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ハヤシ・ツカサさん

テーマは「どこにでもある、日常。」 サラッと読めて、時々泣ける短編を目指します。

性別 男性
将来の夢 ハヤシ名義で短編集が出せたら。 ゼロから一を創り出す、小説家は憧れです。
座右の銘 人生は、死ぬその日までの暇つぶし。 だから、一分でも一秒でも楽しいことを考えて生きる。

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決戦場所に、馬鹿ふたり

15/08/14 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:0件 ハヤシ・ツカサ 閲覧数:923

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 とある西洋の田舎街。告知通り行われることになったこのカーニバルの内容は、共に名高いガンマンであり、そして長年のライバル同士である二人の、観客の前での戦いを一目見ようと決戦場所は大勢の客の熱気に満ち溢れている。
 肌に優しい西風が吹き荒れている。今まさに、ゴングがなろうとしている。
「悪いが、エビデンス。この勝負は俺の勝ちになる」
 対戦相手のアジェンダは、彼の意外な言葉にカッと目を見開いた。
「な、なにを言ってるんだ。戦う前から勝敗なんてわかるものか。それでは勝負とは言えないだろう。お前、八百長しようってのか」咄嗟に目を背けるアジェンダに抗議した。
「くだらないことを言うな!」と、言うが早いか、アジェンダは自身の馬についての自慢話を始めた。
「お前さんには黙っていたが…」
「なにをだ」エビデンスが訊いた。
「お前さんには黙っていたが、俺の馬には、一ヶ月前から最高級の強壮剤を与えている。干し草の中に少しずつ、混ぜていたのさ。勿論、舶来品の高級なヤツをだ」
「強壮剤だぁ?てめえ、汚ねぇ真似するんじゃねえ!」吸っていた葉巻を投げ捨てたエビデンスが、抗議の声を上げた。
「だからよ、お前さんのへなちょこ野郎とは、お話にならない、って言ってんだよ」
「ヒヒーン!」アジェンダの馬が、彼の台詞が言い終わるや否や、絶好のタイミングで雄叫びを上げた。集まった観客も盛り上がり、ヤンヤの喝采が止まらない。
「そうとわかった以上、俺もお前さんにある秘密を告白することになったようだ」おもむろにエビデンスが呟いた。
「なんだよ、その隠し事ってのは」アジェンダが訊いた。
「バレちまう前に、お前さんに言っとこう」どうやら、エビデンスの馬にも決闘に備えての秘策の存在がわかると、血の毛の多い観客はいままで以上に興奮し始めた。
「実はな、俺もお前さんと同じ強壮剤をコイツに与えてきたのさ。お前さんが馬鹿正直に告白してくれたおかげで、これで平等に戦えそうだぜ。入手方法?ソイツは内緒だ。聞くだけ野暮、ってことだな」
 右手の人差し指で僅かにハットを上げながら、エビデンスはちょっぴり恥ずかしそうに、自分の馬にも小細工をしていたことを認めた。
「ようし、面白い!俺たちは長い間、この街で人気を二分してきたライバル同士だ。この街に、人気者は二人は要らない。そういうことだ」
 なにかを悟ったように吐き捨てるアジェンダ。だが、最大のライバルであるエビデンスもまた、自分と同様、馬に小細工をしていた動揺は隠しきれていない。
「行くぞ!」
「望むところだ!」
 割れんばかりの歓声。この決闘に負けた者は、静かにこの街を出て行かねばならない決まりになっている。盛り上がるのも当然のことである。
 すると、雄である筈のアジェンダの馬が急に内股になったかと思うと、ヘナヘナヘナ…と、その場に突っ伏してしまった。
「お、おい、何してんだお前!これから決闘なんだぞ!」アジェンダは予想外の出来事にただ、オロオロするばかりだ。
「おいおい、笑わせんじゃねえよ!それじゃ敵前逃亡じゃねえか…?…あン?お、おい、急に座ろうとしてんじゃねえよお前!おい、こら!…」
 なんとエビデンスの雄馬も、全く同じ姿勢でその場に座り込み、全くやる気の無い表情で、アジェンダの雄馬と見つめ合うような体制になってしまった。
 そこへ、一頭のロバを連れた、黒装束を身に纏う地味な行商人がやってきた。
「おい、お前!お前は俺に一ヶ月前、強壮剤を売りつけた奴だな?」アジェンダは、首根っこを掴まんばかりの勢いで行商人に詰め寄った。
「コイツを見ろ。これからアイツと決闘なんだぞ。どうしてくれるんだ!」
 不貞腐れたように、行商人は静かに答えた。「ダンナ。ダンナに売った強壮剤が100%効果有り、とは申してませんぜ、アタシは」
「ラベルには、イザというとき最強の力を発揮する、と書いてあっただろう」納得しない様子で、アジェンダは更に行商人に詰め寄った。
「だから、使用上の注意を良くお読みになったんですかい?何事も、過剰な期待は御法度ってモンですぜ。まさか、一度にたんまり与えたんじゃ?あんなのは少しづつ与えて、味に慣れさせないと。そうでなきゃ、おかしくなっちまうこともあります、ってば」
 エビデンスが、二人の会話に割って入ってきた。
「俺も確かに、お前から買った。覚えてねぇとは言わせねえぞ!与えすぎたらカマになるとは聞いてねえ。最強のカマ馬が出来ちまっても、どうしようもねぇだろう!」
 行商人はまさか、その場に自分の客が二人もいたとは露知らず、狼狽えた。
「そのアジェンダを述べよ!」
「そのエビデンスとは何なんだ!」
 内股同士、互いに卑猥な雰囲気で見つめ合う二頭のカマ馬を見せつけられた観客は、呆れを通り越し一人、また一人と決戦場所を後にしていった。


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