1. トップページ
  2. 花になれなかったかまきり

高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

性別 女性
将来の夢 二次元に入って箱崎星梨花ちゃんと結婚します
座右の銘 黙り虫、壁を破る

投稿済みの作品

5

花になれなかったかまきり

15/08/10 コンテスト(テーマ):第八十八回 時空モノガタリ文学賞【 罠 】 コメント:2件 高橋螢参郎 閲覧数:1680

時空モノガタリからの選評

作品の雰囲気が美しく上品で、人生についての深い教訓をふくんだ内容となっていると思います。他者を傷つけ生きていく自分の業を「重い十字架」と、否定的にとらえるかまきりの姿に、自身を重ねてしまう人も多いのではないでしょうか。かまきりが「花」になろうとしても叶わないのと同様、人間も自身を受け入れて生きていくしかないのだろうと思います。「生まれつきこうなっているって他に、大した理由はないんだ」という撫子のセリフが、全てを言い表していて含蓄がありました。

時空モノガタリK

この作品を評価する

 蘭の花畑を飛び回っていた蜜蜂たちのうちの一匹が、ある時ふっと姿を消した。仲間の蜂がその事に気付きしばらく探し回ってみたものの、見つからない。
 巣では幼虫と女王が待っている。たかが一匹の、それも替えの利く働き蜂の為にいつまでも時間を割くわけにはいかなかった。残りの蜂たちは決まった量の蜜をきっちりと集め終えるなり、元来た道をそそくさと帰って行った。
 蜂はこの花畑で一体どこへ消えたというのか。もちろんどこかへ逃げてしまったわけではない。彼女もまた蘭を見つけ、自らの職務を全うしようと花へ取りつこうとした。
 だが、それは花ではなかったのだ。近付いた瞬間花だと思っていたものは素早く伸ばした両の鎌で蜜蜂をしっかと捕らえ、頭からむしゃむしゃと乱暴に喰らいついた。花によく似たかまきりが、息を殺してずっと伏せていたのだった。
 この若い雄のかまきりは無数の蘭の花に囲まれてもなお、見劣りする事なく美しかった。その狩りの方法もあり生まれてこの方食い逸れた事は一辺たりともなく、その身は朝露に濡れた花弁のように白く瑞々しく光り、傷ひとつなかった。花に群がる蝶や蜂は正直あまり食いではなかったが、彼自身は死なぬ程度に獲物へありつければよいと考えていた。
 だが。
「卑怯者」
 これで何度目だろうか。今日もまた仲間のかまきりたちが彼を見ては、臆病者だの邪道だのと罵るのだった。
「ひらひらと着飾りやがって、気取り屋が」
「自分より弱いものしか相手にしない」
「お前のやり方は、いつも獲物が罠にかかるのを手ぐすね引いて待っているだけだろう。かまきりの風上にも置けん」
 口々に言葉の暴力を浴びせてくる彼らは皆例外なく、花とは似ても似つかぬ無骨なくすんだ緑色をしていた。身体中傷だらけで羽は破れ、足の欠けている者すらいた。真正面から当たって獲物にありつけるのは良くて五分。常に腹を空かせては、ぎらりと眼を光らせていた。
 花かまきりは何も言い返さなかった。彼らの言う事にも一理あるとは感じていたからだ。確かに自分の生業は、他者を一方的に陥れる事で成り立っている。しかも非力な者ばかりを。同じ命を奪う事には変わりないが、それにしても生き様が些か陰険過ぎはしないか。そう考えると、折角持って生まれた美しい容姿も鼻にかけるどころか、まるで重い十字架のように彼の背中へと食い込んでくるのだった。
 絶望のあまり、花かまきりは旅に出た。遠い土地で誰にも会わず、ひっそりとその生を終えようと考えていた。
 しかし道中も厄介な事に腹はどんどん空いていく。致し方なくまた花のふりをしては獲物を捕らまえるのだが、満たされる食欲とは裏腹に心は飢えていく一方だった。
 遂には歩みを止めて、花畑の中で微動だにしなくなってしまった。無辜の虫が目の前にふらっとやって来ても、一切手を出す事はなかった。
 こうしている限り、誰も自分をかまきりだと思いはすまい。このままただそこにいて陽を浴びるだけの花に、いっそなれたら。
 両手の鎌を持ち上げて花になりきるその様は、まさに神へと祈りを捧げているかのように見えた。心は満ち足りたが、その身は見る影もなく痩せ細っていった。
 見かねて、一輪の花がかまきりに声をかけた。
「君は一体何をしているんだい」
 花かまきりは天を仰いだ。声の主は背の高い撫子だった。
「花になろうとしているのです」
「君はかまきりだろう」
「でも、こうしていれば少しは花に見えるでしょう。誰も傷付けず生きていけるあなたが、私は羨ましい」
 撫子はこれにしばらく考えた後で、「そうでもないさ」と答えた。
「茎のところ、そこから見えるかい」
 じっと目を凝らすと、そこには蟻の死骸が粘液でべっとりと磔になっていた。きっと花の蜜を狙いによじ登る途中で引っかかったのだろう。
「そうやって虫を捕まえて食べるのですか」
「いや、ただ引っかかるだけさ。この後も別にどうもしない」
「そんな……何故」
「生まれつきこうなってるって他に、大した理由はないんだ。どうだい、まだ僕の事を羨ましく思えるかい?」
「……」
 自分の信じていたものですらそうなのか。かまきりはその場に膝を折って崩れ落ちた。撫子はその姿を見て何かを悟った様子で、ゆっくりと続けた。
「仲間はね、僕の事を残酷な虫取り撫子と嫌っているよ。でもまた別のところでは、小町草、なんて素敵な名前で呼んでくれる。そんなものなんだ」
 二人の元に、蝶が蜜を求めてやって来るのが遠目に判った。かまきりが喉を鳴らすのを聞いても、撫子はただ風に揺れるだけで何も言わなかった。
 撫子の目の前でかまきりは黙ったまま、いつもの待ち伏せからその鎌を振るった。華奢な蝶の羽は見る見るうちに畳み込まれ、そのまま為す術もなく餌食となった。
 やはり彼は花でもかまきりでもなく、花かまきりなのだった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/08/13 光石七

拝読しました。
自分を責め花になろうとする花かまきりの姿が切なくて胸が痛みました。でも、撫子のおかげで吹っ切れてよかったです。
花に擬態して捕食する花かまきりは卑怯なのか? そういうふうにできているのだから、自然の摂理なのだから、しょうがないですよね。
人間が強欲のために仕掛ける罠に比べれば、なんと罪のないことか。
面白かったです。

15/09/02 海見みみみ

高橋螢参郎さん、拝読させていただきました。
自分自身が抱いているコンプレックスが、他人には美しく見える事もある。
自分らしく生きていく事の賛歌を感じました。
それが自分の生き方なら、全うしたいものですね。
罠という題材にピッタリの作品でした。

ログイン