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ヤマハさん

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ケンリョウ

15/08/14 コンテスト(テーマ):第六十一回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 ヤマハ 閲覧数:865

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 近辺の森にて、学問的事情から(危険の少ない範囲において)熱心な自然研究を行っていた。
 原形質の採集が主な目的なのであるが、いっそ何もかも死に絶えて欲しいよ。
 おっと失礼!ピンセットとピポットのみを用いたアバウト作業につい弱音を、聖ヨハネを塩辛みたく吐いてしまった。
 俯瞰してごらんよ。木の葉を隠すには森の中。微小な細胞を広大な自然から拾い集める一人の男の姿が見えるか。それが俺だ。ケンリョウだ!
 程なくして、俺が疲れ果てるのは分かっている。
 踵が、股関節が、骨が軋んで幻滅していく様が分かる。リアルタイムの疲労困憊だ。
 「終わった」
 とりあえず言葉で一区切り付けておいて、原形質が多分に蠢いているであろう地面に腰を下ろした。
 鳥の鳴き声がピーチークパーチク、木々のざわめきが未開言語のように煩わしく聞こえてくる。
 さてと、安息は是非なくてはならない。
 俺は、水と風を一身に、精霊に捧げて鬱屈してきた頭をリフレッシュする必要を、まだ理性的であるだろう頭で考えた。
 ここからそう遠くない場所に川がある。行き先は決まりだな。
 ふと、消灯したみたいに日が暮れ始めた。
 まずいな。寒くなってきたぞ。
 この森は、日中は類人猿が闊歩する動物等のテリトリーだが、日が沈むと木々に収まっているエレメントが目覚め、地中に溜まった冷気を吐き、動物たちは一時的な後形質になる。それからは、一気に植物たちのパラダイスへと変貌するという獣脂と樹脂の二つの顔を持つ。確か、そんな話だ。
 よし!
 俺は思い切ってポーチからオカリナを取り出した。
 医学書の図解で描かれる静脈みたいな青い線の束が縁取られた、妙にデザインされたオカリナであるが、これはまあ、トレンドという奴だ。
 「ブワァーー。ブウァーーー」
 二回ほど吹いたところで止める。
 暫く(2分くらい)して。
 「ボコボコボコ。モゴモゴ、モグモグ、ガサっ」
 モグラもどきのパーミッション(permission)が、オカリナの音色に呼ばれて地中から這い出てきた。
 笑顔でパーミッションを迎え(しかし無言で)、パーミッションの背中に乗る。
 「安全且つ速やかに川へ向かうぞパーミッション!」
 「うん」
 どういうわけか、「うん」という発音には長けているパーミッション。
 程なくして、目的地の川へ到着した。
 お礼に、ポーチから豚肉ジャーキーを取り出してパーミッションに与える。
 「ありがとうパーミッション。それ、みずみずしいジャーキーだぞ!」
 「うん」
 パーミッションは少し不満げな顔をしていたが、何、いつだって返事は肯定的な奴さ。アハハ。
 何て和んでいないでさっさと身体を癒やそう。服を脱いでと裸体になってと精霊を直に感じてと、寒いぜ畜生。
 ちょっと、安息の形にこだわりすぎかな?冷気が蒸気している中で裸体になるってのは、自殺志願者が修行僧くらいじゃあないか?いや、なら俺は探求者ってことにしておこうか。
 などと馬鹿げたことを考えていたら、いつの間にか服一式が風に運ばれて川へ流されていました。大丈夫、我思う故に我あり。
 俺はそれこそ探求者も真っ青な態で川へとダイブした。
 「服ぅーー!服ぅーー!」
 二回ほど叫んだところで黙る。
 暫く(2秒くらい)して。
 「ボコボコボコ。モゴモゴ、モグモグ、ガサっ」
 森に蓄積された物凄い量の冷気が川に伝播してくるのが分かる。読みが外れた瞬間だ。つまり、致死量を超えるのは容易いねえぇぇぇぇ!
 まずい。水面が凍り始めた。このままでは確実に死んでしまう。ええい、何か、何か救いはないのか。慈悲はないのか。
 手当り次第に暴れまくる。水に溺れてパニックを起こしたような、何とも格好が悪いが死んだら元も子もないから早く、パーミッションはどうした!?
 「うん」
 陸で会釈するパーミッションの姿が見えた。駄目だ。この馬鹿が!
 身体が沈んでいく。澄み切った、神聖な水の底なしへと落ちていく。顔面に冷たい水の流れが大量に浸入してくる。痛いイタイイタイ。苦しい。
 畜生!
 俺は半ば本能で、辺りに漂っていた蛇の首を捕まえた。絶対に離すものかよ。こいつは酸素だ。俺の、生命線なんだよ。
 嫌がる蛇にマウス・トゥ・マウス。全然、全然酸素が足りない。
 俺は再び水中の生物から酸素を得ようと試みた、が俺の思惑とは裏腹に、身体は限界に達した。
 「終わった」
 とりあえず言葉で一区切り付けておいて、死ぬ用意をした。すると、何か神秘的なものが弾けて激しい鼓動に襲われた。と同時に眩い閃光が目の前に現れた。
 何なの一体?
 突然、身体が浮上し始めた。浮上は水面の氷を突き破っても止まらず、ただひたすら実直に上昇していった。
 助かるのなら何だって良い。俺は、意識を失った。
 これは後から駆けつけたおじさんの目撃談だが、俺は閃光が作り出す光の球体に包まれて宙に浮いていたらしい。
 いや、言いたいことは分かっているから黙っていてくれ。
 さておき、目が覚めると見覚えのある木目、匂い。そこは隣のおじさんの家の寝室であった。
 俺の様子に気がついたたおじさんは不満げな、邪悪な表情で近寄ってくる。手には何やら得体の知れない物体を持っていた。
 「これはなんじゃ」
 手に持っていた物体を俺に見せる。
 やれやれ。
 「この俺が知っているとでも言いたいのか?この大馬鹿が!」
 「え?」
 おじさんは、まるで異教徒を見るかのような目をして、心なしか顔というよりは、表情が肥大したような気がした。
 もしかして、本当に馬鹿なのか?
 「それはそうと、パーミッションの帰りが遅いんだが、お前、何か知っているか?」
 「え?」と、今度は俺が間抜けな声を出してしまった。
 パーミッションとは近辺の森(公式名称は知らない)で別れたけど、俺は意識を失っていたわけで、結局、知らんな。
 そんなことよりも俺をゾッとさせたのは、何でおじさんが、パーミッションを気にしているのか、ということだ。
 あいつは俺の契約モグラもどきで、基本的に他人と接触する機会は無いと考えてよい。そのパーミッションがおじさんと知り合い?どういう関係だよ、気持ち悪い!
 「さてね、地下で凍えているんじゃないんですか」
 適当に答えたが、少なくとも嘘は言ってないぞ。
 「そうか」
 ゆっくりと俺の方に歩み寄り(喧嘩か?)、おもむろに謎の物体を手渡してきた。
 「ジ・エンドじゃ」
 「分かりました」
 いつまでも、こんな薄ら寒い場所にいる理由は無い。俺はベッドのスプリングを最大限に利用し、思いっ切り跳ね起きた。不思議だ。勢いがついているとはいえ、身体がとても軽い。昨日の疲れが嘘のように、まるで夢のように俺は跳ねている。
 不思議といえば、この川で拾った物体だ。光を内包した抜け殻とでもいえばよいのだろうか。本来の力を失った微弱な神秘というか、例えるのは止そう。
 俺はスタスタと早足におじさんの家からバタンと出て行った。

