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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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ナトシオア王朝終焉の内幕

15/08/10 コンテスト(テーマ):第八十八回 時空モノガタリ文学賞【 罠 】 コメント:11件 光石七 閲覧数:1308

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 弟を見舞った王ラトは宮廷医の言葉に愕然とした。
「ルーは二度と歩けぬと……?」
「恐れながら陛下、毒に神経を侵されたため御御足が……」
「そなた医者であろう? 治せぬのか? ルーはまだ十四、これからが……」
「申し訳ございません」
宮廷医はうなだれる。
「兄上、責めないであげて。命は助かったんだし」
従者に支えられながらベッドに腰掛けていたルーが口を挟んだ。淡い微笑みを浮かべる弟がラトには余計に不憫に思われた。
「……自害される前にあの者を捕らえるべきだった。王族の食事に毒を盛るなど……あらゆる拷問にかけ八つ裂きにしても足りぬ罪なのに……」
「でも、毒を飲んだのが兄上じゃなくてよかった」
「ルー……」
ラトはベッドに歩み寄り弟を抱きしめた。

「ハド、兄上は疑ってないよね?」
ラトが部屋を出た後、ルーは従者の青年に話しかけた。
「はい、お見事な演技でした。――先生、ありがとうございました」
ハドは宮廷医を退室させた。
「あー、疲れた」
ルーは立ち上がり、両手を広げ思いきり伸びをした。
「これから移動の際は車椅子にお乗り下さい。くれぐれもご自分で歩かれる姿を他の者に見られぬよう」
「わかってるよ。兄上を討つため、だろう?」
ルーの唇の片端が上がる。

 ルーが生まれたのは、父である先王の急死を受け兄ラトが十歳で即位した直後だった。他に兄弟は無く、ルーは第一王位継承者として育った。ラトは王の務めの傍ら弟を可愛がり、ルーは兄を慕った。兄の跡を継ぐのだとルーは勉学に励んだ。三年前に母が亡くなり、ラトは後見から離れて本格的に政務に取り組み始めた。ラトがルーを訪ねる機会は減り、やっと来られたかと思えば急な案件ですぐ呼び戻された。
「僕も一緒に行きたい。兄上の次の王は僕だし、政治を知っておかなきゃ」
「お前はまだいい。私は十歳で大人になるよう強要された。お前には楽しい子供の時間を長く過ごしてほしい」
自分を思いやっての兄の言葉。しかし、ルーは兄から突き放されたようにも感じていた。
 やがてラトの婚礼が決まったが、ルーの胸中に更なる疑念が生じた。
(結婚すれば子ができる。男子だったら当然その子が世継ぎ。そうなったら僕は……?)
いつか本で読んだ、わが子に王位を確実に継がせようと弟妹も親族も皆殺しにした残虐な王。
(兄上はそんなことしないはず)
自分に言い聞かせたが、不安が消えない。
「殿下、どうなさいました?」
ハドが声を掛けてきた。ハドはルーが一番信頼する従者だ。元は平民出身の一衛兵だが、お忍びで街に出掛けたルーが暴漢に絡まれているところを助けたことからルーに気に入られ、従者となった。
「僕、なんだか怖いんだ……」
ルーが正直に打ち明けると、ハドは頷いた。
「実際にそのような歴史もありますから、無理もありません。わが子への情愛は時に人を狂わせますし、寵愛する女性に唆される場合もあります。ですが、陛下はお優しい方です。殿下を無下になさるようなことが今までございましたか?」
「……あった」
ハドの言葉はルーの猜疑心を煽る結果となった。ラトは王妃を愛おしみ、ルーとの時間は更に減った。
(僕はもういらないの?)
ルーは胸に渦巻く不安をハドに漏らした。
「確かに近頃の陛下は殿下に冷たすぎます。殿下がお持ちの王の資質を恐れているのかもしれません。世継ぎが誕生されたらもしや……」
「僕は死にたくない! どうすればいい?」
「……先手を打つのです。ですが、陛下の力は強大で今の殿下では敵いません。油断させて隙を突くしかないでしょう」
ルーはハドが授けた策に従い、足の不自由な無力な弟を装うことにしたのだ。

 ルーが歩けぬことが公になると宮廷医が首を吊った。王弟を不具者にした責任を感じたのだろうと噂されたが、実際は金と地位の約束だけでは口封じにならぬと考えたハドの仕業だった。ほどなく王妃が懐妊したが、献上された薬草が原因で亡くなった。これもハドが裏で画策したのだ。ラトの悲しみは深かった。ルーはハドが用意した王妃そっくりの女をラトに引き合わせた。ラトはその女に溺れていき、やがて車椅子から降りた弟に斬り殺された。

「兄上に毒を盛られた僕は、身を守るために歩けないふりをした。そして国を立て直すため、女に現を抜かし政務を疎かにした兄を討った。――ハド、大した筋書きだよ」
即位式を控え、ルーは満足げに言う。
「恐れ入ります。しかし、まだ終わりではございません」
突然ハドの剣がルーの胸を貫いた。
「この王家の血筋は殿下で最後ですね」
血を流し倒れたルーにハドは告げる。
「私は前王朝の王族の末裔でしてね。今の王家を醜聞と共に滅ぼすことが先祖代々の悲願でした。殿下があんな小細工で私を信用して従者にして下さり、助かりました」
ハドの声を聞きながらルーの意識は薄れていった。


