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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが最近になって、やっぱり小説家の夢を追い求めたい自分がいることに気づきました。久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説を書いてます。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 太宰治賞もしくは北日本文学賞で最終選考に残ることです。
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夢でもいいから

12/07/30 コンテスト(テーマ):第十一回 時空モノガタリ文学賞【 高校野球 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:1818

時空モノガタリからの選評

最終選考

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白鳥直美と窓際のテーブルに向かい合って座った。
冷房の効いた店内には、制服は違うが同じ高校生が何人か、中央のテーブルや隅のテーブルに友人達と一緒に座って、ハンバーガーを食べていた。
俺はダブルチーズバーガーを大口を開けて齧りつきながら、白鳥直美の話を聞いていた。
「とうとう来週だね」
「ん?」
「甲子園大会」。直美は笑みを浮かべたその口元でストローを咥え、マックシェイク バニラを口の中に吸い込んだ。
その後、窓の外に顔を向け、しばらく何かを考えるかのように黙ってしまった。
俺はそんな直美の横顔を、口の中に入っている物を咀嚼するのを忘れ、見惚れて見続けた。
突然、直美が俺に顔を向き直したので、口の中の物を変な所に飲み込んでしまい、そのせえで俺は咳き込んでしまうと
「どうしたの、コーラ飲みなよ」と、直美が言った。
咳き込んでいる時にコーラを飲むと、炭酸によって胃が膨らみ二重に息苦しくなった。
呼吸もしばらくして整い、直美を見ると可笑しい者でも見るかのように、目と口元に笑みを浮かべていた。
俺は、みっともない所を見られたようで恥ずかしく、残りのバーガーを口の中に詰め込みコーラで流し込んだ。

店を出た俺と白鳥直美は、駅に向かって歩いた。
「なあ、あのさ・・・」
「ん、何?」
「俺と付き合ってくれない・・・」交差点で信号待ちしている時に俺は直美に言った。恥ずかしさと返ってくる返事が怖くて、前を行き来する車を見ながら言った。
「来週から始まる夏の甲子園大会で、1本でもいいからホームラン打ったら付き合ってもいいよ」
今度は直美の目を見つめながら「絶対だからな。ホームラン打ったら俺と付き合ってくれよ!」と、自信に満ちた声で言った。
「うん。いいよ」
俺はホームランを打つ自信があった。小学生の時から所属していたリトルリーグでは4番バッター。中学の野球部でも4番バッター。そして今いる高校の野球部でも、もちろん4番バッターである。
甲子園大会優勝回数13回を誇るこの高校で、4番バッターを勝ち取る事は、実力以外に他ならなかった。

白鳥直美と駅前で別れた後、電車に乗って自宅に帰った。
心は躍るようで、電車の中で吊革に掴まっている時は、じっとしているのが辛いくらいだった。
父と2人で暮らす、雨風を凌げるだけはましなオンボロアパートに着いた頃は、西の空が朱色に染まっていた。
粗末な造りの玄関ドアを開けると、酒の匂いが鼻をついた。
靴脱ぎ場でスニーカーを脱ぎ、2部屋しかない部屋の居間に行くと、父が一升瓶の口に直接口をつけて酒を飲んでいた。
目の焦点と体をフラフラしながら
「よお、オマエよー、親に向かってただいまも言えねぇーのかー。バカヤロー!」
「ただいま・・・」
「おう。オマエよー、こんな時間までまだ糞野球でもやってたのかー!」
握り拳に力を籠めながら「父さん、やめてくれよ! 俺、来週甲子園大会に出場するんだぜ」
「バカヤロー。糞野球する暇あったらよー、バイトして親に酒くらい買ってこいよー」
「父さん、俺は高3だから、来週から始まる夏の甲子園大会で活躍したら、プロ野球の球団からスカウトがくるかもしれないだろ。そしたら・・・」
「うるせーんだよ。糞野球なんてやめちまえー」
「父さんが俺に野球の楽しさを教えてくれたんじゃないか!」
「黙れ! 糞ガキがー」そう言うと、立ち上がって掴みかかってきた。
2人はもつれあいながら、そのまま倒れこんだ。
父の上に跨った後、無意識に一升瓶を掴んで、それを父の頭に振り下ろした。


照りつける太陽。バッターボックスに立つ俺は焦っていた。
9回の裏、1ボール2ストライク2アウト。
この回で2点とらなければ、初戦敗退。
ピッチャーの顔が逆光ではっきりと見えないが、薄ら笑いを浮かべているようだ。
どうしても勝ちたい。どうしてもホームランを打ちたい。
ピッチャーが構え、ボールを振りかぶって投げた。
バットにボールが触れる感触が手に伝わり、バットに力を込めておもいっきり振った。
ボールは天に向かうように空高く上がり、向こう側の観客席に飛んでいった。
バッターボックスに立ったまま『やった! ホームランだ!』と、思った。
急に眩暈がして視界が揺れた。次の瞬間、地面に吸い込まれるように暗闇の中に落ちて行った。

目を開けると月明かりが部屋に差していた。
一体ここは? と思ったら自宅だった。
甲子園大会でホームランを打つ夢を見ていたのだ。
すぐ近くには、頭から血を流し目を開けたまま死んでいる父が倒れていた。
楽しい夢の続きを見ようと、もう一度目を瞑った。
だけど、父の恨めしい死に顔が、それを許さなかった。



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