 翌朝。
 俺はいつもより早起きをした。何故って、一刻も早く登校して、この光の抜け殻について調査したかったのさ。
 着替えも食事もそこそこに、俺は学校に向かった。
 う〜ん、やはり朝の日光は格別だぜ。爪先から脳天まで息を吹き返していく。俺が俺になる。単能学徒になるって感じだ。
 見てご覧よ。きれぎれに広がる街中を。建築物の輪郭は出勤者の色彩で活気を帯びて一日の始まりを告げてきてくれる。俺の人生を歓迎してくれている。
と、あれこれ感慨に耽って暇を潰しいる間に学校に到着するのが吉。何たって退屈だからね。
 よし図書館にでも行くか。
 俺は、気持ちは半ば高速に図書館へと移動した。
説明しよう。我が校の図書館は、国内で有数の蔵書量を誇るバベルの図書館だ。この図書館のためだけに入学する価値は、少なくとも俺にはあった。
 いつ見ても素晴らしいと歓喜しているといきなり、音を立てて受付の女の子が俺に近付いてきて、言いました。
 「ケンリョウ!あなた、9月に借りた本まだ返していないわよ!」
 この馬鹿。恥ずかしいことを大きな声で言うなよ。皆が見ているじゃないか。
 「しーっ、静かにしろよ。今日は調べ物に来たんだよ」
 「ケンリョウが調べ物?アッハハハー、笑わせないでよ!」
 「これだよ、この光の抜け殻だよ!」
 その瞬間、サーッとゆり子の表情から血の気が引いていくのが分かった。
 「あんた、今度はそれを担保にして本を借りようって寸法?」
 「馬鹿(思わず)か!調べ物って言っただろう」
 「あ、そーね。ごめんごめん。その、抜け殻(石にしか見えないけど)?なら見たことあるけど。何なら見てみる?」
 「え?ああ、是非」
 ゆり子はテキパキと奥から脚立を取り出し、世界遺産の図鑑があるコーナーに向かって走った。やれやれ、どうにか掴んだ手掛かりが、まさかゆり子とは。
 ゆり子は素早く脚立を組み立てると、更に素早く脚立を駆け上がって行った。抜け殻を片手に何やらあれこれ照合しては整合性を算出し、見るからにはしゃいでいるな。
 助手よろしく脚立を支えている俺は、上空から降り注ぐ粉塵のシャワーを一身に、主に頭頂部に浴びた。ゆり子、俺に救いはないのか?慈悲はないんですか?
 そうこうしていると、ゆり子は不意に叫び声を上げた。
 「ビンゴォ!!」
 図書館中の者がゆり子に射るような視線を向けた。ゆり子はそれでもお構いなし、俺の方は赤面。ゆり子は脚立の上からハイジャンプ。そして大袈裟に本を開き、ある部分を指差して俺に言った。
 「ここよ、これと同じものが写ってるでしょ?ずっと前にこの本を見てて、見覚えがあると思ったの。これはね、およそ1000年前の遺跡から発見された物らしいわ。何でも古代文明の物みたい。そんな超貴重品を何でケンリョウが持ってるの?博物館にしかないような物なのに」
 「これは近辺の森の川で手に入れたんだよ。いや、手に入れたというよりは、授かったと言う方が正しいかな。リアリティー無いだろ。とにかくそれで調べるために、図書館に来たというわけさ」
 この光の抜け殻が1000年前の遺物?そんなことを急に言われても、ねえ?荒唐無稽な巡り合わせだぜ。
 俺の当惑などお構い無しに、ゆり子は再び本を読み始めた。
 「この遺物が発見された時、その場にいた採掘者の多くは強烈な閃光を目撃した。しかし、当時の気象を観測したところ、稲妻等の反応は感知されていない。つまり、稲妻では無い何かが起きた、ということである。だってさ」
 その瞬間、俺の脳裏に稲津では無い何かが走った気がした。
 「閃光を目撃だなんて生ぬるい。俺は閃光に包まれて、それこそ抜け殻から成虫に変態したんだぞ。なあ、どう思う、ゆり子?」
 静寂。
 ポツリと、しかし、毅然とした態度でゆり子は言った。
 「この場合、幼虫から成虫に変態するのが正しいし、抜け殻って表現にこだわっているみたいだけど、どう見ても石だから、それ」
 「まあ、そうだね」
 俺とゆり子は互いに見つめ合い、そして、微笑した。