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このストーリーに関するコメント

15/08/12 滝沢朱音

おお、最後の最後に、別の罠が…!やられました。
兄弟同士の争いは歴史上にも多くて、古今東西かわらないもののようですね。
自分たちの首をしめるのと同義なのかもしれないのに。

15/08/12 夏日 純希

光石さんワールドの作品ですね。

兄が悪いことをしたわけでもないのに討たれた時点で、
弟がハッピーエンドを迎えることはない……
と思いながら読むと、最後のパンチがもう少し欲しくはなりました。

でも、2000文字で宮廷の濃い跡継ぎ争いを楽しめました。
楽しければそれでいいかと最近思ったりもする今日この頃です。

15/08/12 泡沫恋歌

光石七 様、拝読しました。

なるほど、中身の濃いお話でしたね。

こういう兄弟での権力争いはいつの世にもありますが、きっと、側近や従者にそそのかされて、
疑心暗鬼になって、兄弟で殺し合った王族も多いことでしょう。

2000文字にぎっしり詰まった、面白さでした(`・ω・´)ハイ!

15/08/14 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

本当にこのようなお家騒動があったかもしれないと読み進みましたが、最後のオチにびっくり! 
二重のお家騒動、罠にかけた者が初めから罠に嵌められていたとは。面白かったです、悪いことしてはいけませんってことですよなあ。

15/08/14 6丁目の女

王位継承や仇討ちといったスタンダードな設定を選択しながらも、最後の最後で読者をあっと驚かせる小気味よさ!限られた文字数の中で、無駄なく瑕疵なくまとめる筆力と表現力に安定感がありました。

いち読者として、まんまと罠にかかりました♪
この先、どんな出逢いが訪れても、「これは罠では?」と思ってしまいそうです(^^;

15/08/14 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

ナトシオア…オトシアナをもじったものでしょうか?
幾重にも重ねられた罠の構成がさすが、お見事です!
面白かったです。

15/08/15 光石七

>朱音さん
コメントありがとうございます。
やられたとのお言葉、うれしいです。罠を仕掛けて嵌めたつもりが実は自分が罠にかかっていた、というオチにしたかったので。
兄弟で争うって親から見れば悲しいことではないかと思うのですが、富や権力はやはりそれだけ魅力的なのでしょうね。

>夏日 純希さん
コメントありがとうございます。
み、光石ワールド、ですか……。自分では光石らしさというものがよくわからないのですが、何かしら共通するものを感じていただけたのでしたら光栄です。
はっきり言って、これ2000字で書く話じゃないですよね(苦笑) すべての出来事や言動を詳しく書けないので、描写が平坦になった部分や言葉足らずの部分がかなりあると思います。ラストの書き方も今一つだし、夏日さんが物足りなさを感じられたのも無理はないと思います。
率直なご意見はありがたいです。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
本当の宮廷での権力闘争にはもっとたくさんの人が絡んでいると思いますが、周りに唆されて……というケースは結構ありそうですね。
いろいろ端折っていて言葉足らずですみません。
“中身が濃い”“2000文字にぎっしり詰まった、面白さ”とのお言葉、恐縮です。

>草藍さん
コメントありがとうございます。
オチに驚いていただけてよかったです。まさに“罠を仕掛けたつもりの者が実は罠に嵌められていた”という話にするのが狙いでした。
いろいろ言葉や描写が足りませんが、楽しんでいただけたのでしたらうれしいです。

>6丁目の女さん
コメントありがとうございます。
過分なお褒めの言葉、恐縮です。
出会い自体が罠って現実にもありそうですが、できれば人の縁は疑いたくないし、信じたい気がしますね。……もしや、こういう人間が騙される?
少しでも楽しんでいただけましたら、幸いです。

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
ネーミング、気付かれるとはさすがです。“罠”の外国語や罠に関する言葉を探し、実在の地名などと被らないようアナグラムにした結果です。ちなみにラトは“ネズミ”からのネーミングで、ルーとハドは二人合わせると“ハードル”になるという、またもや内容とは関係ない細かいところに思考と労力を費やした光石でした(苦笑) 王朝名なんか、本文には一切出てきませんしね。
楽しんでいただけてよかったです。

15/08/17 冬垣ひなた

光石七さん、拝読しました。

とても奥深い作品でラストがあっと驚かされました。
王朝というのは罠だらけで、明暗も紙一重だったんだろうなと思います。
話の構成、キャラクター作りなどいつもながら参考になります。
楽しいお話をありがとうございました。

15/08/18 光石七

>冬垣ひなたさん
コメントありがとうございます。
本来2000字向きではない話を無理矢理詰め込んだ感じで、描写や言葉が足りていないのですが、ラストに驚いていただけてうれしいです。
ここ数年母が韓国ドラマの宮廷物をよく見ているのですが、権謀術数の凄まじさに驚かされます。
毎テーマ何故か〆切近くにならないと案が固まらず、練り方も推敲も不十分なのですが、皆様の感受性に助けられております。
こちらこそ、読んでくださり楽しんでくださり、ありがとうございました。

15/08/24 高橋螢参郎

拝読しました。
罠というテーマが正直自分は書きにくかったのですが、これはわかりやすくてお見事です。素直に脱帽しました

15/08/25 光石七

>高橋螢参郎さん
コメントありがとうございます。
設定としてはベタな気もしていましたし、本来もっと字数をかけて事細かく書くべき話を無理矢理2000字に押し込んだ感じでしたが、わかりやすいとおっしゃっていただけて救われます。
過分なお褒めの言葉、恐縮です。

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