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勝負

15/08/10 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:4件 るうね 閲覧数:1011

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「来たか、坊主」
「来たぜ、おっちゃん」
 俺とおっちゃんは、そう言葉を交わすと、にやりと笑い合った。
 夏祭り。
 くじ引きの屋台の前である。
 俺とおっちゃんの間には、ひも付きのくじ引きが置かれている。それぞれ商品にひもが付いていて、客が引っ張っると商品が持ち上がる、という縁日でよく見かけるタイプのくじ引きだ。もちろん、どのひもがどの商品に付いているかは分からない。
 代金は、一回、五百円。
 俺は五百円玉を、おっちゃんに手渡した。
「さ、どれでも好きなひもを引きな、坊主」
 言われるまでもない。
 俺は、まず商品を眺める。俺の狙いは、もちろんプラステ4だ。中央に置かれたプラステ4の箱は、他の商品と比べて異彩を放っている。いわゆる、客寄せだ。
 こういう客寄せの商品には、ひもが付いているように見せかけて、実は客の引く側には繋がっていないことも多いが、このおっちゃんはそういうことはしない。ちゃんと、午前中、屋台の準備をしている時に、そのことは確認してある。
 俺は、ひもに視線を移した。一つ一つ、ひもを確認していく。
 ……あった。
 俺はにんまりと笑う。
 中央よりやや右寄り、赤い印のついたひもがある。実は午前中、おっちゃんの目を盗んで、プラステ4のひもにマーカーで印を付けておいたのだ。
 おっちゃんは不敵に笑っている。
 が、勝つのは俺だ。
 俺は、赤い印のついたひもを思い切り引っ張った。
 が、持ち上がったのは、プラステ4ではなく、駄菓子がつまったビニール袋だった。
「な」
「甘いな、坊主。その程度の策に、俺が気づかないとでも思ったか」
 不敵に笑うおっちゃん。
 俺は、ちっくしょう、と天を仰いだ。


 やがて祭りも終わり。
 道端で駄菓子をやけ食いしていた俺のところに、おっちゃんがやって来た。
「不機嫌そうだな、坊主」
「そりゃ不機嫌さ」
「そうむくれるな」
 おっちゃんは、ぽんぽん、と俺の頭を叩くと、
「ほらよ」
 とプラステ4の箱を差し出してきた。
「え」
「やるよ。餞別だ」
「餞別、って」
「お別れの印、ってことさ」
「お別れ?」
「俺も、もう年だからな。来年は、この祭りにも来れないかもしれん」
「そんな」
「お前には、儲けさせてもらったからな。そのお礼さ」
 おっちゃんは、にやりと笑う。前歯が一本欠けていることに、俺はその時、初めて気づいた。髪にも、大分白い物が混じっている。
「おっちゃん……」
「あばよ、坊主。達者でな」
 そう言って、おっちゃんは立ち上がり、歩み去っていった。
 俺は、プラステ4の箱を手に、その背を無言で見送った。


 家に帰って箱を開けてみると、中には駄菓子がたくさん詰まっていた。
 ついでに、一枚の手紙。
『うっそぴょーん。また来年も来るぜ! がはははは』
「あんの嘘つき親父!」
 俺は腹立たしいような、それでいて何だかほっとしたような感覚とともに、そう叫ぶのだった。


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このストーリーに関するコメント

15/08/10 戸松有葉

箱に駄菓子というオチは読めましたね。「箱」が強調されていましたし、掌編だと「オチが近づいてきているからここから複雑な伏線回収はできない」とわかってしまうので。悪い読み手です。それはそれとして。勝負はおっちゃんの勝ちですが敗者のいない、いいお話でした。

15/08/10 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

うむー、読まれましたか。
と言いつつ、この作品はオチ勝負ではなかったりするので、悔しくなかったり。
ほ、ほんとだよ?
いつか、本当に来なくなる時に、おっちゃんはプラステ4を主人公にあげる気がします。
お読みいただき、ありがとうございました。

15/09/07 光石七

拝読しました。
主人公とおっちゃんの駆け引き、温かく味がありますね。
思いがけないラストにガクッときましたが、同時に微笑ましくてクスリとしました。
面白かったです。

15/09/08 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

昔は、主人公みたいに屋台のくじ引きに一喜一憂したものですが、いつの頃からかそんなこともなくなってしまいました。
この『勝負』は、そんな在りし日の思い出を記憶から掘り起こして書きました。少しでも子供の頃のワクワク感を思い出していただければ、御の字です。
お読みいただき、ありがとうございました。

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