 情報を整理すると、俺が拾得した石は抜け殻ではなくて、古代文明の遺物ということだ。
 そういう風に考えると、今までの摩訶不思議な体験に心理的な保証をされたような気がして、心拍数が上がった。まんざら得意でもない、という奴だ。
 「棚からぼた餅って感じだけど、先生に遺物を提出して、しかるべき学位を授与しようか?」
 先に言い訳しておくが、特に他意は無かったんだ。それなのに、哀しいね。ゆり子は両の目に氷の光を宿し、この俺をどう料理しようかと、無慈悲なコック(?)になって舌鋒鋭く噛み付いてきた。
 「何を言ってるの?理解できない精神なの?これは、この輝ける金字塔は、私たち(主に遺物を鑑定した私)の発見なのよ。それを、チャンスをみすみす手放すっていうの?あら怖い。ケンリョウ、シャキッとしなさい!この石に残されてる謎を解明するのは今!」
 予想外の剣幕で面食らったが、そのヒステリアな感覚を差し引いても頼もしく思えて、よくは分からない勇気がほっこりと湧いてきた。いける、ゆり子は意欲充分だ。そうと決まれば1+1は2ではない。2<∞だ!
 「君の気持ちはよく分かった。して、どうする」
 俺の賛同に、ゆり子の表情がパッと輝いた。

