1. トップページ
  2. ある改心

光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

性別 女性
将来の夢 可愛いおばあちゃん
座右の銘

投稿済みの作品

11

ある改心

15/08/24 コンテスト(テーマ):第八十九回 時空モノガタリ文学賞【きっかけ】〜松山椋君の足跡 コメント:17件 光石七 閲覧数:1417

この作品を評価する

 ペシュ刑務所の死刑囚監房に一人の青年が収監された。テオ・ニネーム、殺人犯だ。四人もの命を奪ったにもかかわらず、テオには罪悪感も後悔も皆無だった。
「被害者の遺族に謝罪の手紙を書いたほうがいい。彼らの悲しみと憤りを少しでもなだめるんだ。反省してる姿勢を示せば裁判官の心証も良くなる。極刑を免れることができるかもしれない」
拘留中弁護士が助言したが、テオは聞く耳を持たなかった。
「なんで謝んなきゃなんねえんだ? あん時あそこにいたあいつらが悪い。俺はあん時、誰かに銃でもブッ放さなきゃ腹の虫が治まんなかった。遺族の悲しみだあ? 悲しけりゃ勝手に泣きゃあいいさ。人間死ぬときゃ死ぬんだ。裁判官に媚を売るつもりもねえよ」
裁判が始まってもテオは謝罪や反省の言葉を一切口にせず、自分本位の主張も変わらなかった。生来の性分なのか、育った環境――赤ん坊の時に親に捨てられ、暴力や虐待が横行する慈善・慈愛とは名ばかりの孤児院で乳幼児期、少年期を過ごした――がそうさせたのか、テオには他者を慮る気持ちが極度に欠けていた。傍聴席から罵声が飛んでも、死刑判決を言い渡されても、テオは飄々と下卑た笑みを浮かべていた。
「被告、最後に何か言いたいことは?」
「どうせ最初っから死刑って決まってたんだろ? とっとと殺せよ。ムショん中じゃ女抱けねえし、溜まりに溜まって処刑前にそっちが原因であの世行き、なんてな。ヒャハハ」
死に怯えているわけでも開き直って自暴自棄になっているわけでもない。法廷でのテオの言動は、所詮こういう人間なのだと、腹立たしく哀しい納得を人々にもたらした。
 教誨師としてペシュ刑務所に出入りしているゼム牧師は、テオと面会して胸を痛めた。
(心が未成熟すぎる。愛を知らず、命の尊さも人の痛みもわからず……。主よ、どうかこの若者をお導きください)
だが、ゼム牧師の祈りとは裏腹に、面会を重ねてもテオの態度は改まらなかった。
「なあ、牧師サマってムラムラした時どうしてんだ? やっぱひたすら我慢か? 我慢しすぎて不能になっちまった奴とかいねえのかよ?」
わざと怒らせるような言葉や卑猥な質問をぶつけてゼム牧師の反応を面白がる。テオにとって教誨師との面会は懺悔や魂の救いを求める場ではなく、単なる暇潰しに過ぎなかった。
 ある日、どういうわけかテオの元に一羽のインコが届いた。
「せっかくの差し入れだ。ちゃんと世話しろよ」
「面倒くせえなあ……」
ぶつぶつ文句を言いながら、テオは鳥籠の扉を開けてインコに餌と水をやった。インコは勢いよく餌を啄んでいく。
「小っちぇえ体でよく食うな」
テオは鳥籠を乱暴につついた。驚いたインコが羽をバタバタさせ暴れる。テオはため息を吐いた。
「たまには籠の中も掃除してやれよ。飼い主の義務だ」
「なんで俺が……クソッ、誰だよ、こんなもん送り付けやがって」
渋々世話を始めたテオだったが、インコは毎日餌を与えてくれるテオに懐き始めた。鳥籠に入れたテオの手に頭をこすりつけたり、その手を止まり木代わりにしたり、首をかしげてテオをみつめたり、愛らしい仕草を見せる。
(結構可愛いじゃねえか)
次第にテオのほうもインコに情が湧いてきた。鳥籠から出してやると、インコはテオの肩や頭に乗る。首筋に移動してテオの肌に体を摺り寄せたりもする。
「くすぐってえな」
テオはインコを優しく撫でてやる。インコはテオの服の胸元に潜り込むことも好んだ。テオがインコを胸に抱いたまま横になり、そのまま一緒に昼寝してしまう日もあった。面会での粗野な言動は相変わらずだったが、ゼム牧師はテオの表情が柔らかくなったことに気付いていた。
 ところが、ある朝テオが起床すると、インコは鳥籠の中で冷たくなっていた。テオはインコの亡骸を手に、声を上げて泣いた。
 その夜、テオは初めて被害者の遺族に手紙を書いた。彼はようやく気付いたのだ。愛する者を失うことがどれほど悲しく辛いか。自分が奪った命はどれほど尊く重いものだったのか。
「俺、なんてことしちまったんだ……」
項垂れ声を震わせるテオに、ゼム牧師は心打たれた。今、テオは犯した罪を心から悔いている。
(この若者は生まれ変われる)
ゼム牧師はテオの助命嘆願を行おうとした。
「ありがてえが、やめてくれ。俺にゃ何にもねえし、何したって命は弁償できねえから……せめて、てめえの命を差し出すしかねえと思う」
ゼム牧師は生きて罪を償う道もあるのではないかと説得を試みたが、テオは譲らなかった。
 やがて、テオの刑が執行される日が来た。
「お世話になりました」
テオは看守に頭を下げた。最後の教誨でゼム牧師はテオのために祈りを捧げた。
「ゼム先生……ありがとな」
微笑むテオを前に、ゼム牧師は懸命に涙を堪えた。
 テオは最期まで落ち着いており、死に顔も穏やかであったという。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/08/24 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

