ブログ:http://ameblo.jp/shiotsuki-yozora/ twitter:https://twitter.com/YozoraShiotsuki

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プール、蓄えること

12/08/02 コンテスト(テーマ):【 プール 】 コメント:0件 汐月夜空 閲覧数:1667

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「プールにもいろいろ意味があるんだよ」
「へえ、例えば?」
 中学三年の夏、他のクラスメイトがクーラーの効いた部屋で受験に向けて勉強に励んでいる中、僕と君は市営プールに足を運んでいた。
 さぼりと言うことなかれ。きちんと夏休みの宿題も終え、毎日のように朝から晩まで勉強をしているからこその……ええと、なんだ。息抜きっていうのかな?
 とにかく、早々に新研究も一通りやり終えた自分たちへのご褒美として、どちらからともなく言い出して今日という日を迎えたというわけだ。
 当然僕のテンションはひゃっほう! と声を立てて打ちあがり、その一方で君は頬を赤く染めてとても恥ずかしそうにしていた。
 僕と君が公に付き合いだしてから、初めての水着デートだった。流石に、毎日のようにお互いの家で勉強しながら、お互いのやや露出度の高い私服を見ていたとはいっても、やはり男としてテンションが上がるのは致し方ないだろう。
 いざ当日を迎えてみると、君はスクール水着だった。地味ながらも最近のスクール水着は曲線美が美しいなあ、と馬鹿なことを考えてまたテンションが上がる僕。君は僕の邪悪な笑みを見てまた真っ赤に頬を染める。僕は今流行の炎がデザインされた真っ赤なハーフパンツ型の水着を着ていたが、そんなことがどうでもよくなるほど君は可愛かった。
 テンションの高い男子と、真っ赤な恥ずかしガールがやるべき様々なラヴトラブル(バランスを崩して抱き着いたりとか、溺れかかって手を伸ばしたところに何かやわらかいものがあったりとかそういうの)をあっという間にやり終えて、今はカランカランと響いた鈴の音に従って、プールサイドで二人肩を揃えて座っているところ。
 膝から下だけをプールに垂らし、ぱしゃり、ぱしゃりと水音を立てて遊んでいると、君が突然、プールにもいろいろ意味があるんだよ、と口にしたというわけだ。
「別にむずかしいことをいうつもりはないんだけどね、この前なんとなく調べたら書いてあったんだ」
「なんて?」
「プールって英単語は、水たまりって意味と、貯蔵するって意味があるの」
「……まあ知ってるかな。確か新研究にも載ってたような」
「そうだね。確か67ページ、右下のピックアップくらいに」
「えぇっ! ページ全部覚えてるの!?」
「大体ね。間違ってたらごめんだけど。君だって覚えてるでしょ」
「いやいや。たった今君には絶対敵わないって思ったよ」
 そう? と首を傾げた君の目の中には純粋な疑問だけしか浮かんでいなかった。いやいや、僕にそのレベルを求めるのは本当に勘弁してほしい。そりゃ勉強は苦手じゃないけど、やっぱり学年一位の君には敵わないって。
「とにかくね、この泳ぐためのプールって意味は本来ないんだよ。swimming poolっていえばここになるんだけどね」
「へえ、それは知らなかった。それで?」
「え、それでって?」
「いや、それだけなの?」
「うん、まあ、そうかな?」
 そう言って困ったような笑みを浮かべる君に。
「言いたいことがあるなら言えよ」
 僕は続きを促した。君はごめん、と一言言ってから続きを語る。
「swimmingってつくだけで、水たまりがこのサイズになるんだなあって」
「うん、まあ形容詞だからな。bigとかsmallと同じ」
 遠くを眺めるように目を細めた君に、僕は素っ気なく返事を返す。君はえへへ、と笑ってから。
「そうだね。じゃあ蓄えるって意味の方にも形容詞を付ければ変わるのかな」
「……そりゃそうだろ」
 真意をつかみかねる。たまにこうして、君は着地点の見えない会話を僕にしてくる。僕はそれを嫌いじゃないけど、その不思議な感覚には戸惑うことも多々ある。
「ザ・走馬灯プールとか」
「……は?」
 何を突拍子のないことを言うのだろう、と僕は本気でこけてプールに飛び込みそうになる欲求をなんとか堪えて叫んだ。
「なんで日本語なんだよ!」
「いや、だって走馬灯の英語なんて知らないもん」
「僕も知らないけど! はあ! 意味は!?」
「……何だろうね。考えてみてよ」
「分かんねえよ」
 なぜか真剣な君の表情は、僕の軽い言葉で揺れることはなかった。どうやら答えてくれる気はないらしい。
 僕は左手で額を抑えながら考える。しかし、それらしい答えが出ない。
「ヒントをあげる」
 君の声。
「……なんだ?」
「私はそこで泳ぎたいし、君にもそこで泳いでほしいよ」
 頬を染めて言う君の言葉に、僕もようやく答えを得た。
 とても嬉しくて、恥ずかしい言葉だった。
 僕の顔も真っ赤になって二人とも言葉を失った。
 

 二人を包んだ静寂を切り裂くように、カランカランと鈴が響く。
 同時に上がる歓声に紛れるように、僕と君もまたプールの水面に足を踏み入れるのだった。
 二人仲良く、手を繋ぎながら。


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