 次の瞬間手に握っていたはずの遺物が、前方に投げ出された。おもむろに拾おうとした時、まだそれを持っていることに気づいた。
 パチパチパチと、俺の背後から神経質な拍手が聞こえてきた。キャベツ頭のクラウトだ。
 「私の魔法にまんまと騙されたようだね。いや愉快愉快」
 クラウトは、心底愉快そうに頬を吊り上げた。不気味で、それでいて排除したくなる、そんな表情。おのれ!
 「魔法だと、くだらない!その程度の幻、魔法ではないわい」
 一触即発の空気。
 ゆり子、俺を止めろ。このままでは、このモヤシでキャベツなクラウトの返り血を浴びて微笑する残忍性充分のケンリョウの図が出来上がってしまう。
 瞬間、目で合図を送る。分かった、とピースサインをするゆり子。
 「まあ抑えてケンリョウ。クラウトは、ほら、神の落とし子なんだから、ぼろ雑巾みたいに痛めつけたら罰が当たるわよ」
 「確かに。一理あるな」とクラウト。御身を神の血族と信じて疑わない、どうしようもない大馬鹿だ。その自説の根拠が魔法というわけさ。欺くだけの、詐欺師の私生児さ。
 「で、さっきの話なんだけど、この石について何か知らない?」とゆり子。
 「これ?何でもないさ、単なる石っころだよ。しかし、このクラウトにかかれば文明の石さ。見てろよぉ、上下に3〜4回さ!」
 クラウトは遺物を摘まむと、腕を上下に動かしはじめた。こいつは馬鹿だから、これで筋力増強器具のつもりなんだろう。
 すると、クラウトは何やら唱えはじめた。
 「ビビ、ビビ、ビビビ」
 完全にアレだ。アレだよこいつ。
 尚も唱えるクラウト。
 「ビビビ、ビビビビ。ピッ!」
 その時である。遺物が、息を吹き返したかのように閃光を吐き出した。
 「凄い凄い!凄い凄い!あんたの魔法って役に立つのね、見直したわ」
 「いえ。私のこの力は必然なのですよ」
 ゆり子のテンションが上がり、クラウトの表情が確信的に歪む。
 やれやれ、厄介なことになってきたぞ。クラウトの、この馬鹿の魔法の力が、馬鹿魔力が遺物に反応したのは事実。これでは、クラウトの存在意義を認めざるを得ない。アリバイ証明程度にはな。
 しかし俺達はクラウトに遺物を委ね、その反応を調査する旨を裁定し、可とした。