大変重いテーマに挑んだその勇気と筆力に圧倒されました。
テオには同情の余地が感じられるものの、
やはり命で償っても償いきれないほどの罪というものはあるのだと思います。

15/08/24 泡沫恋歌

光石七 様、拝読しました。

小さな小鳥を世話することで、冷血無比な死刑囚テオに初めて人間らしい心が宿ったのでしょう。

犯した罪は消えないけれど、せめて、被害者やその家族に対して謝罪の気持ちを持っただけでも
少しは天国にも近づいたと思います。

感動的なお話をありがとうございます。

15/08/25 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

犯罪者、罪と人は違うと言われますが、私自身のなかでは違和感持っています。人間は生まれた時はみな等しくいい子だったはずです、その原点に戻ることができればとニュースなどを見るたびに思います。きっかけがあれば、良かったのでしょうか。でも罪を犯す前にそのきっかけに出会って欲しかったと考えてしまう私がいるのも事実です。――いろいろ深いところで考えさせられるお作でした。

15/08/26 滝沢朱音

ずしりとした、心に迫る掌編でした。
小鳥がきっかけで改心したテオ。
きっと、それまでそういうきっかけがなく、愛に気づくことができず、
無防備な子どものまま、生きてきてしまったのかもしれませんね。
もっと早く、ふとしたきっかけがあれば…!

15/08/28 murakami

非常に難しいテーマですよね。
被害者の親の立場に立ったときに、テオを許せるかというとやっぱり許せないでしょうし。でも、改心させないままに命を奪っても何も変わらない…。

たった5枚とは思えない読み応えのある作品でした。



15/08/30 つつい つつ

未成熟過ぎる殺人者が改心しようがしまいが許すことは出来ないだろうとも思うけど、動物によって人の心が変わることはあるだろうとも思います。
人間というのは、つくづくややこしくて難しいと感じました。

15/08/30 光石七

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
昔誰かから聞いた話だと思うのですが、その時の状況も話の細部も記憶が曖昧で。ただ、小鳥の死をきっかけに死刑囚が劇的に変わったというインパクトだけは覚えてまして、自分なりに細かな設定や場面を考え、膨らませて書いてみました。
感じるものが少しでもありましたら幸いです。

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
一番書きたかったのはテオの変化だったので、そこをくみ取っていただけてうれしいです。
彼の変化は魂の成長と捉えてもいいかもしれませんね。
こちらこそ、拙い文章を受け止めていただき、感謝です。

>OHIMEさん
コメントありがとうございます。
法に触れずとも他者を傷つけたりするケースは、日常の中にありますね。
被害者側の感情と犯人の更生のバランスも難しい問題だと思います。
人は誰しも善人たりうること、私も忘れたくないですね。
小鳥の世話を実際に刑務所の更生プログラムとして取り入れている国もあるそうです。

>草藍さん
コメントありがとうございます。
罪を犯す前に…… そう思いますよね。人として基本的なことを学んだり育んだりするきっかけがなかったとすれば、それは悲しいことです。
考えさせられるとのお言葉、深く捉えてくださったのだとうれしく思います。

>朱音さん
コメントありがとうございます。
過分なお褒めの言葉、恐縮です。
確かに、もっと早くに愛に触れ、命の重さや人の痛みなどを理解していれば、テオは罪を犯さずに済んだかもしれません。
書きたかったことをしっかり受け止めてくださり、うれしいです。

>村上さん
コメントありがとうございます。
被害者側の感情と犯人の更生、死刑制度の是非など、難しい問題ですね。私自身もはっきりした答えを持てません。ただ、小鳥を通じて主人公が変化する姿を描きたいと思いましたし、変わることが大事だと思いました。
もっと上手く描ければよかったのですが、“読み応えのある”とのお言葉に救われます。

