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15/08/10 コンテスト(テーマ):第八十八回 時空モノガタリ文学賞【 罠 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:966

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 「おっ、、、とぉ」
 と人々は言う。停止中のエスカレーターを上ろうと二段目に足を下した時に。「今日のプレゼン噛みまくったなぁ」と階段の最上段に達していることに気付かず、なおも上り続けてしまった時に。「おっ」で驚き、句点の間で色々可能性を模索し、「とぉ」で結論に達するといったところか。すなわち、なかなか結論を出せずにいると句点がどんどん増えていく。そして、出された結論によって「とぉ」のトーンに変化が見られたりする。
 「おっ、、、とぉ」
 と私は言った。あまり良いトーンの「とぉ」ではなかった。枯草をミシミシ言わせながら「B組の沙織ちゃんと今日も目が合っちゃったなぁ」と気分よく歩いる際、突然穴に落ちてしまった時に。その穴は、直感的に、天然モンでなく人工モンだということはすぐに解った。
 「ぅわぁ、ハッハッハッぁ〜、すぅ〜、はぁ〜、すぅ〜、ぷぅわぁ、ハッハッハッぁ〜、死ぬぅ・・・」
 と相方の二人が同時に呼吸困難に陥った。が、どうやら心臓発作ではなさそうだった。どうやら私の不幸を一生懸命笑っているようだった。呼吸することも忘れて。冷たい北風が、彼らの背丈ほどあるススキを激しく揺らしていた。西の空には「あっ、お先ッスゥ」と太陽が退勤して行く。東の空から「オザーッス」と満月が出勤して来た。我々の青春中学生時代、最初で最後の作品となる秘密基地の玄関口での出来事である。
 我々にはその頃ロマンがあったので、その基地着工にあたり設計図や工程表など持っていなかった。設立の意義や目的も持っていなかった。持っていたものといえば、麦茶とおにぎりと麦わら帽子とタオルとスコップとワクワク感くらいか。夏休み二日目のとても暑い日だった。我々の背丈ほどあるススキが、防風の役目を勝手に務めてくれ、現場は蒸し風呂状態だった。しかし、ロマンがあるものにとって汗はさわやかなものである。
 我々にはその頃ロマンがあったので、粗大ゴミ収集所で歯をヤニでコーティングしているおじいさん相手に、「あのぉ、アレ、理科の実験で必要なので貸してもらえませんか?」と大きなソファを獲得するために物怖じせずに交渉したりした。おじいさんは何か返答してきたが、全く何を言っているか解らなかったので、笑顔で「ありがとうございます」とだけ大きな声で言って、即、運搬作業を開始した。1Kmにおよぶ徒歩での運搬作業中にオマワリさんに「おいっ!」と言われても、「理科の実験で・・・」と答えるつもりでいた。「何の実験だ?」に対する答えはロマンがあったので考えていなかった。
 我々にはその頃ロマンがあったので、役員独占の会員制はしかなかった。「公私」という概念をその頃持ち合わせていたわけではなかったが、今考えると「公」の色が濃かったような気もする。というのも、あまりにも完成度の高い作品だったので、ついつい私が学校でロマン色濃く自慢してしまい(相方の口は堅かったのですが・・・)、見学者がやたらと多かった。友達の友達の友達とか・・・。
 「よし、ギャフンと言わせてやろうぜ!」
 ある日学校帰りに寄った時、我々の基地が荒らされていることに気付いた。と言っても、私は「えっ?いつもどおりじゃん」だった。しかし、普段穏和な相方のタケシが「イヤ、(青年向け雑誌の)『ザ・ワースト』の位置が違う。」と目を吊り上げて言い張るのだ。どうやら『ザ・ワースト』と『ヤング・ドロップ』との配置が逆になっていたようで、それを外部の人間の仕業だと決めてかかっていた。ロマンがあるものの血気は盛んでなければならない。<何としてでも犯人を後悔させる必要がある>という新たな夢が3人の役員会で即議決された。
 そうなのだ。この、人を陥れる為の悪意に満ちた人工的な穴の作成者は、実は我々だったのだ。プロジェクトリーダー兼現場監督兼実働者を務めた私の、5作目にして自信作だった。「もうそれくらいの深さでいいんじゃないの?」とソファーに踏ん反りながら言うツヨシに、「甘いっ!」と一喝しながら創った作品。「枯草は面倒でも穴付近のものを使わないようにね。仕上がりが不自然になるからね」と素人の彼らに易しく留意点を細かく解説しながら創った作品。「イヤ〜、誰が落ちるかね、ウヘヘ。あのA組のキヨシかなぁ?ウヘヘ」の完工の式辞で締めくくった作品。

 屈辱

 穴からの脱出に成功した私は、穴の底に犬の糞を相方にも内緒でセットしていたことを、メガネをかけなおしながらふと思い出した。その頃、未来からいくつもの可能性に手招きされていた私は、「笑わせ致死」の容疑で逮捕されるわけにはいかなかったので、しつこく「死ぬぅ!死ぬぅ!」と叫んでいる相方の目を気にしながら、そっと靴底を確認した。
 「おっ、、、とぉ」


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