 明朝。俺達は学校の校門前に集合した。
 「おはよう諸君。これから我々は、遺物の手がかりとなるであろう遺跡へと調査に行くのであるが、くれぐれも、私の足を引っ張らないように。特に、ケンリョウ」
 「分かったから、早く出発しようぜ」
 俺とゆり子は率先して馬車に乗り込み、クラウトは遅れを取ったことを恥じるようにしかめ面をしていた。
 「ゆり子、森の外れにある遺跡についてだか、一体どのような場所なんだ?」
 「そうね、一言で言うと廃墟。跡地よ跡地」
 「跡地か。クラウト、君の意見を聞こう」
 急に話しを振られたクラウトは、困惑の表情を浮かべながらも、それを悟られまいとし、妙に陽気に答えた。
 「私の考えでは、予期せぬ敵が立ちはだかるであろうが、何、取るに足らない雑魚さ。一捻りさ」
 「そう」
 俺とゆり子は沈黙した。いや、鎮静を必要として閉口した。
 俺は遺物を、ゆり子は図鑑を、クラウトはぼんやりと過ごして、急がば回れと御者を酷使して、俺達は目的の遺跡へと到着した。
 「では早速」
 馬車から降りるやいなや、クラウトが遺物を手に念じ始めた。無反応。学校ではあんなにも素晴らしい反応を我々に見せてくれたのに、まぐれだったのかな。是非なし。
 「次、俺の番」
 微小な光。赤いランプが点滅し、読めない文字が浮かび上がる。そして消えた。
 「電池切れだ、恐らく。とりあえず、遺跡に何かあるかもしれないから、三人で捜索を開始しよう」
 「へーぇ、よくお分かりで」
 今日は調子が悪かった。既に校門前の段階からコンディションを崩していたが、それでも神の一滴、奇跡を演出したんだから、という具合にクラウトは、自分に比べたら君は大したことないねと、態度で釘を刺して捜索に向かった。意外と前向きだな。
 九死に一生を得て遺物を手に入れた時のように、仄かな遭遇があるような気がする。不思議と、そんな手応えがある。とはいえ、気のせいでしかないし、地道に調査するしかないな。ん?入り口に看板
 「待て。キケン。ユクエフメイシャゾクシュツ。って小さい子供でも読めるように大きくカタカナで書かれているではないか。その禁を破っていいのか」
 「おやケンリョウ、怖いのか」
 怖い?俺が?勇気と無謀を履き違えたクラウトの猪型行動こそが、何より恐怖の芽だ。しかし、勢いは買おう。危うさは、俺とゆり子で制御すれば良い。
 「分かったよクラウト。先行けよ」
 満足といった具合に前方に視線を戻すクラウト、中の様子を見るなり
 「なんだか気色悪いな。ケンリョウ、君から行け」
 クラウトは顔を背けながら松明を俺に押し付けた。侮辱と受け取っていいものか迷ったが、よくよく陰影に映えるクラウトの表情を見ると、左目が小刻みに瞬きをし、口元は極度の緊張で引き攣り乾いていた。それは哀願を如実に物語り、単純に恐怖している事が分かったので、本当に憐れなんだなあと思った。
 蜘蛛の巣を掻き分け先にある階段を下りると、俺達は地下のフロアに到着した。一階の狭苦しい閉塞感は薄れ、地下は扇形に広がっていた。
 するとどうしたことか。仮死状態に陥っていたクラウトは息を吹き返した。目を輝かせ、鼻を高くして、口には笑み、発狂したのだ。否、解き放たれたのだ。恐怖の影から。俺もこいつと同じなのか。
 「前を見なさいよ。扉があるわ」
 そうだゆり子の言うとおりだ。今は目の前のことのみに集中して、余計な事は考えないようにしよう。
 どれ、石の扉だ。古びていて、それでいて頑丈そうだ。ノブは無く、あるのは溝だ。
 「どれ、重そうだな。よいしょ」
 溝に手を当てて押すと、意外と簡単に扉は開いた。厳重にするよりは洗練されているのか。
 「ほぉーう」
 ゆり子は素っ頓狂な声を上げて、神秘的レクリエーションを歓迎していた。
 その区画は、例えるならば我が校の売店の四倍くらいの広さで、簡単に言うとホールだ。
 中央には筒状の物体が三つ縦に並んで置いてあり、その手前には硬質な台が設置されていた。
 その台は照明の役割を果たしているのか、青い光を放ちホールを照らしていた。
 「ん?」
 いつの間にか遺物が青い光線を放ち、その光線は中央の台へと引き寄せられていた。
 「共鳴しているのか」
 俺は中央の台へと近付き、台の窪みへと遺物を穿った。接続したのだ。
 「お?」
 暗闇を照らす程度の照明が遺物の接続によって、よりくっきりとした明かりに変化した。
 「よく分からないな」
 この現象をどう捉えてよいのか決めかねるな。クラウトも同様らしく、「なるほど、なるほど」と同じことばかり呟いている。
 「何やってんだか」
 ゆり子はスタスタと筒状の物体に近付き、それを覆っている幾層もの埃を手で払った。
 筒から飛散する昔日の汚れの隙間から、何やら人肌が見えた。
 「わっ!」