>つつい つつさん
コメントありがとうございます。
被害者の遺族の立場にしてみれば、いくら犯人が更生したところで死んだ者は帰ってこないし許せないと思うのも無理はないでしょうね。
生き物を飼うのは情操教育に良いと言われたりしますし、実際に刑務所の更生プログラムに取り入れている国もあるようです。
いろいろ足りませんが、少しでも感じるものがありましたなら幸いです。

15/08/31 冬垣ひなた

光石七さん、拝読しました。

大変難しく重いテーマですね。
お前が悪いと頭ごなしに説教するのではなく、小鳥を育てるという
ナチュラルな行為で心が変わる。
こういう感覚的なものは実践でしか身につかないのかもしれません。
やはり犯罪を犯す前にどこかで改心出来なかったのか、考えさせられました。

15/09/01 光石七

>冬垣ひなたさん
コメントありがとうございます。
本来、情や心は体験や実践で培われていくものなのでしょう。主人公が人としての基本的な心を幼少時に学べなかったのは、悲しいことだと思います。
重く難しい問題を含んだ話になってしまいましたが、人が人間らしく変わるきっかけと過程を描きたいというのが今テーマでの一番の思いでした。
不足な部分が多々ありますが、少しでも伝わったものがありましたらうれしいです。

15/09/03 霜月秋介

光石七様、拝読しました。

感動しました。インコがきっかけで改心したテオに心打たれました。
可愛い動物には、人の心を癒やす効果があるのですね。素晴らしいお話を有り難うございます。

15/09/04 光石七

>霜月 秋介さん
コメントありがとうございます。
一番書きたかったことを深く受け止めてくださり、うれしいです。
インコはテオが初めて得た純粋に自分を頼ってくれる相手であり、心からの愛情を注いだ対象であったのでしょう。
こちらこそ、もったいない感想をありがとうございます。

15/09/07 三文享楽

光石七さま、拝読させていただきました。
重厚感あるテーマで、インコという小道具の生と共に成長(更生)する主人公が絶妙に描かれていますね。インコは自然死ということでいいのですよね?あまりに暴力的であったテオを死ぬまでにせめて生物を憂える心を持たせようかと、懲悪的な気持ちでゼム牧師が殺したのかとも疑いましたが、最後までいい牧師として描かれていたので違うのかなとも思いました。インコを誰が送ってくれたのだろうかなど色々と想像を膨らませてもらえる内容でした。

15/09/07 光石七

>三文亭楽さん
コメントありがとうございます。
書きたかったことを受け止めてくださり、うれしいです。
インコは自然死で、ゼム牧師はインコとは関わりがありません。疑念を持たせてしまったようですみません。
インコが主人公の元に届いたのは手違いのようなものと思っていただければ。書き手としては主人公が小鳥によって変化することこそ重要で、送り主の存在や届くまでの経緯などは具体的にしないほうがいいのではないかと端折りました。……というのは後付けで、実際は字数の問題から“どういうわけか”のひと言で片付けただけだったりします(苦笑)
まだまだ未熟者ですが、読んでくださる皆様の感性と寛大さに助けられております。

15/09/07 光石七

すみません、↑のコメント、お名前を間違えて打ってしまいました。
三文享楽さん、ですね。
失礼しました。本当に申し訳ありません m(_ _)m

15/10/15 泉 鳴巳

拝読致しました。

自分よりも圧倒的に弱く、打算や暴力、裏切りのない存在と触れ合うことで、純粋な関係を(悲しいことですが)そこで始めて体験することができたのですね。
「犯人が謝罪したり死んだところで殺された人が帰ってくるわけじゃないのは分かっている、でも謝罪はしてほしい、ただ改心したからといって愛する人を殺した奴がのうのうと生きているのは許せない」という複雑な感情が遺族にはあるのだと想像できます。
「せめて、てめえの命を差し出すしかねえと思う」は、愛する存在を喪う気持ちを理解し、自分が生命を奪ってしまったことの罪の重さを理解した上での台詞のように感じられました。
まるで中長編を読んだかのような読み応えでした。私も精進したいと改めて感じました。

15/10/16 光石七

>泉 鳴巳さん
コメントありがとうございます。
主人公がインコを通じて何を経験し何を学んだのか、深く汲み取ってくださり感謝です。
被害者遺族の感情と死刑制度の是非は難しい問題ですし、どの意見も頷けるものがあるので私も答えを持っていませんが、今作では主人公の変化に重点を置きました。
挙げてくださった台詞は主人公の改心が本物であることを伝える要になればと思っていたので、しっかり受け止めて頂けてとてもうれしく思います。
過分なお褒めの言葉、恐縮です。

ログイン