 さすがのゆり子も驚いて尻餅をついた。
 「待ってました」
 クラウトは指先から炎を出しながら跳躍し、弧を描きながら筒の表面を焼き払った。
 「これは非常に興味深いですねー」
 クラウトは異様なほど筒に接近してべたべたしていた。余熱で手の皮が引き伸ばされても何のそのだ。
 筒の中身は氷漬けで、人間が冷凍されている。保存されているのか。
 「よく分からないな」
 この事態にどう対処すべきか決めかねていると、台に設置した遺物がピピピと鳴った。
 「何だ?」
 遺物の音を検証すべく、遺物に触れたその時だ。
 完了。
 遺物の表面、フロントに「完了」の文字が示された。
 一体どうしたというのか。遺物を手にしてから血液が、魔力がサラサラ循環していくのが分かる。
 「ふぅーっ、はっかを呷ったみたいに爽快だ」
 俺は身体を風でラッピングして、ちょっとばかり宙に浮いておどけてみせた。
 「あなたは神の子・・なのですか」
 クラウトは思わず口を滑らせて、俺の力に不気味な印象を与えた。神の子って、宗教じゃないんだから。
 かつて、神を称するものあり。その輩、奇跡を信じさせる術に長け、衆目を幻惑すること鬨の声が上がり、やがては狼煙を上げて、血で血を洗う偶像と化した。
 人々の思想は死臭で次第に疲弊し、痩せ細り、集中力が切れて、凧糸が切れたように無軌道に飛んでいった。その流星は切っ先となって降り注ぎ、天国の地獄を潤わせた。
 神を称するもの、後ろを振り返れば首が捻じ曲がり、既に死んでいた。残骸だけが存在を示し、それも風化して遠い壁画。
 神と神的は違う。俺は適格者でいたい。と、どうでもいいぜ。
 「宗教学的見地から判断して、ケンリョウは神の子に違いないわね」
 ゆり子は冷や汗を流してクラウトに賛同した。笑っていた。その眼差し、冗談なのか?本気で言っているのか?
 二元論で俺は極致へと移行できるかもしれない。その位置は俺の望み、更に言えば真実ではないが、第三の目には現実に映るんだ。
 「神とか分からないけど、いや冷静に100%違うけれど、この遺物が100%俺にシンクロしたのは事実で、神懸った魔力を蓄えているのは分かるよ。ほらはっ!」
 魔力を心臓から力強く脈動させると、その逆流で溢れかえった魔力が遺物から氾濫して、その余波で筒の外壁を一掃してしまった。ついでにクラウトは転倒し、ゆり子は未だに尻餅をついていたので存外平気な様子だ。
 「ケンリョウ、せっかくだから、この冷凍されし人達を解凍されたしじゃない?」
 「そうは言ってもゆり子、生きているのか死んでいるのかも分からないし、好奇心だけでホイホイ処理していいのかな?」
 「構わない。神なら構わない!」と興奮しきりのクラウト。この野郎、神と神的について汲々と説明する必要があるな。
 「まあ、筒を失った以上、この冷凍されし人々は生命維持装置を外されたに等しいから、急いで解凍に取り掛かる必要ありだ。遺物も、そう言っている」
 遺物のフロントに煌々と「解析」の文字が表示され、俺は解析の流れに身を委ねることにした。
 ところが「解析」は進まず、やがて表示は「堆積」になりそれは赤褐色に点滅し始めた。同時にホールの入り口が崩壊し、次々と周りも崩れ始めていく。
 「これが神の召喚なりィ!(バコッ)ヒィィーー」クラウトは頭部に落石が当たり気を失う。
 「うそでしょ死ぬの?」
 地が揺れ、亀裂が走ってこちらに向かってくる。死を間近にした。俺とゆり子は最期を受け入れた。しかし何かが違った。
 「ボコボコボコ。モゴモゴ、モグモグ、ドカっ」
 懐かしい顔が現れた。

 「貴様はモグラもどきのパーミッション!」

 「さぁ、あっしの背中に乗るでやんす。今のあっしなら六馬力あるでやんすから、3人同時に乗せられるでやんすよ」
 我々は間一髪、崩れ落ちる遺跡から、パーミッションの背中に乗り地上に出る。周囲は崩壊により砂埃が上がる。(パーミッションの野郎、もっと遠くに運べよ)しかし生きてる。クラウトは気を失っているが脈はある。ゆり子は地面に両手をついて涙をこぼしている。そして地上に出て気づいた、経緯は不明だがパーミッションの、パイナップル大だった身体が明らかに大きくなっている。恋でもしたのか、まあいい。無事に出れたんだ余計な詮索はよそう。

 後日、我々はこの出来事をあらゆる方面に話し伝えたが、結局誰一人として信じてはくれなかった。まるで3人が同じ夢を見ていたかのよう。
 空を見上げると雲がパイナップルの形状を模していた。それを見た時、この出来事は人には話してはいけないのだろう、直感的にそう確信した。だから3人の秘密にすることにした。


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